結論
「この里は支配下にか……。それがどういう意味か、お前にはわかっているんだろうな?」
ガンカのプレッシャーが一層強くなる。これまでも友好的とはいいがたい態度であったガンカだが、優斗の言葉を聞いた後は完全に敵対する者に対しての態度を取っていた。
「当然わかっているさ。俺はこれから東の森を治める。だからその一番の弊害になるであろうこの里をまずは抑えたいと思っただけさ」
優斗はガンカに対して引くことはない。そもそも優斗たちの目的は最初からそれであり、どうオブラートに包んだ言い方をしようがその意味は変わらない。優斗たちもここに来る前から里長たちを筆頭とする支配者階級の者たちに敵視されることは覚悟の上であり、これくらいのプレッシャーで引くようなたまではない。
優斗とガンカは睨み合い、武器を降ろしたはずのダークエルフたちは再度自分の武器に手をかける。まさに一触即発の雰囲気であり、小さな衝撃でそれが爆発することは明白であった。
「お前たちがある程度の強さを持っていることはわかっている。それでもたった十人で里の戦士たちに、それもすでに囲まれている状態で勝てると思っているのか?こちらにだって誇りや自負があるんだ。お前たちは戦争になっても勝てると思っているようだが、こちらだって戦争になれば負ける気はない。
今ならまだ間に合うかもしれんぞ。我らだって鬼ではない。お前たちが謝りさえすれば、お前を含めた十人だけで手を打ってやる。他の仲間には手を出さんと誓おう」
ガンカが優斗に最後通告をする。ダークエルフたちも武器を構えており、優斗の言葉次第ではいつでも彼とその部下に攻撃できるような準備をしている。
「それがお前たちの結論か……。この森は日本のような法治国家とは違い、野蛮な弱肉強食という一つの法でのみ縛られている場所だ。
俺がお前たちを殺しても何ら罰は受けず、お前たちが俺を殺しても何ら罰を受けることはない。最初にお前たちを怒らせたのは俺だ。ならば法治国家の元国民として、先制攻撃くらいはそちらに譲らせてもらうよ」
優斗が現在行っていることは、現代の地球ですれば他国から批判の雨あられが降るであろう野蛮な行為であり、下手しなくても他国から制裁されること間違いなしの行為である。優斗だってそんな世界に住んでいた身としては、今回の行為が野蛮であることは十分に理解している。
しかし優斗たちのコミュニティーのためにはこれが最善の行為であり、自分たちの安全のためにはやったほうが断然いい行為なのである。
優斗たちはこの里についてちゃんと下調べ済みである。里が交流を持っているのは一つの都市国家のみであり、その交流もたいして深いものではないこと、そして現在この里には一時的にすべての民が集まっていることも知っている。
優斗たちの行いは成功すれば決して外にばれるものではなく、森の内部からはそれに対する批判が出るはずがない。
日本人の野村優斗には実力的にも倫理的にもできなかった行為だが、異世界のダンジョンマスター野村優斗なら両方の意味で可能な行為である。
優斗はこういったことに対しては寛容的で、異世界に来てまで前世の価値観を引っ張りだしてためらうようなことはなかった。
そもそもこれまで何人も人間を殺したり捕えたりしているじゃないかと思うかもしれないが、自分たちを殺そうとしてきた者やダンジョンの近くのテリトリーを荒らしに来た侵入者に対処するのと、自分がその侵入者になって相手を害するのとでは話が違う。
しかし優斗はためらうどころか、むしろ若干乗り気であったことは否定できない。その証拠にこれを行うと決めた優斗の目は、誰にもばれないくらい僅かに、されど確実に輝いていたのだった。
「つまり戦争をすると、そう言っているようだな。ならまずはお前たちを倒し、その後その仲間を片っ端から殺していこう」
「お前たちにそれができるならやってみるがいい」
「ほざけっ!その口を二度と開けないようにしてやる!!」
ガンカがそう言って手を上げると、それから一斉にダークエルフたちが優斗たちへの攻撃を始めた。優斗たちの周りからは、ダークエルフたちの放ったたくさんの矢と魔法が飛んでくる。
四方八方から無数の攻撃を受ける優斗たちを見て、『愚かな者たちだったな』とガンカは心の中で悪態をついた。