密会部屋
優斗たちがレムルス獅子王国の王都に来てから三日、四人は気まぐれに依頼をこなしながらも、主目的である王都の偵察兼観光を行っていた。とは言えそれはほとんど偵察ではなく観光であり、四人は冒険者ギルドや獅子王国にいるスパイ及び商会からの情報を参考にしながら、興味のある場所を順番に巡っていった。
今は夜になったので宿に来て休んでいる時間帯であり、四人は各自の部屋で思い思いの時間を過ごしていた。
「前世の庶民的な感覚からいうとちょっと豪華すぎる気もするが、最近は少しずつ慣れてきたな。それにこれだけの宿を建てられるのはかなり儲かっている証拠だ。俺にとってはいいことずくめではあるしな」
優斗たちが宿泊しているのは王都に最近できた新しい宿であり、そのグレードは貴族や大商人、そして金級以上の高位冒険者が泊まるのにふさわしいところだ。まだ歴史が浅いため他の高級宿と比べると一段落ちるが、それでも優斗が泊まるのに何ら問題がない宿であった。
その宿は今からちょうど半年前にできた宿で、そこを建設したのは今波に乗っている商会、つまるところ優斗が所有している商会である。
表向きは関係なくともその商会の実質的なトップは優斗であるので、商会を任せている部下に打診すれば当然優斗たちのために部屋を開けてくれる。
優斗としては自分の商会がやっている宿のため他のところに行くよりは安心できるし、なによりここで出た利益も最終的には優斗のものになるのだ。そのため優斗が新しい街に行くときはまず自分の商会が宿を建てているか聞き、そこが金級冒険者の泊まるべきグレードであると判断すれば迷わずそこに泊まるようにしている。
また『インフィニティーズ』の本拠地であるルクセンブルクにも宿を建てさせており、もちろん四人の定宿はそこである。
『コンコンコン』
「誰だ?」
「申し遅れました。私はこのホテルの従業員でございます」
「従業員か。それで、いったい何の用だ?」
「はい。なんでも、これからノーム様とお会いしたい申す方がお見えになられたそうです」
「……こんな時間に会いたいだと?そんな約束をしていた覚えはないが……」
「どうなさいますか?」
「それは俺一人か?それとも仲間も含めて全員に会いたいのか?」
「四人全員に会いしたいとおっしゃっておりました」
「わかった。支度しておくから、他の三人にも声をかけておいてくれ」
「かしこまりました。では支度が出来次第ロビーにいらっしゃってください」
「了解した」
優斗はラフな部屋着からいつもの仮面とローブを着た服装に着替え、何かあった時のために使うアイテムなどを確認して同じく部屋から出てきた三人と合流した。
「俺たちに用があるそうだが、三人は何か心当たりがあるか?少なくとも俺はこんな時間に約束していないし、四人全員をわざわざ呼び出すような人物に心当たりがないのだが」
「うちもないなー」
「俺もないぞ」
「僕もありません」
優斗だけでなくほかの三人も自分たちを呼んでいる人物に心当たりがないようで、四人とも首をかしげながらロビーに向かった。
「ロビーに着いたはいいが……これからどうすればいいんだ?」
優斗たちはロビーに着いた後どうすればいいか言われてなかったので、ロビーにいる従業員や自分たちを呼んだ人物及びその関係者などが話しかけてくるのを待った。さすがに三人の美少女?に囲まれたローブを着て仮面をかぶっているような目立つ人物を見つけられないはずがないので、すぐ誰かが話しかけてくるだろうと思われた。
「金級冒険者パーティー『インフィニティーズ』の皆さまですね?我が主がお待ちなので、私の後に付いてきてください」
六十歳は超えているだろうか?執事服をきっちりと着こなした白髪頭の獣人が話しかけてきた。彼のしぐさは洗練されており、それを見るだけで彼の主が身分の高い者である可能性が高いことが窺えた。
「あそこに向かうのか」
目の前の老人が向かう方向を見て、彼がどこに行こうとしているのか優斗は大体察することができた。
老人が向かった場所は宿の中でもとりわけ警備が厳重な場所であり、従業員ですら支配人の許可なく入ることができない場所である。その場所は貴族なり商人なりが密会するための場所であり、警備だけでなく防音にも非常に優れている場所であった。
ここに来るのは会っていること自体がばれたくない者たちがほとんどであり、どちらかの屋敷に行って会っていることがばれないようこういった宿で密会するのである。
それ以外に自分の部下や家族にすら絶対に聞かせたくない内容であるときも使われる場所であり、ここに来る者は何か訳ありの者たちであった。
「(しかしどんな奴が待っているのか……?)」
ここを使うということは、これから会う人物が優斗と会っていることを知られたくないと思っている証拠である。
優斗たちは冒険者だ。普通に依頼するのであればギルドを通せばいい話であるし、そうでないとしても自分の屋敷に呼びつければ済む話である。
こういう場でわざわざ話すということは十中八九ギルドを通していないだろうし、冒険者への依頼でなくとも何か面倒なことを言われる可能性が高いことは確かである。
考えれば考えるほどめんどくさくなってきた優斗だったが、一度了承してしまった上にこんなところに来る人物だからそれなりの権力を持っている可能性が高く、話し合った結果交渉決裂となるならともかく一度も会わずに今から去ることは悪手だと考えた。
「なるようにしかならない……か」
四人は様々なことを考えながらもおとなしく老人に付いていき、ようやくその主人が待つという部屋の前に着いた。