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英雄の力

「先手はいただくぞ!」


  ガンカが開始の合図を出したと同時に、オルガは全速力で優斗に向かって槍を突き出す。


「なかなかの突きだな」


  前世の優斗ならまったく反応できずに殺されていたであろう速度と威力を持つ突き、しかしゲームで磨かれた魔法と強化された反応速度により、優斗はそれを障壁を駆使して難なく防ぐことができた。

 

  優斗が戦闘でよく使う障壁は魔法で作られているものであり、その強度や面積は障壁に込める魔力量によって左右される。障壁の面積が広ければ広いほど、その強度が強ければ強いほど、障壁を作るために必要な魔力消費量が多くなるというものだ。

  つまり敵の攻撃に対して必要最低限の面積と強度を素早く計算して使うことで、障壁を使う際の魔力消費を効率化できるのである。


  優斗が今出した障壁はちょうど槍の先端を防げるほどの大きさであり、その障壁はオルガの槍の攻撃を受けてすぐ破壊された。しかし障壁によって勢いが殺された槍では相手にダメージが与えることができないため、オルガはもう一度攻撃しなおす必要があった。

  これが障壁を最も効率的に使う方法である。優斗の魔力量は非常に大きく、またその自然回復量もゲーム内でトップクラスであった。今のように効率的に障壁を使えれば、魔力の自然回復量との関係から使った魔力が少ないためすぐに回復して満タンになるという好循環が生まれるため、戦闘中にいくらでも障壁で敵の攻撃を防げるのである。


  優斗は『インフィニティ』で効率よく障壁を使いこなせるよう訓練してきた。そのおかげで障壁の使い方はかなり熟練されており、戦闘でも有利に立つことができた。そしてゲームをしていた時だけでなく、この世界に来てからも定期的に訓練を行っている。

  優斗はオルガよりも早くて強くて手数も多いNPCたちを相手に訓練しているのである。そのためオルガの攻撃を効率よく防ぐことくらい容易であり、優斗が予想していないスキルや魔法さえなければダメージを食らわない自信があった。


「はぁぁぁぁ」


  優斗に防がれぬようオルガが連続で槍を繰り出す。時に突き出し、時に薙ぎ払う。オルガの攻撃速度に普通のダークエルフは目もついてこれず、戦士団の面々も目でかろうじて追うのが精一杯である。

 

  見ているダークエルフたちが自分が食らったらひとたまりもないと確信できるほどの速さや強さを持った攻撃、優斗にはそんな攻撃が何度も向けられたが、それらはすべて彼の張った障壁や体捌きによって届かなかった。


「もう終わりか?」


  オルガが一度攻撃を止めて息を整えている少しの時間で、優斗の魔力量は満タンまで回復する。優斗の魔力量とその自然回復量、そしてオルガの体力とその自然回復量を比べた時に、このまま行けばオルガの体力が先に尽きることになるのは明らかであり、それは優斗だけでなくオルガ本人もわかったことであった。


「どうするかのぉ」


  オルガは久しぶりに戦闘でその頭脳をフル回転させる。もちろんどんな相手との戦闘でも常に頭を使ってはいるのだが、優斗のように自分よりも確実に格上だとわかる相手との戦闘は久しぶりである。

 

  自分と同格かそれ以上の強者を相手にするには、単純な力だけでなく戦術や経験など自分のできることをすべて駆使して戦わなければ勝つことができない。

  オルガは以前北の森でコテンパンにやられてからはずっと東の森で活動しており、自分より上のレベルはおろか自分と同じレベルの者とも戦ってこなかった。


  オルガは久しぶりの強敵相手に、年を取り平坦だった心が少しずつ揺れ動いていくのを感じていた。


「楽しそうだな」

「そう見えるかのぉ?」

「ああ。自分じゃ気づいていないだろうが、今のお前の表情はすごい楽しそうだぞ」

「ほぅ」


  オルガは優斗の言葉に内心で驚く。自分が戦闘で最後に笑ったのはいつだったか、少なくとももう百年以上は昔の話であり、オルガは久しぶりに浮かべているであろう自分の表情を鏡で見てみたくなるほどだった。


