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子供たちの事情

「お……おらたちはどうしちまっただー?なしてこんなとこで寝てんだー?」


  子供ばかりの自称盗賊団、その中でも一番年長の彼を筆頭に子供たちは、今自分が置かれている状況が把握できないでいた。


「やっと起きたか」

「あんたらはさっきの馬車に乗ってた人たちかー?なんであんたたちがおらたちのとこさいるんだー?」

「……思ったより冷静だな」


  自分たちの置かれている状況がまったく理解できていないにもかかわらず、あくまでのんびりした自分の口調で話す少年を見て、優斗はそのマイペースぶりにある意味感心した。


「今の状況が知りたいのなら俺についてこい。こちらもお前たちに聞きたいことがある」


  優斗がそう言って歩き出すと、後ろからその少年が黙ってついてきた。そして優斗についていった先には、少年の仲間のなかでも年長の部類に入る者が数人いて思い思いに食事をしていた。











「それじゃあ話を聞かせてもらおうか」


  後から来た少年も含めて全員の食事がひと段落したところで、同じく食事をひと段落させた優斗が切り出した。


「そん前に教えてくれねぇかー?おらたちがいるここはどこなんだー?それになんでおらたちに食事をくれるんだー?仮にもおらたちはあんたたちを襲った盗賊団だぞー?」

「どうしても何も……まあ簡単に言うと罪悪感とか同情心みたいなもんだ。それに俺たちはお前たちに襲われたくらいでどうにかなるような戦力じゃない。あんなのは蚊を殺すのと同等、いや素早く動き回らない分蚊を殺すよりも楽な仕事だ。

  後言っておくがここはあの場所からかなり遠く離れた森の中で、お前たちが徒歩で戻るには最低でも数か月、それこそ一年以上かかってもおかしくはないほど離れた場所だぞ」


  彼らがいるのはガドの大森林の中であり、優斗が転移魔法で全員森の中に運んだのである。もちろん自分たちの情報を極力知られないような場所に移動したため、そこはダンジョン内部でもエルフやダークエルフのコミュニティーがある場所でもなかった。

  しかしその周りには子供たちに気づかれないようにダンジョンモンスターが警戒を続けており、モンスターに襲われる心配も子供たちに逃げられる心配もする必要はなかった。


「どうやってそんな早く移動しただー?」

「馬車で移動した。お前たちはそう思っていればいい」

「……わかっただー。そういうことだと理解しておくだー」

「(見た目や口調とは違い賢い奴だ)」


  彼にも疑問はあっただろうが、優斗の雰囲気や自分たちの置かれた状況を考えあえて言及しなかったことを優斗は感じ取り、目の前の少年に対する評価を一つ上げた。


「何言ってんだよ兄ちゃん!あいつらぜってえ何か隠してるぜ」

「それは今言及する問題じゃないだー。それに話題に出すべきじゃないだよ」

「だけんど!!」

「オラに任せてくれんかー?」

「う……わかった。兄ちゃんに任せる」

「それがいいだよ。おまんらもそれでいいかー?」

「それでいいですよ」

「こういうのはあんたに任せたほうがうまくいくしね」

「そうだな。悪いがお前に任せるよ」


  子供たちの間で代表者が決まった。優斗は目の前で真剣に会議する子供たちを微笑ましい目で見ながら、代表者が決まったタイミングを見計らって声をかけた。


「それで、俺がした質問には答えてくれるのかな?」

「当然だー。この状況でオラたちばかりが質問するのはおかしいだ。ちゃんとさっきの問いには答えるだよ」

「ならば話してくれ」

「話せば長くなるんだが……」


  少年が自分なりに言葉をかみ砕きながらその境遇を説明していく。他の子たちもその説明を頷きながら聞いており、優斗たちも静かに最後まで聞いた。


「大体分かった。だが説明されてもわかりずらいところがいくつかあったので、そこを質問させてもらってもいいか?」

「当然だー。オラに答えられることならなんでも答えるだよ」


  優斗はいくつか質問をし、彼なりに子供たちの事情を把握することに成功した。もちろんそのすべてが事実ということを裏付ける証拠はないが、それでも子供たちの様子からしてそのすべてが嘘でないことはよくわかった。


  子供たちの事情をまとめるとこうである。

  まずある村に大変親切で人のできた老人がいた。彼はこれまでの人生で貯めた資金を元手にその村で孤児院を営んでおり、そこでたくさんの孤児たちの面倒を一人で見ていたそうだ。優しい老人により育てられた孤児たちは幸せであり、その孤児院には笑顔があふれていたそうである。

 

  しかし昨年その老人が死んでから孤児院の状況は大きく変わった。その老人がいなくなった途端村人たちは人が変わったように孤児たちを迫害し、その老人が孤児たちのために残した遺産を無理やり奪ったのだ。

  挙句の果てには孤児たちを無理やり奴隷商に売ろうと画策し、それに気づいた孤児たちはこれ以上搾取されないためにも村を出たのだった。


  村を出て村人たちの手から逃れたのはよかったが、所詮子供たちだけでは生きていけない。困った孤児たちは一か八か盗賊のまねごとをして稼ごうとした。

  優斗たちに捕まっているのがその孤児たちであり、彼らにはもう後がないという話であった。


「かなり胸糞悪い話だな。しかしそうなると……特に問題はないのか?」

「何の話だー?」

「そうだな……。まず一つ聞くが、お前たちには現在帰る家や帰りを待っている人などはいないんだな?」

「当然だぁ!オラたちの住んでいた家は村人連中に取り上げられちまったし、孤児であるオラたちの家族はここにいる兄弟姉妹と亡くなった爺ちゃんだけだ!!」


  少年は感情をこめてそう告げる。彼が自分たちを踏みにじった村人たちに怒りを覚えていること、そして血はつながっていなくとも一緒に暮らしてきた孤児たちとの絆の強さが窺えた。


「その村人たちがお前たちを探しに来る、もしくはどこかに捜索を依頼する可能性はあるか?」

「わかんねなぁー。でもー、少なくとも必死で探すことはないだよ。あいつらにとってオラたちは小遣い稼ぎの道具みたいなもんだろからなー。ましてやお金を払ってまで捜索することは絶対にありえないと思うだよ」


  少年は自分で言っていて虚しくなったのか、今度は先ほどと違いどこか悲しげな表情をしている。


「ならば最後に聞かせてくれ、お前たちはその村に戻りたいか?」

「「「「「それは絶対にない!!」」」」」


  ここに関しては黙っていられなかったのだろう、これまで会話に入ってこなかった子供たちまでもが口をそろえて同じ言葉を言った。


「なら一つ提案がある。のるかそるかは……全員で話し合ってから決めろ」


  優斗は笑みを浮かべながらそう言うと提案した後に子供たちを一か所に集めさせて、彼らに自分たちだけで相談する機会を与えた。



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