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強者の国

「な、なんと!あなた方は金級冒険者様なのですか!?」

「ええそうですが?それに何か問題がありましたか?」

「いっ、いえ!何の問題もありません!!どうぞお入りください!」


  まだ二十代だろうか?若い門番の青年が優斗たちの身分を確認した途端先ほどまでとは違い非常に慌てた態度を見せる。先ほどまではやる気なさそうに身分のチェックをしていた門番だが、優斗たち相手にはそれとは違い、むしろ光栄ですと言った感じの対応をした。


「それなら通らせてもらうか」


  優斗たちは門番が上げた大声のせいでそれを注目されていることをむず痒く思い、できるだけ早足で門から離れた。








「まずは冒険者ギルドに行くべきだな」


  冒険者だからと言って街に着いたらまずその街の冒険者ギルドに行かなければいけないというルールはないのだが、念のため何かトラブルがあった時後ろ盾になってもらえるであろう冒険者ギルドに顔を出しておくのは大切だし、ギルドに行くことでその街での注意点などを教えてもらえることがあるのだ。

 

  実際優斗がルクセンブルクから他の街に行ったとき、そこにある冒険者ギルドにあいさつしたらそのついでにその街で悪い噂がある貴族や商人のことを教えてもらえたのだ。もちろん疑り深い優斗がその情報をすべて信じるわけがないのだが、それでも参考程度にはなる情報だ。

  そんなことがあってから優斗が街に行くときはまずその街の冒険者ギルドに顔を出し、できればそこでいろいろな話を聞くことにしているのであった。


「ここが冒険者ギルドか……大きさはブルムンドの王都にあるやつとそんなに変わらないな」


  優斗たちの目の前には立派な冒険者ギルドの建物が建っており、その雰囲気はブルムンド王国にあったものとは違いもう少し親しみやすいものであった。というのも王国の貴族は獅子王国の貴族より外観を気にする性質があり、特にその王都の冒険者ギルドは外観も非常に立派なものなのだ。

  これは単純に国柄の問題であり、だからと言ってどちらが優秀だとか言う話ではない。しかし元庶民の優斗からすれば、比較的親しみやすい獅子王国のギルドのほうが好印象であった。


「今はまだ昼飯時だし、挨拶に行くついでに依頼を一つ二つ受けてみてもいいかもな」

「それもいいけど、ギルドに挨拶した後は早く宿に行こうぜ。馬を預けたり馬車の荷物を降ろしたりしないといけないだろ?」


  アシュリーも依頼を受けることに文句はないが、それよりも荷物を早く降ろして身軽になっておきたかった。

  今回が長旅であったとはいえ、四人は道中御者をすることも夜に見張りをすることもほとんどなかった。そういった負担はほぼ全てガドの大森林やダンジョンから連れてきた者たちが行っており、一番つらい夜の見張りも夜目が効き疲労も感じないアンデッドに任せていた。

 

  しかも優斗たちは時々転移魔法でダンジョンに帰って寛いだりしていたこともあり、長旅であることは負担であれど普通の人たちよりはずいぶん負担の少ない旅であった。

  そのため彼らの疲労は旅してきた距離や日数にしては小さく、これから依頼を複数こなせと言われても軽くやれるほどの体力は残っていた。


「ギルドの次に宿に行くことは賛成だが、荷物はともかく馬と馬車は宿に預かってもらうわけじゃないぞ」

「そうなのか?」

「ああ。帰りは転移魔法を使う予定だから、馬も馬車も邪魔になるだろ?だからどっちもここの商会に渡そうと考えているんだ。

  どうせ馬車を借りたのもうちの商会からだし、それを獅子王国にあるうちの商会に渡しても問題ないだろ?向こうの商会にもあらかじめそのことは伝えているから問題ないしな」


  優斗たちと獅子王国にある商会は表面上は無関係ということになっているが、裏ではつながっているどころかむしろ両方とも優斗のものである。

  優斗もまた長旅をしてルクセンブルクに帰るのはさすがにごめんであり、自分が転移魔法を使えることがばれようが絶対に帰りもまた長旅はしないつもりであった。


「でも転移魔法を使えることがばれてもいいんか?」

「ブルムンドにいる白金級パーティー所属の魔法使いが使えるみたいだから、その一個下の金級に当たる俺が使っても大きな問題にはならないと思う。転移魔法は少ないながらも使える者がそこそこはいるみたいだから、使用者がほとんど確認されていないため使えればそれだけで英雄扱いされる超級魔法などとは違いこの世界でも高位の魔法使いが使えても不思議じゃないようだ」

「ほんならええなぁ。うちもさすがにまたあの旅はごめんやで」

「それはみんなそう思っていると思うぞ」

「せやなー。もっと言うたら、うちら以外の旅人はこれ以上に嫌なんやろな」


  優斗は談笑しながらギルドの扉に手をかけようとしたが、「ちょっと待った。そういえば、ギルドに行くのは別に俺一人で十分なんじゃないか?」と言い出した。


「いやなんでや。別にうちらが行っても悪いことなんてないやろ?」

「そうかもしれんが……やっぱり行くのは一人でも十分じゃないか?だって四人で行く意味はないだろ?なら俺があいさつに行っている間に三人が商会に行って馬車を返したり宿に荷物を降ろしたりするほうが効率的でよくないか?」


  優斗の提案に三人は首をかしげて少し考えた後……


「そう言われればそうだな」

「僕も賛成です」

「うちもそれには賛成や。でも、ほんならうちらでもいいんやないか?別にゆう……あ違った、ノームじゃないといかん理由はないやろ?」


  と誰か一人が代表で行くことには賛成した。


「一応理由もあるぞ。まず俺が『インフィニティーズ』のリーダーなんだから、こういう時に代表していくのは自然な流れだろ?それに三人とも美少女(クルスは男)なんだから一人で行けばいろいろと問題が起こるかもしれない。だったら仮面をかぶっている怪しさがあるとはいえ、男の俺が行ったほうがいいと考えたんだ」


  この国では強い者に人気が集まる風潮が強いだけでなく、惚れた異性は自分の力を見せてアピールするものでもある。もちろん力ずくで無理やり夫婦になるのは論外だが、その異性と戦ったり他の同性と戦って自分の強さを見せてアピールする事も多いのである。

 

  特にこれから行くのは腕自慢がたくさんいる冒険者ギルドであり、そんなところに三人を連れて行けばたちまち求愛される可能性がある。特に三人は容姿がいいだけでなく金級冒険者ということでその強さも折り紙付きであり、この国の男性からしたら超魅力的であることは間違いない。

  そうなると三人に求愛した者はその本人や優斗を含めた他の三人の誰かに勝負を挑んだり、もしくは三人を巡ってライバル同士で戦いあう可能性がある。


  その点仮面で顔を隠した優斗が行けば怪しまれはすれど異性に求愛されるようなことはなく、三人のうちの誰かが行くよりはよっぽど騒ぎにはならない。

  騒ぎになるとしても金級冒険者という地位に関したものだけであり、おまけにリーダーが優斗であることから一番スムーズに用事を終えられそうであることは一目瞭然であった。


「ま……まあうちも、別に行きたいとは言うてへんけどな!」

「そうだよ!お……俺だって行きたいわけじゃねえんだ!」

「僕もお二人と同じです……」


  三人はどこか照れながらも、優斗が一人で行くことに賛成した。その後自分たちの動揺を隠すように早足で冒険者ギルドから去っていき、一人取り残された優斗は少し戸惑いながらもゆっくりとギルドの扉を開けた。

 


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