外へ
「説明したとおり、これからみんなにはダンジョンモンスターとして活躍してもらうわけだが、まずはこれから何をしようか?」
「何も決めていないのですか?相変わらず優柔不断ですね」
シルヴィアが優斗を責める。
「悪かったな。でも、今やれることはほとんどないんだよな。まずDPがないからダンジョンの拡張などはできないし、外にはどんな生物がいるかわからない。
DPがゼロである以上、ダンジョン内にずっと籠っていてもやれることはない。そして外はまったく未知の領域だ。ここはゲームじゃないみたいだから、蘇生魔法があるとはいっても死んだら終わりだと思って行動すべきだ。当然セーブもロードもできない。慎重すぎるほどでちょうどいいだろ?」
「ですが何かしなければ。わたくしやエリアスはともかく、ほかの方々は厳しいと思いますよ」
「どういうことだ?」
優斗はシルヴィアの言葉に首をかしげる。
「そんなこともわからないのですか?わたくしやエリアスのような飲食不要の存在はともかく、あなたを含めてほかの方々は飲食しないと生きていけません。特に鬼人族のクレアや竜人の千代などは非常に大食いです。彼女たちのためにも、まずは食料を何とかしなければいけませんよ」
「そうだった!じゃあ結局今すぐ外に出なくちゃいけないのか」
インフィニティでの食事はあくまでバフ効果を得るためだけの手段だったが、この世界ではそのゲームキャラも現実の存在として召喚されている。つまりは飲食が必要な存在は飲食しないと飢えて死んでしまうし、疲労がたまる存在はちゃんと休まなければ力が出ない。
ダンジョンモンスターはダンジョンマスターに忠実なこととダンジョンコアから生まれたことを除けば、現実にいる生物と同じだ。種族によっては腹も減るし眠くもなる。寿命によって死ぬこともあれば生殖して子供を産むことも可能だ。ダンジョンモンスターの子供はダンジョンマスターに忠実とは限らないので生殖には注意が必要だが、それでも生まれてくることは可能なのである。
このように、ダンジョンモンスターはあくまで普通の生物として扱わなければいけないのだ。
「ならここに何人か残してダンジョンコアの死守をさせておこう。それ以外のメンバーは完全武装で外から食料を取ってくること。場合によっては何か価値ある物を取ってきてDPにすることも考えているから、錬金術師であるエリアスは一緒に来てもらうぞ。もちろん、盗賊職のユズも来てもらう」
「いいよ。それに、未知である外に出るなんてワクワクしてくるよ」
「まあうちが行くんが最適なのはようわかるんやけどな。ほんで、残りのメンバーはどないするん?」
エリアスは錬金術師である。錬金術師は様々な材料を使って物を作る。そのため、その材料の価値がどれくらいなのか、それはなんという名前でどんな効力があるかなのかなどを調べなければならない。
そのため、錬金術師という職業には高度な鑑定系のスキルがある。魔法でも鑑定系のものはあるが、それは当然錬金術師のスキルによる鑑定よりも効果で劣る。今の彼らが生きるためには外で狩猟採集をするしかない。何があるが未知という状況の下、より高性能の力を使えるものを同行させるのは当然である。
そしてユズは盗賊系の職業の持ち主であり、気配感知などに優れている。こういった未知での探索においては外せない人材である。
「後は後衛の俺とフレイヤ、それに前衛の千代と対応力に優れたアシュリーにするつもりだ」
優斗は魔法的手段での対応が優れていて、千代は前衛として単純に強い。アシュリーはバランスのいいキャラで、ほかの者より様々な手段での対応ができる。そしてフレイヤはハイエルフという種族特性により、森での活動ではいろいろと有利になる。
また、ダンジョンコアを守るために防御力の高いクレアを置き、外で敵を見たら勝手に戦闘を始めてしまうかもしれない危険性があるヒルダを置いて行ったのだ。ほかにも、ミアとシルヴィアの二人が守り手にいるという手は悪くないといえる。
「俺もそれでいいと思う。でも、そこの幼女はどうするんだ?連れてくのか残すのかはっきりさせねえと」
