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獅子の国へ

  優斗がこの世界に来てから二年、そしてルクセンブルクに潜入し冒険者になってから一年半が過ぎたころ、着実に実績を積み上げてきた『インフィニティーズ』は、ルクセンブルクでナンバーワンの冒険者というだけでなくすでに金級冒険者パーティーにまで上り詰めることに成功していた。

  以前『暁の星』がリーダーを残して壊滅したためブルムンド王国に四組になった金級冒険者たちであったが、『インフィニティーズ』ともう一組の昇進により現在六組の金級冒険者がこの国に存在していることになった。


  ガドの大森林侵攻や『ウルフファング』の行方不明により主要冒険者の抜けたルクセンブルクにおいて繰り上がりでナンバーワンになった『インフィニティーズ』だったが、地道(普通の冒険者からしたらあり得ない仕事の早さと量だが)に実績を積んできた彼らはすでに誰からも認められるようなルクセンブルクナンバーワンパーティーになっており、冒険者だけでなく街の住人からの人気も博するようになっていた。


「なんかこの街も歩きずらくなったな。すれ違う人のほとんどがこちらを見てくるというのは、相手に悪気がなかったとしても居心地が悪いものなんだな。有名人が街で変装したくなる気持ちがよくわかったよ」


  優斗も最初はみんなに注目されることに対してネガティブな思いはなかったのだが、何度もそうされるうちに煩わしくなってきたのだった。


「まあしょうがないぞ。なんたって俺たちは金級冒険者なんだからな!」

「アシュリーはそう言うけど、やっぱりずっと注目されるというのはいいもんじゃない。もう少しそっとしておいてくれたら楽なんだけどな」

「せやろか?うちはこの注目が心地ええけどなぁ~」

「僕は嫌です。これだけ見られてると、いつ正体がばれるか不安になります」


  優斗以外のメンバーの反応も三者三様であり、それぞれの性格や境遇からくる違いがあった。


「しかし……この冒険者活動もどれくらいまで続けるだろうべきか……?」


  優斗はすでに冒険者として精力的に活動することによるメリットをあまり感じなくなっていた。もちろんまだ金級冒険者の地位や名声は十分な利用価値があるし、今ある冒険者としての身分を捨てる気はさらさらない。

  しかしもはやこれまでのように精力的に活動する必要はなくなってきており、冒険者になった時の目的のほとんどは別の手段で達成することができている。


  優斗の中では冒険者としての活動を抑えめにして、別の仕事のほうに注力したほうがいいんじゃないかという考えが最近よく浮かんでくるのだ。


「情報も金も……今はもっと手っ取り早く集まるからな」


  優斗はこの二年で、というよりガドの大森林の北以外を制圧し支配下に置いたときから、周辺諸国に対していろんな手段を講じてきたのだ。


  まず優斗は商会を三つ所有している。その商会はそれぞれブルムンド王国と都市国家群、そしてレムルス獅子王国に一つずつ存在しており、始まってまだ一年くらいしかたっていないとはいえどちらもすでに中堅規模にまで成長していた。

 

  商会の元手は『インフィニティーズ』が稼いだ金とダークエルフたちが都市国家群との交易で得た金であり、ダンジョンモンスター(街で追い出されないような容姿の者)やエルフ、ダークエルフなどを従業員にして成り上がっていった。

 

  王国では人間と見分けがつかない、もしくは人族や獣人族に化けることができる者しか送れなかったが、その商会のトップに冒険者として名をはせていたユズを置くことで、冒険者ギルドなどのコネでちゃんとした現地人を雇うこともできた。

  都市国家群や獅子王国は王国と比べて多様な種族が住むため、エルフやダークエルフはもちろんダンジョンモンスターでも大丈夫なのがたくさんいた。そのため、その二つでは現地人をほとんど雇わずとも人手が確保できた。


  優斗たちが成功できたのは元々の商才や優斗が日本で経験したテクニック及びこの世界にはない、もしくはまだ広まっていないアイディアを持っていることも当然あるが、それだけでなく下調べがある程度できていた(王国では優斗たちが冒険者として、都市国家群では交易していたダークエルフを通じての情報など)ことや、なによりその戦闘力とエリアスが作った転移魔道具のおかげである。


