二日目
この世界に来てから二日目の晩御飯が終わったころ、優斗はダンジョンコアの前に全員を集めた。
「もう晩御飯も終わったことだし、そろそろDPを使ってみようか」
「わーい、わたちもかちこくなれるかも」
ダンジョンと同期しているというアコは、このダンジョンが大きく複雑になればなるほど成長していくらしい。
本人の話では力が強くなるわけではないらしいが、知能などはどんどん良くなっていくらしい。今のアコの知能は外見通りの五歳くらい、下手したらそれ以下であるが、それでも人の言葉を理解できるくらいの知能はある。自分が成長できると知って喜んだのだ。
「うん。DPが使われるところを見てみたいね。僕は新しいものを見るとたまにいいひらめきが出てくることがあるんだ」
一日目の夜はなにがどれくらいのDPになるか、そして召喚系の魔法やスキルについての実験と考察が主だった。それがある程度終わった二日目の夜からは、さっそく今日と昨日の狩猟採集でたまったDPを使ってみることになったのだ。
優斗たちの昨日の実験結果では、魔法で召喚したものに関しては死体を使おうがどうしようが時間制限があったが、スキルで作ったものに関しては死体を媒介にすれば一部の召喚モンスターは時間制限がなくなるみたいだった。
どれくらいのDPでどんなのが作ることができるのかはわからないが、場合によっては一部のモンスターはスキルで作ったほうが効率がいいかもしれないと考えていたのだった。
「でも、昨日見たあいつらってかなり弱かったんだよな。正直そこはちょっと心配だな」
優斗たちの中でスキルによる召喚が使えるのは、天人族のイリアと真祖ヴァンパイアのシルヴィア、それと悪魔族のエリアスの三人である。
三人が召喚した一部のモンスターは、死体を使うことによって時間制限なしにずっと存在し続けることができた。しかしそのモンスターたちは決して強いモンスターたちではない、というよりすごく弱いモンスターたちであった。生産職であるために戦闘力が低く、おまけに戦闘では魔法を使うため近接戦闘が全然ダメなエリアスにも肉弾戦で瞬殺されるほどの弱さである。
つまり、優斗たち高レベルのキャラにとっては紙同然のモンスターしか召喚できなかったのであった。
「昨日死体を使ってスキルにより召喚したモンスターたちは、たぶんあの死体たちのレベル相当だったんじゃないかな?僕の感触ではそんな感じだったんだけど二人はどうだった?」
「わたくしも同意見です」
「私もそう感じました」
召喚した三人は召喚の手応えから、召喚に使った死体と自分たちが召喚したモンスターの強さを感覚的に把握していたのだ。
「そうだったのか。狩ってきた獲物も召喚されたモンスターたちも弱すぎて気づかなかった。こうなるくらいなら、誰か一人くらいは召喚に特化させてみても面白かったな」
三人はスキルによる召喚が行えるとはいえ、それらのスキルは全然強力ではない。
三人とも職業ではなく種族特性により召喚できるだけであり、召喚するために必要な職業何一つとして取ってはいなかったからだ。召喚されたモンスターたちが媒介にした死体と同レベルの強さまでにしかならなかったのは、そういうことも関係しているように思われた。
「まあ今更そんなことを言っても仕方がないか。
じゃあとりあえずDPで何かモンスターでも召喚してみるぞ。記念すべきダンジョンコアによる初召喚モンスターだ。とりあえずはスケルトンにするつもりだが、みんなはそれで異論ないか?」
「何でスケルトンなんだ?こういう時ってゴブリンとかが普通だろ?」
質問したアシュリーだけでなく、そのほかの何人かも同様に不思議そうな顔をしている。
「ゴブリンが普通かどうかは知らないが、初召喚に限らずダンジョンコアから召喚させるモンスターは基本的にはアンデッド中心だぞ。少なくともある程度余裕ができるまでは基本的にはそうするつもりだ」
「だからなぜアンデッドなんだ?」
「そりゃ簡単だ。なんせアンデッドは食事睡眠不要だからな。
アシュリーが提案したゴブリンみたいな食事睡眠が必要な種族だと、その分食費などの維持コストがかかることになる。それに比べてアンデッドはそういった維持コストがまるでかからない。後は睡眠が必要でも飲食の必要はない種族でもオーケーだな。
ある程度DPに余裕ができる、もしくは何かが起きてそれら以外のモンスターを召還する必要が出た時のみ、ほかのモンスターを召還する。それまではアンデッドのような食事睡眠不要なモンスター、最低でも食事が不要なモンスターしか召喚しないぞ」
アシュリーを含めた不思議そうな顔をしていた面々は全員納得の表情を浮かべていた。
一人アコだけはよくわかっていなかったようだが、優斗は今のアコにこのことを理解させるにはかなりの時間がかかると思ったため、アコのためだけにこれ以上の説明はしないことにした。
「ではDPを使って、スケルトン一体を召還!」
優斗がダンジョンコアを操作してからそう言う(別にわざわざ声に出さなくてもダンジョンコアの操作だけで十分)と、一体のスケルトンがダンジョンコアの中から出てきた。
「やっぱ弱そうだな。ユズはどう思う?」
盗賊職であるユズは敵の力を測る能力にも優れている。
インフィニティの時だと、魔法やスキル、アイテムなどによって隠蔽されていなければ、敵のレベルからステータス、そして敵の所有するスキルまで読み取ることができた。それに隠蔽されていても生半可なものなら容易に突破できるほどの腕前なのである。
そのユズにかかれば、目の前のスケルトンのステータスを見るくらいは簡単である。もちろん、この世界にそんな概念があったらの話ではあるが。
「強さは大体レベル1くらいやな。後、やっぱりレベルとかステータスは見れんわ。大体どれくらいかわかる程度が精一杯やで」
「やっぱりそうなのか。ちなみにスキルはあるか?」
「いや、こいつにはそんなもんないみたいやで」
昨日から魔法なりスキルなりの力でステータスやレベルを見ようとしているが、大体のレベルとかステータスとかはなんとなくわかるが、ゲームの時のように正確な数値まで出ることがない。
「この世界にはレベルやステータスという概念がないのかもな」
「もしくはうちじゃ見れんという可能性もなくはないんやろうけど、魔法とかスキルが正常に作動しとる以上それはなさそうやな」
この世界に来てからも今のところ優斗たちの力はインフィニティの時と同じように作動している。死体を媒介にした召喚など一部ルールが変わったものもあったが、それ以外は基本的に同じであることが今のところ分かっている。
「後は今だしたスケルトンとは別のモンスターを出してみたり、同じモンスターでもDPを変えて違う強さにして召喚したりとかも実験しないとな。それにしてもやることが山積みだな」
「僕はいい刺激をもらってるけどね~」
このほかにも階層や部屋数の増加、ダンジョンコアにあるダンジョンモンスターのカスタムというよくわからない欄の解明など、優斗たちがしなくてはいけないことは多岐にわたる。
だが優斗たちにも休みが必要なため、この日はダンジョンコアを隠すためにダンジョンコア用の部屋を一つ作ってから、今だしたスケルトンと昨日召喚させておいて今も残っている召喚モンスターたちに警備をさせてから、十一人とも仲良く同じ場所で就寝した。