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閑話ー ブルムンド王国の受難

今日は二話投稿です。

また今回の二話(特に一話目)はいつもよりも長いです。

  ブルムンド王国の中心にある王都、そしてそこ建っている国の威厳を表すような立派な王城。ブルムンド王国で一番歴史と権威のあるその建物には、現在国内にいるほとんど貴族、それもそのトップである貴族家当主たちが集結していた。

 

  今回は国王直々の招集であり、名前を表に出していないとはいえ三大貴族も希望している招集であった。力があまり強くないとはいえ名目上は間違いなく君主である国王と、そのすぐ下におり国王とほとんど変わらない権力を持つ三大貴族、この四家からの招集を断れるような貴族は国内に存在せず、病気療養中で領地から出られない貴族家当主などを除くすべての貴族が王都に来ていた。


「今回の主な議題はどうせ西の戦争の結果についてだろうな……。とは言え、嫌みったらしい貴族どもは自分たちの失態を話題にされないためにも、こちらへ色々と嫌みを言うのは忘れないだろうがな!」


  例にもれず東の果てからわざわざ国の中心にある王都まで長い時間をかけて召集に応じたルクセンブルク伯爵は、これからの会議の内容と自分に向けられるであろう嫌みを想像して吐き捨てるように独り言を言った。


  今回の議題は確実に先日行われた戦争のことであり、その勝敗や結んだ条約の内容、そして戦での論功行賞や処罰の発表などであることはみんな分かっている。いくら今回の戦場とは正反対に位置している東の果ての田舎貴族だろうが、国である程度大きな戦争が起こったのならその結果くらいは情報として入ってくる。


  彼は今回の戦争に全く関与しておらず、兵はおろか物資の支援などにも無関係であった。そのため今回の戦で遠くの地にあるブルムンド王国の土地が減ろうが増えようが彼には直接的な影響がまったくなく、国から貴族という地位をもらっているから召集されたものの彼は無関係であり、これからどういうことが皆に伝えられるかもほとんど聞いていない状態であった。


  そのため会議の内容に関しては気楽なのだが、問題は自分が冒険者ギルドに依頼して行ったガドの大森林への侵攻である。

  もちろんこれは何ら違法性がない行為であり、王国としても未開地を勝手に開発しようがその者が王国に属しているのなら咎めることはない。


  もし開発が成功していれば他の貴族から多少の嫉妬は買っただろうが、それでもそれくらいで済むのなら安いものだ。開発が成功すれば自分の力はもちろん派閥にいる傘下の貴族の力も増すだろうし、それによって自分たちの派閥に鞍替えする貴族も出てくるかもしれない。

  また開発によって得た利益や利権を他の貴族にもある程度与えてやればその嫉妬を向けられることも少なくなるし、成功した時のことを考えて元からそういう対策は準備していた。

 

  しかし厄介なのはそれが失敗してしまったことであり、こうなると他の貴族たちはそれをネタに嫌みを言ってくることは間違いない。


  今回ブルムンド王国は西での戦争に負けた。騎士団や雇った冒険者などの活躍によりある程度は盛り返したようだが、それでも実質的に敗北したことには変わりないという情報が流れてきている。

  それによってどれほどの土地や賠償金を取られるのかは知らないが、それでも何らかの損はあるだろうし、何より国の名誉が損なわれたことには変わりない。


  戦争で負けたことにより、国王はもちろんそこに参加した貴族たちも色々と不利になるだろう。そもそも戦争をするだけでかなりの金がかかるのだ。戦争に必要な物資や武器、そして騎士団や徴兵した兵を用意するだけでも大変なのに、その上冒険者や傭兵なども雇っていた。

  戦争で勝ち敵から領土や賠償金を勝ち取れればよかったのだが、敗北した以上それに期待するのは間違っている。金銭的には間違いなく赤字であるうえに、騎士団や徴兵した農民などが死んだことによる人的な損失も大きい。


  戦争に参加した者たちの力が落ちた事実が消えることはないが、幸か不幸か今回は同時期に失敗した者がいる。それがルクセンブルク伯爵であり、彼が行おうとしたガドの大森林開発の失敗である。

