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力の価値

「やれやれ、安心したというかがっかりしたというか、この里のダークエルフたちの力はみんなこの程度なのか?」


  ダークエルフたちから攻撃を加えられたにもかかわらず、それを食らった張本人である優斗たちは全員平然とそこに立っていた。彼らの周囲は優斗が魔法で作った障壁によって守られており、その障壁にすら傷一つついていなかった。


「この程度の障壁で防げるなら、別にクレアがいなくても楽勝だったな」

「確かにそうかもしれない。この程度の攻撃では、私の防御力を使うまでもないではないか」


  クレアの防御力は非常に高い。しかし今放たれた程度の攻撃だと優斗はおろか連れてきたダンジョンモンスターたちでもある程度は対処可能なレベルであり、わざわざクレアが出張って防御するほどの攻撃でもない。

  先ほど攻撃を放ったのは里の戦士たちの一部だ。もちろんもっと強い攻撃をダークエルフたちが使える可能性はあるが、少なくともすべての戦士がクレアの防御が必要なだけの攻撃を簡単には行えないと確信して、優斗はその結果に少し安堵するとともに彼らが部下になった時のことを想像し少し落胆した。


「今のを無傷で防ぐとは……お前たち、やはりただ者ではないな」


  ガンカが優斗たちに最大限の警戒を見せる。そして自分たちの攻撃が全然効いてないとわかった者たちも、気持ちを切り替えてすぐまた次の攻撃が放てるように準備していた。


「勝手に入ったのはこちらとはいえ、先制攻撃をしてきたのはお前たちだ。ならばこちらも反撃して構わないよな?」

「そちらが勝手に里に侵入し、俺たちを支配下に置くといった時点で開戦合図のようなものだ。いまさらそんなことを聞く必要はねえよ。お前ら!もう一回食らわせてやれ!!」


  ガンカの声に従い、ダークエルフたちがまた一斉攻撃を行う。

  彼らも敵にダメージが入っていないことはわかっていたが、それでも自分たちの一斉攻撃を防ぐだけの障壁を何度も簡単に発動できるものではないと睨んでいた。


  どんなすごい防御壁でも使えば消耗するし、そもそもそれを作るのは簡単ではない。優斗たちの身を守っている障壁もそれ相応の代償を必要とするはず、そう考えたダークエルフたちは優斗を疲労させるためにもう一度同じ攻撃を繰り返した。


「しつこいなー。それが効かないのはさっきの攻撃で分からなかったのか?」

「まだヒビ一つ入らんとは……相当に硬い壁のようだな」


  ダークエルフたちは一つ勘違いをしている。確かに今優斗が使っている障壁はダークエルフたちにとってはかなりの魔力を使用せねばできないほどの代物だ。しかし優斗の技量と魔力量があれば、その障壁は彼にとっては少ない魔力でより効果的に発動することができる。

  そのため優斗はまったく疲れておらず、後何十回でも同じことをするだけの魔力が残っているのだった。


「……このままずっと攻撃を防いでいてもいいけど、それだと面白くない。なにより、ダークエルフたちに俺の力を見せつけることができないしな」


  ガドの大森林のような場所はルクセンブルクなどの街と比べてもより弱肉強食の傾向が強い世界であり、そこには様々な種類と強さを誇るモンスターたちが生息している。この森では強い者こそが正義であり、強ければ何をしてもかまわないといっても過言ではないのだ。


  外の世界でもその傾向はあるが、それでもこの森のほうがその傾向は強い。どちらもいつ外敵に殺されてもおかしくない世界であり、その身を守るためにも強さというのは大きな意味を持つ。


  この世界の住人のほとんどは今言ったような生活をしている。彼らも心の中では強さに憧れを持っているのだ。だからこそ、皆強者というものに惹かれるのである。


  強さというのはいつの時代も人を引き付け、それと同時に恐れを抱かれるものでもある。平和な日本でも、老若男女問わず強さというものには大なり小なり惹かれていた。それが個人の強さが重視される世界ではどうなるか、それも森の中というより強さが重視されるような世界ならだ。

 

