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一騎当二百

「敵のほとんどを一撃で倒せるような魔法やスキルは持ってるけど、それじゃあ全然面白くない。……せっかくだから一体一体倒してみよう」


  ランスを持ち戦闘態勢に入ったヒルダ、現在彼女が使用しているランスのグレードはVRベリーレアであり、本気で戦うときに持つSURスーパーウルトラレアのランスには3段階も落ちる武器である。しかしそれでもランスを持ち戦闘態勢に入ったヒルダはかなりの迫力があり、ダークエルフたちも嫌な予感が頭を離れなかった。


  ヒルダはヴァルキリーだ。ヴァルキリーは魔法もそこそこ扱えるので、彼女は範囲攻撃ができるスキルと魔法を持っている。ダークエルフたちの耐久力は彼女からすれば低く、彼女の範囲攻撃なら全力で放たなくても勝負はつくだろう。

  戦闘を楽しみたい彼女からすればそれは避けたいことであり、なるべく敵とたくさん戦うためにも近接戦闘主体にしようと考えていた。。


「狼狽えるな!敵はたったの十人、それに対して我々は百名以上からなる里の戦士団だ!敵の実力が高いことは認めるが、それでも冷静に戦えば負けることはない。数の有利と取り囲んでいるこの状況を最大限に生かして戦うんだ!!」


  優斗たちが里に来てから、すでに二時間以上がたっていた。それだけあれば里中の戦士を集め、なおかつ非戦闘員を安全な場所に避難させるには十分である。

  集まった戦士団の者たちは各々得意な武器を構え優斗たちを警戒する。その目は特に戦う気を見せているヒルダに集中しており、彼女の一挙手一投足を見逃さないような鋭い目をしている。


「……それじゃあ私には対処できない」


  ヒルダがダークエルフたちの反応できない速度で彼らに向かっていく。そのターゲットになったダークエルフは何をされたかわからないまま意識を失くし、その近くにいた者たちもすぐに意識を刈り取られてしまった。


  ヒルダは近接戦闘を基本としつつ、魔法やスキルによる中長距離戦闘も行える戦闘特化タイプだ。比較的軽い鎧に身を包む彼女はスピードもあり、レベルの低い相手ならそれに対応することはできない。

 

  今回の敵であるダークエルフたちもそのレベルの低い相手であったので、彼女のスピードに対応することは難しそうであた。


「うん。死んでない」


  ヒルダが全力でランスを放てば、彼女を取り囲んでいるダークエルフたちなど一瞬で死んでしまう。優斗にそれではだめだと言われていた彼女は、致命傷にならないような威力や箇所で攻撃して見事殺さずに敵の意識を刈り取ったのである。


  以前のヒルダならこんな器用な真似はできなかったが、ダンジョンモンスターを相手に戦っているうちにうまくコツを覚えたのだ。

 

  ヒルダは戦闘狂という設定にしたからなのか、戦闘に関するセンスが高いことがこの世界で証明されている。そのためヒルダは、この世界に来てからはどんどんステータスに表れないような技術を習得していっているのだった。


「ひっ、怯むな!とにかく徹底的にあの女を攻撃するんだ!!あの女さえ倒せば勝てる可能性はぐんと高まるぞ!!」


  ダークエルフは仲間が簡単に倒されるところを見て少し怯んだが、それでもいち早く気持ちを持ち直した族長の指示を聞いてヒルダのほうに目を向ける。


  ヒルダは彼らが怯んでいる間には攻撃せず、立て直して再び勝負する準備ができるまで待っていた。敵が自分に攻撃しようとしていることを感じ取ったヒルダは、そのことを歓迎して敵の攻撃が来るのを待った。


「今だ!一斉に攻撃するんだ!!」


  ヒルダが一向に動こうとしないのを見て、ダークエルフたちが先に攻撃を仕掛ける。

  彼女の力がわかり先ほどよりも必死になった彼らの攻撃はそのすべて合わせるとかなりの威力を誇り、東にいるモンスターはおろか北にいるモンスターにも少なくないダメージを与えられそうなほどの攻撃であった。


「……この程度ならよけるまでもない」


  ダークエルフたちの攻撃が迫っているにもかかわらず、肝心のヒルダはまるで動こうとしない。そのまま彼らの攻撃はヒルダに直撃し、その衝撃による砂塵でヒルダの姿が視認できなくなった。


「や……やったか!?」


  里長であるガンカは、願うようにその言葉を絞り出した。あれほどの攻撃を受けては、自分が知る中で最強の戦士である父のオルガすらもただじゃすまないという確信がある。


  オルガは老いてなお里最強の戦士であり、その力は里の戦士団約半数でかかってようやく倒せるほどの力を誇る。そのオルガを倒せるかもしれないほどの攻撃であり、なおかつ今の戦士団ができる最強の攻撃であった。


  ヒルダが先ほど見せたスピードと攻撃力。なぜ殺さなかったのかは戦闘中のため冷静になり切れていないガンカにはわからなかったが、それでも彼女のスピードと攻撃力は一対一になればどうしようもないことくらいは把握できる。

 

  もしこれ程の攻撃を受けてなんともないといえるほどの防御力すらも秘めているのだとすれば、その時点で自分たちが勝てるはずないという諦めがガンカの心には芽生えていた。


「お……おいあれ…あれなんだよ!なんであんな風にしていられるんだよ!?」


  戦士団の中でも一際目のいいダークエルフが、信じられないものを見たように叫ぶ。彼の見ている方向と上げた叫び声の意味、それを考えれば、誰だって彼の見たものが何なのか簡単に理解できた。


「終わりだ……」


  目のいい者にも確認できるほど砂塵が落ち、ダークエルフたち全員にヒルダがどうなったのか分かった。


「なかなか悪くない攻撃だった。多分これが『インフィニティ』だったら、体力の二十分の一くらいは減ってたのがわかると思う。まあ本当の実戦だったら、こんな馬鹿正直には食らわないけど」


  ほとんどダメージを追っていないヒルダの姿を見て、ほとんどのダークエルフたちは完全に諦めた顔をしている。あの攻撃でほとんど無傷なのは彼らの心を折るには十分すぎる出来事であり、いくら里の戦士といえどヒルダとまだ戦いたいと思える者はいなかった。


「……もういい。あとは優斗たちに任せる」

「もう戦わなくていいのか?」

「戦意を失った相手との戦いには興味ない。相手の強さも重要だけど、やっぱり戦う気のない相手程つまらない者はいない」


  ヒルダは戦意を失ったダークエルフたちを一瞥してから、優斗たちのいるところに戻ってく。彼女はもう完全に里の戦士団たちに興味を失っており、早く帰りたいという態度を隠すことはなかった。


「なら最後の交渉と行くか」


  ヒルダによって戦意を失ったダークエルフたち。彼らを束ねるものであり、なおかつこの里の責任者であるガンカに向かって優斗は歩き出した。



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