「そうだったな。というわけで君はどうなんだ?それと、君の名前はなんていうんだい?さすがに君とか幼女とかだといろいろ不便だしな。これから長い付き合いになるんだから、名前くらいは教えてくれないかい?」
幼女は十人の女性をダンジョンモンスターとして召喚してからずっと沈黙していたが、優斗に促されてから再びその口を開いた。
「わ、わたちはぜぇんぜぇんたちゃかえましぇん。なのでここでおるしゅばんしゅることにします。あとわたちのなまえはありましぇん。ごしゅじんしゃまであるゆうとしゃまがきめてくだしゃい」
「おうわかった!って、待て待て待て。一体どういうことだ?さっきまで普通に話せてたじゃないか。どうしてこんな急に舌足らずなしゃべり方になってるんだ」
「えぇっとでしゅね……」
彼女によるとこうである。なんでもこのダンジョンは彼女とある程度同期しているらしく、ダンジョンコアが成長するたびに彼女も成長するらしい。今はまだ小さくて知能も低いが、ダンジョンコアが成長すれば体を大きくしたり頭がよくなったりすることができるようである。
最初はダンジョンのことをしっかり伝えるため、特別な措置により知能を高くして説明していたのだが、その説明が終わりダンジョンコアから十人を召喚した段階で効力が切れ、今の姿に戻ったと言うことであった。
「じゃあ留守番組決定だな。それと名前か……どういう名前を付けてやればいいのか」
「今そんなのそこまで考える必要はないでしょ!どうせ後から名前を変えることもできるんだから、とりあえずなんかパパッと考えなさいよ。それより今は外で探索することが最優先でしょ!私だってそろそろおなか減ってきそうなんだから早くしてよね」
もうすでにここに召喚されてからある程度の時間は立っている。フレイヤのような飲食必須の種族は、そろそろおなかが減ってきてもおかしくはない。ゲーム時代は飲食必須といってもその設定は甘々で、全然食べなくとも普通に活動させることができていたのだが、この世界では種族によっては飲食の有無が死活問題になるようである。
インフィニティには食事睡眠不要のアイテムもあったのだが、そこら辺をあまり重視していなかった優斗はそういったアイテムを入手していなかった。そのアイテムは簡単に手に入るものだったので、「こんなことになるんならそれをたくさん買っておけばよかった」と優斗は大きく後悔していた。
「じゃあとりあえずアコでいいか?もしこの名前が気に入らなかったら言ってくれ。俺がまた考えてもいいし、自分でいい感じの名前を考えてもいいから」
「わかりまちた。わたちのなまえはアコです。これからはアコってなのりましゅ」
アコはそう言ってうれしそうに笑う。その姿は、見る者すべてに庇護欲を抱かせるような非常に愛くるしいものであった。
「かわいいなぁ。もしかしたらこれもあいつの策略なのかもしれない。でも、ここまできたらもう逃れられないかもな」
アコやダンジョンモンスターはダンジョンコアがなくなれば死ぬ。だが自分で名前を付けた後にこの笑顔を見せられれば、優斗としてもこの子を見捨てることはできない。それにNPCたちがダンジョンモンスターとして召喚されている以上、今の優斗にこのダンジョンを見捨てることは不可能だろう。
もしこれが優斗をダンジョンマスターにしようとしているであろうあの少年の策略であったとしたら、優斗はこの作戦にまんまとはめられてしまったのであった。
「ああ、こいつはすごくかわいいぜ。今すぐ抱き着きたいぐらいだ」
アシュリーはかわいいもの好きという設定である。どうやら今のアコの姿は、アシュリーの琴線に触れたようである。
「アシュリー……」
「いいい、いいからいくぞ!もう全員の武装はすんでいるだろ!?」
アシュリーがごまかすようにみんなを急かす。
「ああ準備オーケーだ。そんじゃあ五人で未知の探索に出発だ!」
これはゲームとは違って本当の危険があるということはわかっているが、それでも未知の探索という状況に少し胸を躍らせている優斗率いる探索隊が、ダンジョンから出発した。