初遭遇
「いい感じの薬草が見つかったのは幸いだな。効果がわかるのとよくわからないのがあったそうだけど、どれもそこそこは価値がありそうなんだろ?」
ダンジョンの外は一面に緑が広がってていた。どうやら優斗たちのダンジョンは森の中にあるようである。周りには薬草が生えていて、早速錬金術師のエリアスの出番なのであった。
「そう!どれも価値がある薬草なんだよ!すでに名称や効果などがわかっているのはインフィニティの時にあったものと同じ物ということで説明がつくんだけど、この中には名称どころか効果すらもわからない薬草がいくつもあるんだ!
つまりそれはインフィニティの時にはなかった、この世界特有の薬草ということになるんだよ!これは本当に来たかいがあったね。ダンジョンが広くなったらぜひ僕の研究室も作ってもらうよ。この世界にはいろいろな研究材料がありそうだ。ここに召喚されたのは非常にラッキーだったね」
凄腕錬金術師であるエリアスがスキルを使ってもよくわからない薬草があるということは、少なくともそれはインフィニティにはなかった、もしくはインフィニティでも超々レアなものであったかの二つしか考えられない。エリアス以外が調べてみてもあまり優れた力などは感じないため、彼らはその薬草がインフィニティにはなかったこの世界の特有の薬草だという結論に落ち着いていた。
「薬草もいいけどモンスターも見つけないとでしょ!森での狩りは久しぶりだから腕がなるわ」
フレイヤは森での狩りが得意であると同時に大好きなのである。
「狩りはいいけど、いつもみたいにもてあそぶのは絶対にやめろよ。まだこの世界の生き物の強さは全くわかってはいないんだ。下手したら逆に俺たちのほうが獲物になる可能性もあるんだからな」
「そもそも俺はいつものフレイヤの狩りの仕方も好かないぞ。あんなのに共感できそうなのは、同じくよっぽど趣味の悪いエリアスだけだろ」
弓を持って妖艶な笑みを浮かべているフレイヤに対し、優斗とアシュリーが苦言を呈す。
フレイヤはドSな性格であり、特に狩りの際にはわざと獲物の急所を外していたぶるということを好む傾向にある。そういう性格にしてしまった優斗はそのことに関しては何も言えないが、そういう行為自体が嫌いなアシュリーはフレイヤのその性格は好きになれないようである。
「優斗の言うことはもっともだしそれに逆らうことはしないわ。獲物をいじめるのはもう少しこの世界のことを知ってからにしないと」
「弱い者をいじめて楽しむなんて、俺には全く理解できない感情だな」
アシュリーが吐き捨てるように言う。
「ふん!別にあんたに理解されようだなんてこれっぽちも思っていないんだから」
「当然だ。そんなもの理解したくもない」
「「ぐぬ~」」
アシュリーとフレイヤがにらみ合う。
「おい待て待て。今はそれどころじゃないんだからちゃんと協力しないと」
「そうね。今はちゃんと協力しないとね」
「わかってるぜ。俺たちは仲間ではあるからな」
優斗の説得により、どうにか険悪な空気は去ったようであった。
「(はぁーよかった。それにしても、一度彼女たちの性格把握をしておいたほうがよさそうだな)」
インフィニティというゲームではNPCたちの性格を設定することはできたが、その性格設定がプレイに活かされることは全くなく、ほとんど遊び要素で性格設定というものがあったのだ。
優斗はあまり深く考えずに、ほとんどノリと勢いだけで彼女たちの性格を設定していったのである。そのため、優斗は彼女たちがどのような性格だったかはあまり詳しく覚えていない。ゲームに直接関係してくる戦闘能力は詳しすぎるほど覚えているのだが、そのほかの点に至っては割と適当だったのである。
「!?あんたら静かにしてくれんか。敵さんようやく発見できたで」
ユズの目の前にいるのは一匹のイノシシだ。もとから一匹で暮らしているのか、それとも群れや家族なりとはぐれたのか、どちらにしろ、今の優斗たちにとって獲物が一匹でいるというのはいろいろと好都合である。もし失敗しても、敵が一匹だけならうまく逃げることは可能だ。
「ユズ、周りにはあいつの仲間らしき生物はいないんだな」
「おらんよ。うちが言うんやから間違いないで」
パーティーで一番気配感知に優れているユズが言うのだ。本当にいないのだろう。
「了解。迎撃方法はフレイヤの弓による一撃で頼む。あのイノシシを貫いても構わないから、とにかく急所に強力な一撃を加えて一発で仕留めてくれ」
「もう準備オーケーだわ!」
フレイヤはもう弓を打つ準備が完全にできている。
今フレイヤが持っている弓はエレメンタル・ボウという。非常に特殊な弓で、精霊を使役できる者が使えば使役している精霊の力と属性に応じた強力な弓に、そうでない者が使えばただの弱い弓になるという不思議な弓である。
レア度は全部で八段階あり、上からIR、SUR、UR、SR、VR、R、UC、Cである。
IRを手に入れるための方法は非常に限られていて、運営による公式大会で優勝する、世界に一体しかいない上に二度と再出現しないような超強力なモンスターを倒すなどしなければほぼ入手不可能であり、実質的にはSUR以下の七段階といってもいい。
数が少ないうえに課金によって手に入るわけではなく、手に入れるには自分で見つけるかほかのプレイヤーから奪うかしないと入手できない代物である。
フレイアの使うエレメンタル・ボウは使役できる精霊の中で最高クラスである四大精霊を使役できる者が使えばSURに、精霊を一体も使役していない者が使えばCの力しか出せなくなる。
フレイヤは風属性の四大精霊であるシルフを使役できるため、彼女のエレメンタル・ボウはそのレア度にふさわしい威力を誇るのである。
「こっちも準備できた。いいか、強めに打つのはいいが決してやりすぎるなよ。その弓の威力はものすごいんだからな」
優斗はいつでも転移ができるように魔法をセットしておく。もしもフレイヤがイノシシを殺せなかった場合に備えて逃げる準備をしているのである。
イノシシは見る限りまったく強そうではない。優斗も心の中ではフレイヤが仕留めるだろうなとは思っているが、それでも念には念を入れて準備は済ませているのである。もしもイノシシがフレイヤの弓を受けても平気そうな場合は、即座に全員を連れてダンジョンに転移する手はずになってる。
「わかってる。じゃあ撃つわね」
フレイヤの放った矢(フレイヤは自分の魔力で矢を作り出せるし、エレメンタル・ボウ本体に至っては使用者が魔力を使わずとも魔法のかかった矢を作ることができる)がイノシシの眉間を貫いた。イノシシは特に痛がる様子もなく、静かにその場に倒れた。
「これはやったんだよな?」
イノシシがあまりにきれいに倒れたため、逆に本当に死んだのか疑っている。
「手応え的には死んだと思うのだけど」
「うーん、これは完全に死んどるな。フレイヤの矢はどうやら通用するようやで」
「「「「ほっ」」」」
ユズがイノシシの死を確認したことにより、一同は一安心することができた。その後も似た要領で森の動物や魔物を倒していき、入手した薬草も併せてこの日の優斗たちはかなりの成果を上げることができた。