  商売をするというのは色々と危険が付きまとう。特にこんな世界だ、日本でいうヤクザ的な人たちなどからの嫌がらせが堂々と行われているのである。優斗が作った商会にも当然そういう嫌がらせはきたが、それらは雇っている従業員(現地採用された者以外)が正面から叩き潰して黙らせた。

  また優斗は表だけでなく裏の情報もほしかったため、商会にちょっかいをかけてきた勢力を力でねじ伏せてから従え、逆にその街や国の裏にもどんどん勢力を広げていった。


  そしてエリアスの作った転移魔道具は非常に役に立つ。作るのにたくさんの希少素材を使う羽目になり、それを出すためにかなりの量のDPも消費したが、それでもその価値は十分にあったと思わせるだけの働きをしてくれている。

 

  転移魔道具は二つ一組で成り立っており、一方からもう一方に物体を送ることができる魔道具である。しかもそれは一方通行ではなく、相互に送り合えるのもまた利点の一つである。そして魔力さえあればいくらでも動くため、特別な技量がなくともある程度の魔力量を持つ者なら誰でも使えるものだった。

  本当は携帯のように一つで複数とやり取りできればよかったのだが、それはまだできないので研究中である。しかしそれでも十分すぎる効果を持つことは間違いなく、優斗たちはその魔道具を使うことにより街から街への物流にかかるコストをほぼゼロにすることに成功した。

 

  車や新幹線、そして飛行機などが整備され物流がスムーズになっている日本でもこの魔道具は非常に有益なものだ。ならば日本よりも明らかに物流が劣っていて、場合によっては商品が途中でモンスターや盗賊に襲われて届かないこともざらにあるこの世界では革命的すぎる魔道具である。


  それらを駆使した商会は金を稼ぐだけでなく、その街や国の様々な情報を得ることができる。また優斗は新たに周辺国の情報を得るための部隊、いわゆるスパイを送り込むことにより周辺国の情報をたくさん得ることに成功していた。

 

  優斗たち『インフィニティーズ』はルクセンブルクを中心に活躍しており、その活動は主にブルムンド王国の東に集中している。そのため各街にいる商会やスパイ程情報を得ることができず、今や冒険者としての地位と名声くらいしかメリットがなくなっていたのだ。


「……こうなったらいっそ、獅子王国にでも行ってみるか」


  優斗としては一年くらい前に王国と戦争をした公国も気になるのだが、そこはまだまだガドの大森林とは接していないため今のところ危険性や緊急性は低かった。

  優斗は冒険者としてブルムンド王国内はある程度見たため、今度はその隣の獅子王国を見ておきたいと考えた。また強者を尊ぶ獅子王国に行くなら金級冒険者の称号は大いに役立つので、せっかくだから役割が薄くなってきた冒険者としての身分も活かしたいというけち臭い考えも含まれていた。


「まあええんやない?むしろ敵国になる前に見ておいたほうがええかもやしな」


  優斗が大森林の四分の三を支配していることや彼の住処であるダンジョンの性質を考えると、隣国とはいつ戦争になってもおかしくはない。今は優斗たちがダンジョンの存在を隠し森の支配者が変わりつつあることも外に漏らさないようにしているが、それもいつかはばれてしまう可能性が高いといえる。

  そうなれば戦争になる可能性を否定することはできず、いったん敵国になれば身分を偽装しているとはいえその国には入りにくくなる。


  ユズの言う敵でないどころかダンジョンの存在も知られる前に一度見ておけばいいというのは非常に納得できる理由であり、優斗以外の二人も大きく頷いていた。


「なら獅子王国に行くか」


  さすがに名の知れている冒険者である『インフィニティーズ』が黙って獅子王国に行くことはできないため、冒険者ギルドや街にいる知り合いに獅子王国に行く旨を伝えた後、ルクセンブルクにある自分の商会に馬車を用意させ正攻法で獅子王国に向かった。


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