 

  貴族たちは自分たちの失態を追及されにくくするためにも、彼の失敗をよく噂するだろう。自分の失敗を覆い隠すために他者の失敗を声高に叫ぶのは貴族の常套手段であり、今回の件でも大なり小なりそれが行われるだろう。

  戦争での敗北は到底それで覆い隠せるほどではないが、それでも自分たちのことを追及されにくくするためにそのことを話すのは確実である。もちろん必要以上にそのことを言い続けると逆に白い目で見られることになるが、適度に言い続けることで今回の件の失態を弱めようとすることは間違いないといえる。


  今回の戦争に参加した貴族たちは伯爵に嫌みを言うだろうが、伯爵は逆に戦争の件であまり嫌みを言うことはできない。戦争での敗北が大きな失態であることは間違いないのだが、今回の戦争には王と三大貴族、そしてそれに追従する形でたくさんの貴族が参戦していた。

  戦争の件に関して責めるということはそれらすべてを責めているということになり、多少は反撃できるだろうがやりすぎると逆に潰されてしまうことは必至である。


  もちろん伯爵の失敗は公に責められることではなく、今回の議題に出ることもないだろう。しかしそれ以外の場で貴族たちに嫌みを言われるのは間違いない。

  遠くからわざわざ来て嫌みを言われ、その上肝心の議題は自分には関係ないことときている。伯爵が今回の王城行きを渋ったのは当然であり、早く領地に戻りたいと思うのは彼の心情から考えて当たり前のことであった。


「おや?これはこれは、東にいるルクセンブルク伯爵ではないですか?」

「(早速来たか)」


  自分と同じ伯爵位に立ち、なおかつ今回の戦争に息子を参加させていた貴族が話しかけてきた。彼がこれからガドの大森林での失敗について何か言ってくることを確信した伯爵は、無視するわけにもいかないので内心で毒づきながらも作り笑いを浮かべて対応した。


  結局この後も色々な貴族と会い、そのほとんどから嫌みを言われた伯爵は苛立ちながらも早く時間が来るのを待ち、謁見の間に呼ばれると傘下にいる東の貴族たちと一緒に入っていった。

 








「我が国の貴族たちよ、この度は余の召集に応じてもらい感謝する」


  まずは玉座に座った国王が貴族たちに向けて挨拶をする。貴族の誰かが王に対し「感謝などもったいない。我々貴族がその君主である王の命令を聞くのは臣下として当然でございます」と答えているのを、貴族たちが半ば呆れたような目で見つめている。

  ここまでがいつも行われる一連の流れであり、ここから肝心の議題について話されるのだった。


「ではまず今回の戦の結果について、宰相に説明してもらおう」

「はっ!お任せください」


  この宰相は王と幼馴染の伯爵であり、彼の家は代々三大貴族の派閥には入らず純粋に王の下に着いてきた忠臣家であった。

  彼は三大貴族の派閥に入っていないので文字通り王のために働くので、王としては何より信頼できる人物である。もちろん王自身は三大貴族、特に自分の王妃を出している家には気を使う必要があるのだが、宰相である彼はそれすらも汲み取って政務を行ってくれるため、三大貴族も彼を宰相に強く推薦した王の希望を通したのだ。


  王としては幼いころから知り合いであり、なおかつ純粋に自分に従ってくれる腹心ができたことを喜び、三大貴族としても自分たちに配慮してくれるならむしろどの三大貴族の派閥にも属していない者のほうがやりやすいと思い歓迎している。


  宰相は王の望みを叶えつつ、三大貴族をはじめとした他の貴族にもしっかりと配慮している。そのため彼は王だけでなくほかの貴族からも信頼されており、貴族の力が強いため宰相がバランスをとるのが難しい王国では歴代でもずば抜けて評価の高い人物であった。


「まず今回の戦争ですが、我が国と西で国境を接する公国が戦を仕掛けてきました。その戦いにより我が国と相手国が互いに犠牲を受けた結果、こちらが提案した停戦条約を双方の合意のもと結ぶことになりました。