「オルガ様が笑っておられる……」

「ああ!こんなに楽しそうに戦うオルガ様は久しぶりに見たぞ!!」

「この表情を見れただけでよかったかもしれんのう」


  オルガの古い知り合いたちもその表情に懐かしさと喜びを感じる。彼らは今や数少ないオルガと同年代の元戦士たちであり、若いころからオルガと一緒に戦ってきた戦友でもあった。


「親父があんな顔を……やっぱりあの野郎もかなりの実力者なんだな」


  ガンカは、自分すら引き出せないような父の表情をいとも簡単に引き出した優斗に対して称賛と嫉妬、そして感謝と畏怖を向けていた。


「一応聞いておくが、まだ続けるか?」

「無論じゃ。お主の様子を見たところこのままいけば儂が負けることは確実じゃろうし、仮にうまく出し抜いて勝てたとしても次はないじゃろう。

  負け戦は好きではないが、そもそもこの戦は儂が出る前からすでに勝敗がついておる戦であり、今の結果でその勝敗がより明確になった。

  ならばもう儂は気楽な気持ちでお主に挑めばよい。勝っても負けても状況が変わらぬのなら、久々の強敵と自由に戦っても罰は当たらんじゃろ?」

「俺は止めはしないさ。どういう意図があろうとも、お前が向かってくるのならそれに対処し続けるだけだ」

「ならば好きにさせてもらおうかの!」


  オルガが槍を持つ手に一層力が入る。プレッシャーがさらに上がったオルガは昨日のダークエルフたちの比ではなく、優斗もその力の差については僅かばかり興味を示した。


「〈激流突き〉」


  オルガは先ほどよりもさらに激しい突きを繰り出していく。複数のスキルを組み合わせて繰り出されていく突きはそれぞれ強力なものであり、その技を初めて見た若いダークエルフたちはオルガのすごさを再認識し、また自分たちの未熟さと思い上がりを痛感することになった。


  しかし例え見る者を魅了するような激しい突きだろうが、能力が勝る優斗はそれらをすべて障壁や体捌きを駆使して防いだり躱したりする。前世とは比べ物にならないほど高性能なうえ経験も積んでいる優斗の体は、日本にいたころなら躱すどころか目で追うことすらできなかったであろう攻撃がよく見え、そしてしっかり反応して躱したり防いだりできるようになっていた。


「どうした!あんな偉そうなことを言っておいて、結局は老いぼれの体力切れを狙うだけか!?」


  オルガが優斗を挑発する。里では絶対的強者として君臨し、若い戦士たちの見本となっていたオルガ。そんな彼がこのような挑発をするところを見たことがない者たちがその様子に驚き、昔からオルガを知っている者たちは懐かしいものを見ているような顔をした。


「そんな見え透いた挑発には乗らん!と言いたいところだが、それだと全然面白くないな。ならばいいだろう、そろそろ俺もちゃんと戦おうではないか」


  そう言って優斗は何もない空間から杖、ではなく剣を取り出した。


「少し本気になって魔法を使えばすぐに終わってしまうだろう。だからしばらくこれで相手させてもらうぞ」


  優斗は近接武器を一通り使える。もちろんどの武器を使ってもその技術は鍛え抜かれた本職には大いに劣るし、近接武器を使ったスキルだって取ってない。魔法ならいくつか使えそうなのがあるが、それを取った目的も別のところにあり、結局近接武器で戦うことを想定した能力は何も取っていない。

  しかし魔力がなくなった時などのために近接武器の扱いはゲームでもこの世界でも練習しており、技術だけならそこまで悪くはなかった。


  剣を持った優斗の姿を見て一瞬驚いたオルガだが、すぐに自分と相手の実力差を思い出し優斗の選択に納得した。

 

「さすがに本職である近接戦闘くらいは勝たせてもらいたいものじゃな」


  オルガは優斗が剣で戦うことに納得はしたが、それでも自分のプライドにかけて魔法使いには近接戦で負けたくないと思い、槍を持つ手により一層力を込めた。


 

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