  普通の感性を持つ者なら当然自分より強い者とむやみに戦って死にたくないし、強者の下についてその庇護下で安全な生活を送りたいと思うのも至極当然のことである。

  里に住むダークエルフたちの根本もそれであり、まず自分たちが束になっても敵わない(オルガ)が現れたためその下につき、それによって集団がさらに強くなっていったので他の部族も従わざるを得なかった。


  優斗はダークエルフの上位種は知らない(『インフィニティ』ではダークエルフに上位種が設定されていなかった)ので、南や西でフレイヤとシルフが使ったのと同じ方法は使えない。そうなれば自分の実力で彼らを従えるしかなく、優斗はダークエルフたちに自分の力を見せつける必要があった。


「お前たちは自分の身を守っていてくれ。俺は今から奴らに力を見せつける。クレアは想定外の攻撃が来た時にも守れる準備を、イリアは万が一の事態に備えていつでも回復魔法を放てるように準備しておいてくれ」

「了解した」

「わかったわ」


  クレアとイリアはその場で力強く頷く。

  優斗は今回ダークエルフたちを刺激しすぎないためにも、護衛に選んだダンジョンモンスターは限りなく人に近い姿をしている者ばかり選んだ。彼らはいずれもある程度たくさんのDPを消費して作った存在であり、万が一の時以外は捨て駒にするような真似はしたくなかった。

 

  もちろん彼らも自衛できるだけの実力はあるが、それでも万が一の時はクレアが守りイリアが回復してくれる。優斗が危なくなっても当然活躍してくれるはずなので、彼は安心して戦いに臨む準備ができた。


「……私はどうすればいい?」


  優斗に指示を仰ぐヒルダだが、その目が自分も戦いたいと訴えているのが優斗にもわかった。


「今後のことを考えれば俺が戦うほうがいいんだろうが、ヒルダの戦いたいという気持ちを無下にしすぎるのもよくないか……。よし分かった!ならヒルダが奴らを倒せ。その代わり、できる限り殺さないように手加減してくれよ。俺にはそっちのほうが心配だ」


  ヒルダは強い。優斗だって自分たちを取り囲んでいるダークエルフたちにヒルダが後れを取るとは考えにくいし、これくらいの敵なら何千人いようともヒルダに勝つことは不可能だと断言できる。

 

  ただ勝つだけなら優斗でもヒルダでも問題ない。護衛たちには難しいだろうが、それこそ盾役のクレアや回復役のイリアでも可能だ。

  しかし優斗たちの目的は里のダークエルフを皆殺しにすることではなく、むしろその逆でなるべく大勢を生かした状態で彼らを傘下に加えることである。


  戦闘力が高いことは認められているヒルダだが、弱者を殺さないようにうまく手加減して倒すことができるかは怪しいところがある。性格的にも敵と全力勝負を望むヒルダだからこそ、勢い余って殺してしまうんじゃないかと優斗は心配した。


「……それは大丈夫。最近はうまく手加減することも覚えた」

「そんなのいつ覚えたんだ?」

「ダンジョンで訓練したとき。ダンジョンモンスターは弱いから、殺さないようにするのが大変だった」

「ダンジョンモンスターと訓練したのか?」

「そう。それも力をうまくコントロールする訓練の一環」

「なるほどな……」


  戦いとは、常に全力で一本調子というわけにはいかない。戦況によってはうまく力をセーブして体力消費を少なくして後半のために温存したり、スピードやパワーなどの強弱を利用した緩急で敵を惑わせたりする必要がある。

  ヒルダはうまく力をセーブして戦うことと多対一での戦闘の対策として、この世界に来てからはかなり格下のダンジョンモンスターたちとよく一緒に訓練を行っていたのだ。

 

「……行ってくる」

「わかった。なら俺はクレアやイリアたちと一緒にヒルダの戦いを見物しておくとするよ」


  優斗は障壁を展開して自分たちの安全を確保した。そしてヒルダがダークエルフたち相手にどういう戦闘をするか、半分は不安、もう半分は期待の感情を宿した目で、いざ戦おうとしているヒルダの背中を見つめた。



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