  こちらが西の領地の一部を渡すのと交換に向こうが賠償金を支払う形で決着がつき、それにより交渉を終えました」


  宰相の言葉を聞いても貴族たちの顔は明るくはならない。それどころか、内情を知る者ほど暗くなっていくのがよくわかる。

 

  まず双方が犠牲を受けたと言っているが、向こうの受けた犠牲は王国の半分もない。停戦条約を王国から結んだのは事実上の降伏に近い形であり、王国が大幅に譲歩したからこそこの停戦条約が結ばれたのである。

  また宰相は領地と賠償金の交換と言っているが、王国が取られた領地に対して支払われる賠償金は非常に微々たるものである。これは国民や貴族、他国に説明する時に少しでも見栄を張るためであり、せめて名目上は負けたのではなく引き分けたのだというためのものである。


  少しでも内情を知っている者なら実質的に王国が負けたのは簡単にわかることであり、ここにいる貴族たちも当然それくらいのことは分かっていた。


「次に論功行賞についてですが……」


  まずは今回の戦で功を挙げた貴族やその子弟たち、そして騎士団の者が褒賞されていく。とは言え今回は負け戦であり、なおかつ今褒賞されている者も大した活躍はしていないため、皆そこそこの褒美をもらうだけに留まっている。


「最後に……冒険者パーティー『ドラゴンフライ』を代表して、そのリーダーであるフリード、前へ」


  宰相の言葉に反応してわずかなどよめきが起こるも、戦争に参加した上位貴族たちが苦々しい顔をしながらも黙っているのを見てそのどよめきはすぐに鎮まる。


  この国では貴族の権力が強く、また平民をひどく見下している貴族がたくさんいる。彼らは平民が貴族になるのはもちろんなんらかの功績を得ることさえ気に食わず、それは騎士団や文官などの雇用条件や出世にも関係している。

  貴族たちは神聖な謁見の間に功績を挙げたとは言え平民がいることに対して強い不快感を抱いており、他者の目もはばからずフリードの背を睨みつけている者までいる。


  しかし今回フリードが謁見の間に呼ばれることは彼の戦争における活躍を知っている者からすると嫌々ながらも納得するしかなく、苦々しく思いながらもその決定に文句を言うことはなかった。


「そなたらの此度の働きは王国に非常に有益なものであった。貴族たちを含め国王様も非常に喜んでおられる。そこである程度の願いなら聞き届けるつもりだが、何か望むものはあるか?」


  冒険者は『ドラゴンフライ』以外にもたくさん参加していた。基本的に冒険者たちは傭兵と同じく戦が終わればその活躍に応じた報酬だけもらって終わりだ。負けたとは言え彼らが戦ったのは事実なので、すでにふさわしい報酬は払われている。

  本来なら『ドラゴンフライ』もそれで終わりなのだが、今回の彼らの活躍はそれだけで終わらせていいものではなかった。


  もしも『ドラゴンフライ』の活躍がなかった場合、王国軍は公国に対して一矢も報いることができなかった。それくらい王国軍はふがいなく、そして『ドラゴンフライ』が大活躍だったのである。

  彼らがどうしてそんなに活躍できたのか、もちろん戦の流れや配置場所、それに運なども関係しているが、シンプルに言うと彼らが王国で唯一の白金級冒険者パーティーだからである。


  王国軍も一流の冒険者パーティーは場合によって一軍にも匹敵するということは知っていたが、その冒険者たちのトップに立つ白金級の力には大きな衝撃を受けた。

  自分たちを圧倒していた公国軍をたった四人で倒していく様は爽快であり、その時ばかりは平民や貴族といった身分を忘れて応援したほどであった。


  今回の功労者を問われれば誰に聞いても『ドラゴンフライ』と言うしかなく、それほど圧倒的な戦功を挙げたからこそ、貴族じゃなく騎士団でもない冒険者だろうが謁見の間に呼ぶことに反対できなかったのである。


