依頼内容
「……また厄介な依頼を持ってきたもんだ」
目の前の少女から依頼内容を聞いた優斗は、その内容と依頼者の素性を知りやはり関わるべきではなかったと後悔する。
「何か言ったかの?」
「いえなにも。しかしよりによってその依頼を我々にしますかね?もう少しほかに適任者がいたのではないのですか?」
「もちろんお主たちよりも適任な者がおらんかったと言ったらウソになる。しかしそのような者たちは全員兄上や姉上たちに取られてしまっており、妾が頼れるのはここにおる騎士一人なのだ」
王子は難しい顔をしながらそう告げる。彼女の顔からは仕方なく『インフィニティーズ』を指名したということがよくわかり、優斗たちも依頼を受けた時期からして本当にそうなのだろうと理解することができた。
「じゃが妾は絶対に勝たねばならぬ!そうするしか幸せになる方法はないのじゃ!!」
少女は決意のこもった真剣な目で優斗たちに投げかける。
「だとしてもさすがに今の時期は遅すぎませんか?そもそもあと少しで開幕なのに、今から俺たちをエントリーすることはできるのですか?」
「それは大丈夫だ。エントリーは本番直前まですることができるし、それこそメンバー変更も直前まで可能だ。その点は心配いらんぞ」
王子はなぜか自慢げにそう答える。
「ちなみにですが、王子が参加を望まれるのは我々全員ですか?その大会には配下を何人まで連れていくことができるのでしょうか?」
「連れていける配下の人数には上限があってな、その数は大会に参加する中で最年長の王子と自分の年齢差によって決まるのだ。その結果妾が連れて行ける配下の数は五人であり、ここにいる騎士とお主らでちょうど五人になるのだ」
この大会では最年長の王子と五歳離れるごとに一人配下を加えることができ、年齢差が五歳以上十歳未満なら一人、十歳以上十五歳未満ならまた一人と言ったふうに増加させることができる。また最年長の王子も配下を二人まで連れていけることが許可されており、彼女は今回最年長の第一王子と年齢差が十五歳以上二十歳未満のため五人の配下を参加させることができるのである。
これは年齢が上の王子のほうが鍛えている期間が長いので才能の差を考えなければ単純に強いことと、長く生きていればそれだけ強者と出会える可能性が高いことから設けられたルールである。このルールのため勝者が常に年上の王子にならないので、それもこの大会が民に人気のある理由の一つであった。
「それで我々ですか……。しかしそうなるとここでの滞在期間を延ばす必要がでてくるな。失礼、この件は今ここで決めなければなりませんか?」
王子は優斗のその言を聞いて少し考えてから、慎重に言葉を重ねる。
「先ほども言ったように妾たちにはもう時間がなく、今の段階ではもうお主ら以上の強者を見つけることはできんのだ。なのでできればここで即決してほしいのだが……」
「そうなるとかなり難しいですね。こちらにも予定や先約があるためその調整が必要になりますし、何より今回の依頼はかなり政治的なものになります。そうなると即断即決というわけにはいかなくなりますので、今ここで決めろと言われれば大事を取って降りさせていただくことになりますが……どうでしょうか?」
女騎士がまた何か言おうとするが、王子はそれを制して優斗たちに向き直る。
「そこを何とか頼みたいのだ。ここでお主らに断られてしまえば、妾が勝つことのできる目が完全に消えてしまう。どうかこの通りだ!妾の依頼を受けてくれんか!?」
王子はそう言ってその小さな頭を下げる。王子が頭を下げた姿を見てまた女騎士が何か言いたそうだったが、王子の真剣な姿を見た彼女はそれを飲み込んで王子と同じようにその頭を下げる。そして優斗たちを案内してからずっと黙っていた執事も同様に頭を下げ、三人は綺麗な姿勢のまま頭を下げ続けていた。
「あ、頭を上げてください!僕たちはこの国の王子様に頭を下げられるほどの人間ではありません!!」
クルスがずっと頭を下げたままでいる三人に対して、非常に焦った声でそれをやめさせようとする。この状況でも冷静な他三人に対してクルス一人が慌てている光景は奇妙であり、それが気になった王子はクルスの言葉に従って頭を上げてから質問した。
「張本人である妾が言うのもなんじゃが、お主たちはこの娘と違い驚かないのか?」
「確かに驚きはありましたが、今はそれよりこの依頼をどうするかに頭を悩ませているので、そこに頭が回っていなかっただけです」
「そうか……。それで考えてくれたか?」
「ちょっと待ってください。やはりここで決断するとなるとある程度の時間をもらうこととなりますので、できれば一度部屋に戻って考え直したいのですが?」
「しかしのぉ……」
どうしてもこの場で即決させたいらしい王子が困った顔をしているのを見かねて、執事が王子に提案をした。
「王子、ここは一度彼らに時間を与えてみてはどうでしょうか?彼らの言う通り高位冒険者ともなるといろいろ予定があるでしょうし、なにより我々に聞かせたくないようなこともあるのでしょう。この場で決めさせるのは難しいのでは?」
「前者は理解できるが後者の我々に聞かせたくないこととはなんだ?彼らには何か秘密があるということか?」
「もちろんそれもあるでしょうが、私が言いたいのはそれだけではありません。例えば相談する中で我々に聞かせたくないような話題など、本人や第三者がいる前ではしにくいような話もしなければなりません。そのためここで相談するのは難しいのではないでしょうか?立場上王子もそういった経験があるのではございませんか?」
王子は執事の言葉を聞いて納得したように頷く。
「うむ。爺の言う通りかもしれんな。ならば明日もう一度ここで落ちあうということでどうだ?」
「こちらは大歓迎です。ぜひそうしてもらえますか?」
「ならばそうしよう。それと報酬だが、妾としては白金貨四枚を予定しておる」
「白金貨四枚ですか?」
白金貨四枚は確かに高額ではある。しかしこの規模の依頼となればもっと報酬が多いのが当然であり、優斗の感覚からすると白金貨四枚は安すぎるように感じた。
「もちろん白金貨四枚で終わるわけではない。勝ち上がれば勝ち上がるだけ報酬が増えていくシステムだ。この大会はトーナメント戦のため全部で三試合ある。一回戦で勝てば白金貨四枚プラス、その次の準決勝で勝てばさらに十枚プラス、そして決勝に勝ち妾を次期国王にした暁には、百二十枚の白金貨を報酬にする事を約束する」
「出来高払いというやつか……。(まあ報酬は最低限か。仮にも王族なのだからそれくらいの支払い能力はあるだろう。報酬に関してはぎりぎり許容範囲ではあるな)」
「他に聞きたいことはあるか?」
優斗は仲間を見て彼らが首を横に振っていることを確認すると、自分も王子を見てから同じように首を振った。
「ならばいったん解散にしよう。明日色よい返事が来ることを期待しておるぞ」
その言葉を聞いた執事が扉を開け、優斗たちは促されるままに部屋を後にした。