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小さな村

「ようやくここまで来たな」


  優斗たちが今いるのは獅子王国とブルムンド王国の国境であり、後数十メートル進めば獅子王国の領土にはいることができた。


「目的地まではまだかかるが、それでもここまで来るだけなのに面倒ごとがやけに多かったな。ここから王都までも同じようだとさすがに嫌になるな」


  優斗たちがここまでくるのに、かなりの日数と厄介ごとが起こった。最初に起こったのは子供だらけの自称盗賊団たちの襲撃だったが、その後も大人たちで構成された本物の盗賊団や知能の低い野良モンスターが襲ってきたりなどいくつかのトラブルが起きた。


  元々インフラがちゃんと行われていた日本出身の優斗からすれば時間がかかるうえに乗り心地もあまりよくない馬車、そしてならず者やモンスターが平気で襲ってくるような移動は彼の想像以上に苦痛であり、この不便さを嘆くとともに帰りは絶対転移魔法で帰ろうと誓った。


「せやなー。やっぱりこの世界の移動は不便やね」

「そうだよな。でも、不便だったおかげであの子たちを救えただろ?」

「アシュリーさんって、結構面倒見いいんですね」

「なっ、なんだよ!俺が面倒見よくちゃ悪いかよ!?」


  アシュリーが顔を真っ赤にしてクリスに詰め寄る。最初はぎこちなかったクリスだが、一年半以上も一緒に過ごしているうちにダンジョンメンバー、特に冒険者として街で共に行動している三人とは結構仲良く話せるようになった。

  ちなみに今では冒険者の時の変装だけでなく、偽る必要のないダンジョンで過ごしている時も女装をするようになっていた。本人曰く変装のためにしていたはずの女装が癖になってしまったらしく、元から備わっていた美貌や彼のファッションセンスなどが磨かれた結果ルクセンブルクでも一二を争う美少女として有名になっていた。


「でもあの子たちが元気でやってくれるなら、種族が違えど同じ孤児として僕も嬉しいです。僕たちの村を滅ぼした人間のことは恨んでいますが、あの子たちには何の罪もありませんからね」

「まあ今は色々と教育しとる段階やけど、うまくいけばいろいろと手伝ってくれるんやないの?うちらみたいに冒険者にしたり、うちらの商会の従業員になってくれたりするんやろか」


  あの孤児たちは今、優斗が森の中央付近に作った小さな村で色々と教育を受けながら暮らしている最中である。そこで読み書きや算術、さらに魔法に武器や体術などの戦闘技術を含めたいろいろなことを教え込んでいる最中である。

 

  優斗が孤児たちを育てているのは彼らに同情したという気持ちもあるが、それと同時に孤児たちを育てることで将来的に役に立ってもらおうと言う算段もあった。

  例えば冒険者として優斗たちが今やっているようなことをしてもらったり、商会の従業員として働いてもらったりするつもりである。特に人族以外の他種族に関してあまり寛容ではないブルムンド王国で働くには人間のほうがかなり有利なため、彼らには信頼できる人間(商会の秘密である転移魔道具のことを教えることができるほど信用できる内部の者)の従業員としての働きも期待されている。


  それ以外にも鍛えればダンジョンやガドの大森林防衛時などで戦力になれる可能性もあり、彼らはこれからじっくりと仕込まれていくのだった。


「それに……あの村のためにもいいしな」


  最初は彼らを外部に見つかる可能性が限りなく低いダンジョン内部で育てようとも考えたが、優斗はもし孤児たちが将来裏切ったり敵に捕まって尋問され情報を奪われた時にダンジョンの存在およびその内部情報が漏れてしまわないように、ダンジョンに住まわせないだけでなくそれらのことは一切教えないようにした。

  実際ダンジョンモンスターたち以外でダンジョンのことを知っているのはいまだにクリスくらいであり、クリスの知った経緯から考えても優斗たちが自分からダンジョンのことを他者に教えた例は一度もない。

 

  それだけ優斗は慎重派であり、ダンジョンのことが極力ばれないように細心の注意を払っていたのだった。


  そして孤児たちが住むことになった村は、元々ガドの大森林の中で優斗たちが降した種族たちが連携をとるための前段階として作られた村である。そこにそれぞれの種族から数人ずつ選んで移住させ、複数の種族での共同生活を送らせる事が目的だ。特にお互いに仲の悪いダークエルフとエルフでも、最悪非常時にはちゃんと連携できるようにすることも目標の一つにしている。

 

  優斗としては別に無理やり仲良くしろとは言わないし、直接的な嫌がらせをしないのであればその関係性に文句を言うことはない。優斗からすれば基本自分に従ってくれていればそれでオーケーであり、力ずくで仲良くさせるのはあまり好まないやり方であった。

 

  平和な世界ならそれでいいのかもしれないが、優斗たちも戦ったようにこの世界は平和とは程遠いといえる。今でも外からガドの大森林に入ってくる冒険者はいるし、北にいるモンスターも含めていつ戦争になるかわからないような状況である。

  そのためもしもそうなった時のために準備は必要だし、下手したらダンジョンモンスターを含め全勢力が協力しなければ勝つことができない程の敵が現れる可能性もある。そしていざそうなったときに仲が悪すぎて足を引っ張り合ったりされるとたまったもんじゃない。

 

  それに両者みたいに仲が悪くなかったとしても、種族的な問題から協調することが難しい場合もある。そういうところも含めて多数の種族を支配下に置くのならば、トップだけでなく個人個人の相互理解が必要であった。

 

  最初は住民間のトラブルが頻繁に起こっていたが一年たった今ではそれも半減してきていることから、お互いのことを知り種族の垣根と言うのが段々となくなってきていることも証明されている。そして孤児たちがその村に住むことで、そこの住民たちは人間に対しての理解も得ることができるようになるだろう。


「今国境を越えましたよ!」

「おお!なんか別の国に入ったと考えるだけで少しワクワクしてくるな。まだ数メートル入っただけでブルムンド王国との違いを全く体験していないにもかかわらず、なぜか気持ち的には変化が起こるよな」

「その気持ちはよくわかる。ここまで苦労したから余計にそうなるよな」

「せやな。それにここは獣人の国、つまりうちが主役と言ってええんやないか?」

「……それはどうでしょうか?」


  彼らを乗せた馬車はそのまま目的地である王都に向かう。優斗はまた厄介ごとが起こらないといいなと願うとともに、馬車どころか歩きで、しかも荷物を持って長距離を移動していた昔の日本人たちを素直にすごいと尊敬する気持ちが生まれていた。


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