  そして今回の戦争に参加するよう『ドラゴンフライ』を直接雇い、さらにこの謁見の間に呼ぶことを提案した国王と宰相は、フリードがなにを要求するのかに非常に注目していた。


「私としては陛下から相応の報酬をそれで十分であり、それ以上は望んでおりません。もし願いがあるとすれば、私どもに支払われる金銭をできるだけ増やしてもらいたいということのみでしょうか」


  フリードの願いに対し、貴族たちからは安堵と侮蔑の目が向けられた。安堵は『ドラゴンフライ』が貴族になることを望んでいなかったことであり、侮蔑はフリードが名誉ではなく金銭を欲したことであった。


  貴族の価値観からすると金銭にしがみつく平民は醜く、名誉のために生きられる自分たちは美しいという考え方だ。

  謁見の間で金だけを望むフリードを見て、『戦で功を挙げようが所詮は平民か』と蔑んだのであった。


「本当にそれだけでよいのか?爵位や土地などは望まんのか?」

「はい。我々のような平民には王国の貴族になれるような資格はないと考えておりますれば。やはり貴族となられるのは、ここにおられる方々のような人でなければなりませんので」


  フリードの言葉を聞き、貴族たちは内心で勝ち誇り国王と宰相はがっかりした。今回は『ドラゴンフライ』たちのおかげで何とか停戦まで持ち込めたが、次もう一度戦を仕掛けられた時にはどうなるかわからないからだ。


  冒険者は国家間の移動も多く、『ドラゴンフライ』もこの国ではなく他の国をホームタウンにするかもしれない。そうなれば次は公国にどこまでやられるかわかったもんじゃない。より最悪なのは『ドラゴンフライ』が次は公国側として戦に参戦することであり、そうなったら王国軍の負けが確定してしまう。


  国王と宰相は『ドラゴンフライ』の面々を貴族に任ずることにより王国所属にして次の戦争にも参加してもらおうと思い、フリードの口から貴族になりたいという言葉が出ることを期待した。

  本当なら国王権限で強引にでも決めたかったが、それをすれば三大貴族をはじめとした利権にしがみつく貴族たちの抵抗が激しいのはわかりきったことである。また『ドラゴンフライ』自身がそれを望んでいなければ彼らがこの国から離れてしまう可能性が高くなり、国王たちとしてもそれだけは避けたかった。


  よってフリードに期待したのだが望んでいた言葉が得られず、宰相は次善の策をとることにした。


「当然相応の金銭は払わせてもらうが、大きな戦の英雄にそれだけとは心もとない。よって、『ドラゴンフライ』には『戦神勲章』を与えることとする」


  宰相の言った言葉に対し、貴族たちは大きくどよめいた。『戦神勲章』は戦で一騎当千の大活躍をした者に与えられるものであり、それが複数の人間に同時に与えられることがなかったからだ。さらにその称号は二百年前に一度与えられてからずっと受けた者がおらず、軍人なら誰もが憧れる勲章が平民に与えられたことに驚いたのである。


「陛下、そのような勲章を平民に与えるべきではないのでは?」

「この者たちはこの勲章にふさわしい活躍をした。それに余はフリードではなくあくまで『()()()()()()()』にこの勲章を与えたのだ」

 

  その貴族はまだ何か言いたそうだったが、国王の目が絶対に撤回しないという目をしていたのでそれ以上言葉を発することができなかった。


「それにこの者たちはこれだけの活躍をしたのにも関わらず、我々は貴族位を与えてすらいないのだ。

ならばせめて、彼らの働きに対し最大限の勲章を与えてやるのが当然ではないか?」


  貴族たちの中に心から納得している者はほとんどいなかったが、それでも『ドラゴンフライ』が貴族になるよりはましだと思い口を出さなかった。


  貴族になるつもりがなかったフリードだが、自分のパーティーに対する勲章は素直に受け取って謁見の間から退場した。


  それによりやるべきことがすべて終わった貴族たちは、その後の夜会を楽しんでからそれぞれの領地に戻っていった。



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