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種族の恩恵

今日は二話です。

「我々は今からあなた様に従います。あなた様の手足のつもりで、どうか何なりとご命令ください」


  ここはガドの大森林西側、そこに存在しているエルフの集落の一つである。そこには何十人ものエルフたちが暮らしており、その者たちが今フレイヤの前で服従の意を示していた。


「今から私とその部下たちでこの森を制圧するわ。あなたたちには、その手伝いとそれが終わった後の統治の補佐を命じるわ」

「承知いたしました」


  エルフたちはフレイヤの命令にすんなりと従う。今のフレイヤは完全にエルフたちの王として扱われており、彼らがフレイヤの命令に従うことに対して何の疑問も抱いていないことがよくわかる。


「それと、この森にはあなたたち以外にもエルフの集落があるのよね」

「はい。同じエルフとはいえ部族が違うのでともに暮らしてはおりませんが、それでもこの森に我々以外の部族が作る集落は存在しております」


  この森のエルフたちは一枚岩ではない。複数の部族により集落がそれぞれ別々のところに建てられていて、基本的には全く別の共同体として生活している。


「その部族たちと交流はしているのかしら?」

「はい。すべての部族と交流しているわけではありませんが、それでも一部の部族とは物々交換の取引などを行っております」


  この森に住むエルフの集落は、互いにあまり仲がいいわけではない。彼らは同じ種族であると言うよりも、あくまで別の共同体に住む者たちと言う感覚である。

 

  そのため作物の取引などをすることはあっても、積極的に技術的及び軍事的な協力体制にはない。わざわざ敵対しようとは考えていないが、それでも助け合おうという関係ではないということが現実であった。


「エルフの部族はこの辺にいくつあるのかしら?」

「私の知る限りでは、我々も入れて五つ程であったと記憶しております」


  エルフの部族の中には、森の内外にいるモンスターとの戦闘や森の外から来た人間たちにより滅んだ部族もある。エルフは寿命が長い代わりに繁殖力が弱い種族であり、外敵によって滅ぼされる部族はあれど逆にたくさん生まれて繁栄しているような部族はなかった。


  このままではいずれこの森のエルフが絶滅するのは明らかであり、昔は十はあったと言われる部族数が今やその半分になっていることが何よりの根拠であった。


「交流のない部族との連絡はとれるかしら?」

「できなくはないです。しかし、事情を説明しても向こうが疑ってこちらを信じない可能性もございます」

「そう。まあ信じないなら信じないで構わないわ。私の部下を使者にしてもいいけど、モンスターが行くよりは同じ種族であるエルフが行くほうが信じられるわよね?」

「私もそう思います」

「ならそうして頂戴」

「かしこまりました」


  エルフたちは他の部族に送る使者を選び出し、選ばれた者たちは早急に他の集落に向かった。


「ここに来るまでにどれくらいかかるかしら?」

「使者を受け入れてからどうするか決め、その後でここに向かうということを考えれば、一番近い集落でも最低で三日、一番遠い集落ならおそらく七日以上かかると思われます」


  この森は広い。西側だけでもその規模は大きく、徒歩で全て回ろうと思えばかなりの時間が必要になる。


  エルフは種族的に森での活動に優れた種族であり、今回使者に選ばれた者たちは部族の中でもトップクラスの実力を誇る。

  時間がかかるのは彼らが遅いのではなくこの森が広すぎるからであり、そのことはフレイヤにも十分にわかっていた。


「七日以上か……これは彼らを持つべきかどうか迷うわね」


  西の森には支配者がいない。そして南の森の妖精のようにそこらじゅうで生息しているような種族もいない。南の森に比べれば楽に支配できそうな場所であり、フレイヤたちは現有戦力でも支配することは難しくないと考えていた。


  現に彼らはいつでも動けるよう準備はできており、後はフレイヤが許可を出すだけで一、二週間もあればこの森を支配できそうではあった。


「フレイヤ様、吾輩たちでもこの森の制圧は可能です。どうぞ我々にお任せください」


  ケンシンがフレイヤに進言する。彼からすればエルフが戦力にいようがいまいが関係なく、自分たちだけで成し遂げられるという自負があった。


「クフフ、私ももう少し頑張りたいですねぇ。あと少しでかなり強くなれそうな気がするんですよ」


  南の森でケンシンたちと一緒にモンスター狩りをしていたベリアルだが、どうやらそこでモンスターをたくさん倒したことでさらに強くなったようである。


  弱ければ弱いほど強くなるのが早くなる。初期値が低く大器晩成型に設定されたベリアルは、今凄まじい速度で成長を遂げていた。


「私としてはそうしたほうが早く終わって楽そうなんだけど、あの人の予想ではそろそろ向こうに何か動きがありそうなのよね」

「予想ですか?」

「ええ。この森に厄介なお客さんが来るかもしれないのよ」


  フレイヤの言う客とは、近いうちに大規模討伐隊として森に入ってくる冒険者たちのことである。

  この段階ではまだそれが組まれるという情報を持っていなかったが、それでも優斗から街が騒がしくなってきたと聞いて警戒はしていたのだ。


「仮に来たとしても、そんな奴ら吾輩たちで蹴散らしてしまえばいいのではないですか?」

「私もそう思うんだけどね。でも、彼には彼なりの考えがあるみたいよ」

「それは失礼しました」


  ケンシンは優斗がその判断を下していると聞いて、それ以上言葉を発することはなかった。彼にとって優斗の言葉は絶対であり、優斗が決めたことに反対しようという気持ちは何一つなかったのだった。


「あの方のお考えならば仕方ありませんねぇ。しかし私としては、レベルアップのためのモンスター討伐くらいは許可してほしいのですが」

「それは私が決めることだから許可するわ。この森が荒れるくらいやるのはダメだけど、そうならない程度であれば許可できるわ」

「ありがとうございます」


  フレイヤに許可をもらったベリアルは、早速近場にいるモンスターを狩りにエルフの集落から出た。


「他の集落のエルフが来るまではダンジョンでゆっくりしていたいところだけど、たぶん今は私がこの集落に滞在しておいたほうがいろいろと都合がいいわよね。……だとすれば私を含めて何人かは居残り、それ以外は一度ダンジョンに帰還させるということでいいのかしら」


  フレイヤはエルフたちとの交流やその支配を強化することを目的に、西側を支配するまではエルフの集落で過ごすことに決めた。


「拙者もなまってきているため、ベリアルと同じようにモンスター狩りをさせていただく」


  千代はフレイヤにそう言い残して、ベリアルとは反対方向に向かった。


  ケンシンを含めたほとんどのダンジョンモンスターは報告もかねてダンジョンに戻り、フレイヤは自分が指名した配下のモンスター数体とともにエルフの集落で他の部族からエルフが来るのを待った。



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