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蘇生魔法

「さて、そろそろ話をさせてもらってもいいかな?」


  オルガが死んだことを知ったダークエルフたちの落胆ぶりを一通り見ていた優斗は、それが落ち着いてきた頃合いを見計らってオルガノ遺体に寄り添っているガンカに声をかけた。


「もちろん……です。約束通り、我々の里はあなた様の下につくと……誓います」


  ガンカは父親の死を確認したばかりでもう少しそっとしてほしかったが、それでも里長としてやらねばいけないことをしようと必死に声を振り絞り優斗の問いに答えた。


「(他にもいろいろ話したいことがあるが、この様子ではそれもできそうにないな。だとすると、やっぱり当初の予定通りあれを行うのが賢明か)」


  優斗はガンカの様子を見て、今のままではこれ以上話を続けることは無理だと悟った。ある種しょうがないこととはいえ、目の前で自分の父親を殺した男と話したいと思わないのはよくわかるし、それもその直後となるとなおさらだ。


  ガンカ以外も里の英雄の死に悲しんでいる今の状況下では、まともに話をできる空気でもなかったのだった。


「優斗……彼を蘇生したほうがいいでしょうか?」


  今まで決闘を観戦していたイリアが、優斗の後ろに来て耳打ちする。


「そうだな。今後のことを考えれば、もう一つの力も見せておいたほうがいいな」

「アイテムを使えば優斗もできますけど、私がやったほうがいいですか?」

「うーん、ここは俺がやっておいたほうが……いいのか?」


  『インフィニティ』では蘇生魔法及びそれと同じ効果を持つアイテムがあり、優斗たちを含めたほぼすべてのプレイヤーとNPCがその魔法の恩恵にあずかっていた。蘇生魔法は実験の結果この世界でも扱えることが判明しており、その効果も『インフィニティ』の時と変わらないものであったことが証明されている。


  優斗たちの中で蘇生魔法が使えるのはイリア一人だが、対象を蘇生させることができるアイテムは優斗もいくつか持ち合わせている。もちろん優斗だけでなくNPCたちには何かあった時のためにいくつか持たせており、蘇らせるだけなら優斗以外の三人でもできる行為だ。

 

  またそれらのアイテムを作るには当然それ相応の技術と材料を要求されるが、『インフィニティ』にいた時に凄腕の錬金術師であるエリアスにたくさん作らせておいたため、今でもダンジョンにはそのアイテムがいくつも眠っているのだった。


「そのほうがいいかもしれませんよ?」

「でもなー。イリア以外の奴がやると費用的にもったいないんだよ」


  蘇生用アイテムは使いきりであり、そのアイテムによって決まった回数使用すると砕け散るシステムになってる。この点に関しても『インフィニティ』と変わっておらず、使用可能回数が残り一回であった蘇生用アイテムを使うと、その効果を発揮したと同時に砕け散ってしまった。


  優斗がアイテムを使い生き返らせるということはその一回を使ってしまうことであり、ひいてはそのアイテムの寿命を縮めてしまうことに他ならない。

  しかし反対にイリアが蘇生を行った場合消費するのは彼女の魔力のみであり、それは時間とともに回復する。


  費用的に考えてどちらのほうがいいかは明白である。元々蘇生用のアイテムは戦闘中にイリアの魔力が足りなくなることを防ぐため、もしくはその戦闘にイリアがいないときのために作ったものであり、今回のように戦闘が終わっていてなおかつイリアがいるような状況であれば、イリアに直接蘇生してもらうほうがはるかに効率的であることは間違いなかった。


「でも今回の場合は優斗がやったほうがいいのでは?それと、蘇生魔法はどちらの階級を使うつもりですか?」


  蘇生魔法には二種類、いや正確に言えば二段階ある。蘇生魔法は最上級と超級にあり、それぞれ対象を蘇生させるという点では同じだが、蘇生させた後その対象がどうなるかという点において大きな違いがある。


  まず最上級の蘇生魔法を使った場合、その場合対象は復活することと引き換えにある程度のレベルダウンによるステータスの減少、そしてこれまでに得た職業やスキル、魔法などを一部失うこととなる。そしてそのレベルダウンに耐えられるほどのレベルに達していない者は、魔法をかけても蘇生することができないのだ。

 

  次に超級の蘇生魔法だが、これは復活時のレベルダウンなどはなく、その対象は死ぬ前の実力のまま復活することができる。しかしこの魔法は習得するのに最上級の蘇生魔法よりもかなり厳しい条件を満たす必要があり、『インフィニティ』の回復職なら大体が最上級の蘇生魔法を使えるのに対し、超級の蘇生魔法を使えるのは『インフィニティ』でも極一部だけであった。

  当然使用魔力も超級のほうが上であり、高レベルのイリアといえど日にそう何度も使える魔法ではなかった。


「オルガのレベルなら最上級のほうでも耐えられるだろうが、彼の年齢を考えると元に戻すことは厳しそうだ。

  彼に当分の間里最強でいてもらうためにも、ここはケチらず超級のほうを使うべきだろう」


  オルガはもうダークエルフでも結構な年であり、蘇生魔法によるレベルダウンからもう一度以前のレベルまで戻すのは難しそうだと外見や戦った感触から優斗は判断した。


  優斗は()()()のオルガに勝ったということがダークエルフたちに効いていることが分かっており、もし復活させてもオルガが弱ければ自分が舐められかねないと考えていた。

 

  もちろん普通の者なら優斗とオルガの戦いを見ればどちらも自分より強者であることはわかる。しかし一部の見る目がない者やこの戦いを見ていなかった者が復活したオルガの弱体化を見て、実はあの時からすでに弱かったなど自分たちに都合のいいように解釈されると面倒であった。


  それにオルガを復活させなければさせなかったでまたそれと同じことを言い出す奴も出てくる。優斗に完敗した上にある程度道理もわかっていそうなオルガが健在ならばそんなバカなことを言い出す奴も減るだろうという考えからも、優斗はオルガを蘇生させることを決めた。


「やっぱり私より優斗がしたほうがいい。私を人気者にしたいなら私でもいいけど、それよりも優斗がしたほうが支配しやすくなると思う」

「イリア……お前がそこまで考えていたのか!?」


  優斗はイリアが政治的なことを考えて発言していたことにひどく驚いた。普段からどこか抜けているように見え、発言にもよくわからないところがある天然のイリアが、まさか政治的なことを考慮したアドバイスができるとは優斗も思っていなかった。


  優斗はイリアをじっと見た後、深く頷いてからオルガの死体のもとへ向かった。



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