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依頼者

「入れ」


  優斗たちを先導してきた執事が、部屋の中にいる者から許可を取った。そして執事が部屋を開けると中には十歳くらいの獣人の少女が一人座っていて、その半歩後ろには騎士の格好をした一人の獣人女性が立っていた。


「よくぞ連れてきた。して、お主らがブルムンド王国から来たという金級冒険者『インフィニティーズ』で間違いないか?」

「それで間違ありません」

「そうであるか。ならば、お主たちにはランク相当の力があると見てよいのだな?」


  少女が優斗たちを品定めするような目で見る。その眼光は決して十歳の少女のようではなく、まるで獣のような鋭さであった。


「少なくとも、自分たちとギルドは『インフィニティーズ』が金級にふさわしいと思っていますよ」

「それはそうであろう。しかし問題は、本当にお主たちに力があるかどうかじゃ。失礼かもしれんが、冒険者にもランクと実力が伴っておらん者は珍しくないからな」


  冒険者の中にはたまたま運が良くていろいろ発見したりできたとか、ホームタウンにあるギルドの事情(例えばガドの大森林侵攻で主力冒険者を大量に失ったルクセンブルクが、早急に以前の力を取り戻すために冒険者のランクを上げようとし、実はランクアップの基準を以前より少し低くしていたこと)、それ以外にも卑怯な奴は手柄の横取りやギルド職員への賄賂にコネなどを使い、本来の実力とランクが合致していないことがしばしば起こりうるのだ。


  さすがに高ランクになればなるほどチェックの目が厳しくなったり数回まぐれが続いても簡単に上げてくれなくなるようになるのだが、それでもそのすべてを完全に防ぐことができるわけではない。

  冒険者のランクによる信頼度は決して低くはないが、それでも無条件で完全に信頼できるほど正確なものでないこともまた事実であった。


「確かに我々ではあなた方の要求水準には答えられないかもしれません。不正はしていませんが金級になってからまだ日が浅いため、他の金級冒険者に劣っている可能性は十分にあります。なので、我々は今回の依頼から降りようと思います」


  優斗はいい口実を思いついて心の中でガッツポーズした。本来なら依頼人に自分の力を疑われればそのまま引き下がるわけにはいかない。疑われたままだと依頼料を引き下げられたり、それが噂になって自分の実力を疑う者が増えるかもしれない。

  そうなればこの先冒険者をしていきづらくなるため、優斗も普通の指名依頼なら断るとしても自分の力を何らかの方法で誇示しようとしただろう。


  しかし優斗は元々今回の依頼がめんどくさそうだと予想しており、本当ならすぐにでも断りたいところであった。それにここは優斗たちが活動の起点にしているブルムンド王国ではないため、ここでこのまま引き下がったとしてもこの国以外で活動すれば問題ない。

  また今いるのは密会部屋であり、この部屋の性質上ここでの話が広まる可能性は低い。

 

  そのため優斗は幸いにも降りられる口実ができたのでそれに乗った。もしここで向こうに引き留められればこれを交渉材料に報酬を上げることもでき、そうでなければこのまま帰ればいい。もし恨まれても返り討ちにできるだけの力は持っているので、優斗はすぐさまこの依頼を断ろうとした。


「ほう。つまり妾の依頼を断りたいというわけか?」

「あなたが我々にどのような依頼をしたいのかは見当も尽きませんが、それでも自分たちには不可能であると判断すればその可能性は十分にあります」

「貴様!王子の依頼を断るというのか!?」


  少女の後ろに立っていた女騎士が怒りに満ちた目で怒鳴る。


「愚か者!今は妾が交渉しておるのじゃ。余計なことを言うではない!!」

「すっ、すみませんでした!!」


  少女に怒られた女騎士は、怒鳴っている時とは反対に元気がなさそうに落ち込んでいる。


「お主らもすまなかったな。それで、お主らは依頼を受けてくれるのか?」

「それは依頼を聞いてみてからでないと……やはり冒険者である以上依頼内容も知らず依頼を受けるということはできませんから」


  女騎士の発言に気になる部分はあったが、それでも優斗としては内容も聞かず依頼を受けるということはまったくする気がなかった。


「なら妾の口から伝えさせてもらうぞ。まずそこの騎士が言った通り妾は獅子王国の王族に連なるものであり、今代の王の娘である第十八王子だ」

「王女ではなく王子なのですか?」

「その通り。この国では男だろうが女だろうが王の子供には変わりないため、王女という言葉はなくあくまで皆王子と呼ばれる。もちろん他国では女の王子を王女と呼ぶところがあり、お主らの住んでいるブルムンド王国もそうである事は知っている。それどころかこの国以外では普通王の娘を王女と呼ぶ事も知っておるから、王子を王女と呼んだところで怒る者はほとんどおらん。

  そのため普段なら他国の者に王女と呼ばれても別に怒らぬのだが、しかし今の時期は絶対に王子と呼んでもらわねばならん」


「それはまたなぜですか?」

「お主らも知っておるかもしれぬが今は次期国王を決める継承戦の時期であり、もう後三日後にはそれが行われる。そこで勝ち残った者が王座に立つため、この依頼を受けてくれるなら特に妾を王子と呼ばねばならん。そうせねば何かとうるさい者もおるのでな」

「わかりました。とにかく文化的にそういうものだと考えておけばよろしいのですね?」

「そういうことだ」


  王子は一度水を飲みのどを潤した後、意を決して本題に入る。


「まず王位継承戦に出られるのは基本的に八人までだ。そして妾はその八人に選ばれたため、今回お主たちに依頼したのだ」

「失礼かもしれませんが、それに第十八王子が選ばれるのですか?」

「そうじゃ。お主は他国の者であるから知らんのかもしれぬが、この試合に出るのに生まれた順や性別は関係ないのだ。この試合に参加できるのは国王である父が正妻及び側室に産ませた子供全員のうち父が優秀だと判断した上位八人までであり、光栄なことに妾がそこに選ばれたのだ」

「そういう伝統なんですか?」

「うむ。最も優秀な子供を次期国王にするための制度なのだ」


  第十八王子という順番と今の年齢からみて、彼女が八人の中に選ばれたのはすごいことなのだろう。その証拠に後ろで女騎士が誇らしそうに胸を張っていた。


「あなたがそれに選ばれたということはつまり……」

「お主の察している通りだ。妾がそれに出ることになったので、お主らには妾が一緒に参加させることができる配下として雇いたいのだ。」

「……やっぱりそう来るよな」


  王子の発言に察しのいい優斗たち三人は『これまでの流れからいってまあそうだよな』と冷静に受け止めることができていたが、普段は察しが悪くないのだが依頼者が王子と聞いてそこで思考が止まってしまっていたクリスは大いに驚き、思わず王子のほうを二度見してしまっていた。

 

 

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