疑問
「おお!かなり頑張ったみたいだな。これだけあれば少なくとも後三日は持ちそうだ。明日は私も行ってみようかと思うのだが、どうだろうか?それと、幸か不幸か、このダンジョンへの侵入者はゼロだったぞ。おそらくは出入り口をふさいでいることが効いた結果だろう」
食事が必要な居残り組、その中でも種族的に食事をこのメンバーの中では比較的多く取るクレアが人一倍喜んだ。
「気にするな。それと明日の件だが、アコ以外の留守番組だった面々は全員外に出てもらうぞ。
俺たちは今日全員が動物やモンスターを狩った。俺たちの力は普通に使えたし通用もした。クレアたちも大丈夫だと思うが、念のため自分の力が通じるかどうか試してきてほしい」
「……強い奴いた?」
戦闘狂のヒルダがそう聞く。
「俺たちが探索した限りではいなかった。でも明日強い奴が出ないとも限らないから、明日行くメンバーもできるだけ用心してくれ」
「わかった。……強いやつがいれば楽しみ」
「それでは調理いたしますね。料理は飲食必須の方々の分だけで十分ですね?」
メイドであるシルヴィアは料理をすることもできる。優斗は料理を大事にしていなかったのでシルヴィアも料理が全然得意ではないが、それでもまずくない程度のものは作れる。料理経験者はシルヴィアだけなので、ここはシルヴィアが料理を作るのが最も賢い選択であるといえる。
「俺は構わないぞ。そういえば、この世界での料理って誰でも作れるものなのかな。もしかしたらシルヴィア以外でも料理することはできるんじゃないか?」
インフィニティでは、料理を作ることができるのは特定の職業を持っているキャラクターだけであった。しかし、これが現実なのだとすれば普通に考えて包丁で食材を切ったりフライパンで焼いたりするなどのことは基本誰にでもできる。もちろんその出来は料理人の腕に左右されるが、料理ができるできないで言えばできるはずである。
もしスキルを持っていないと調理すること自体ができないのだとすれば、料理以外のことにも影響が出る可能性がある。問題は、スキルや職業はその行為をするために必須なのかどうかということだ。
それにインフィニティの時はすでに職業もスキルも限界数まで取っていたが、ここはインフィニティの世界ではない。そのため、修行すればこの世界で新しいスキルや職業を取ることができる能性はある。
だが、反対にもうこれが成長限界とみなされて、これ以上能力がまったく成長しないということも考えられる。今後のためにも、一つ一つ検証していかなければならないと優斗は考えていた。
「わたくしから仕事を奪うと言うのですか。なるほどわかりました。それでは別の方が料理を作ればよろしいではないですか」
「すまん悪かった。そういうつもりはまるでなかったんだ。俺も直接食べることになるわけだが、頼むから俺たちのために料理を作ってくれないか?」
確かに料理自体はほかの人でもできるかもしれない。しかし、シルヴィア以外は料理をしたことが全くないはずである。ここはまともな調理環境ではなく、調味料だって全然そろってない。
あの少年は親切にも、優斗たちがインフィニティ時代に保持していたアイテムをすべてダンジョンに運んできてくれていた。優斗たちの装備にレアアイテム、入手してとっておいた金属なども含めてすべてこのダンジョンの中にあったのである。
優斗たちは全員スキルやアイテムにより、マジックボックスという空間を持っている。十人でその中に手分けしてそれらを保管しているのだ。
そしてその中には当然料理を作るために必要な調理器具や調味料がある。しかし、食事によるバフ効果などを軽視していた優斗だ。その調理器具や調味料は種類も少なくいいものでもない。ゲームの時は味なんて関係なかっただろうが、ここは現実である。さすがにまずい食事を食べてモチベーションを落とされても困るのだ。
インフィニティではあまりおいしいものを食べていなかったはずのNPCたちの舌がどれくらい肥えているのかはわからないが、それでもできる限りおいしい食事を食べてもらいたいと思った結果、料理のためのスキルや職業をもつシルヴィアに頼むしかなかったのであった。
「わたくししかできる人がいない以上こうなるのはわかってましたわ。ですが、食べないのに作るわたくしの気持ちもお考えになってくださいね」
シルヴィアは飲食不要のアンデッドの一種である真祖ヴァンパイアだ。いろいろと余裕のない現状では無駄な出費は避けるべき、という決定が優斗たちの中ではなされている。
そしてメアリー自身もその決定に賛成である以上、嫌味は言っても自分が作るのがベストであり、自分が食べないこともまたベストであると理解しているのである。
「ああ。感謝してるよ。じゃあ俺は今のうちに、食料として取っておかないことにしたものたちをDPに変えてくるよ」
「それはこの場でもできるのでは?」
「いろいろ実験してみたいんだよ。例えば何がどれくらいのDPになるとか、魔法やスキルでゾンビやスケルトン、悪魔や天使などにできるか、死体を生贄にすることができるか、そしてそれができた場合より強力になるかどうかなどが知りたいんだよ。こういうことも知っておいたほうが後々のためになるだろ?」
ダンジョンは、ダンジョンの中に死体を置いても自動的にそれを吸収することができる。今はそれをしない設定になっているが、そういう設定にすればダンジョン内のどこでも死体などをDPに変えることができるのだ。
この設定だと容易に素材をDPに変えることができるが、それだとなにがどれくらいのDPに変わったとかいうのがわからない。ダンジョンコアに直接吸収させる設定にすることで、なにがどれくらいのDPになったのか詳しくわかるようになるのである。
また、優斗たちの中には魔法やスキルにより悪魔や天使、アンデッドなどを召喚して使役することができる者がいる。しかしそれらはすべて時間制限があり、召喚した後もずっといてくれるわけではない。しかしこの世界ではそれも違うかもしれない。
それに、もしそれらを死体を媒介にして召喚したらどうなるか、そもそも召喚に死体を使役することができるかどうか、死体を使役したら強力になるかどうか、時間制限はこの世界でも、そして死体を媒介にしてもあるのかどうか、これらは今のところすべて未知である。
優斗は安全に暮らすための戦略を練るために、戦力の増やし方をいろいろ把握するための実験をすると言っているのだ。
「ならわたくしも終わったらそちらに向かいます。わたくしのヴァンパイア化も試したいでしょうし」
シルヴィアの種族である真祖ヴァンパイアは、生物の肉体を使うことでその生物を劣等ヴァンパイアに変えることができる。それを今持ってきた魔物や動物の死体で試すと言っているのである。
「助かる。俺とエリアスは先に行って調べておくから、シルヴィアは料理を作り終わったらこっちに合流してくれ。ほかにも召喚系のスキルや魔法を持っている人は食事終了後に実験に付き合ってくれよ。
それ以外は食器洗いなどの片づけ作業をした後に睡眠だな。一応結界を張ってあるし出入口をふさいではいるが、油断は禁物だぞ」
『はーい』
こうして、優斗たちが異世界に来て最初の夜は過ぎていった。