いたずら
本日二話目です。
「妖精たちを甘く見ておった。まさか、これほどまでに厄介な者たちだとは思わんかった」
ケンシンは、自分たちが想定以上に苦戦していることを自覚した。
「まるでこの森全体が敵になったようだ。しかもすべてが致死性の攻撃と言うわけではなく、中にはこちらをおちょくるようなものまで混じっている。徹底的に攻撃されるよりも、これはこれで厄介なのかもしれないな」
ケンシンたちを殺そうとするような攻撃もあれば、殺傷性が低くおちょくられたように感じていらだちを生むような攻撃も混ぜてくる。そしてその緩急が、皮肉にもケンシンたちをさらに苦しめる要因となっていたのである。
それに妖精たちは気まぐれな存在だ。団体行動をとらずに、各々好き勝手攻撃を行っている。そのため妖精たちの攻撃に一貫性はなく、それもまたケンシンたちを苦しめる一因となっていたのだった。
「ねえケンシン?これから一体どうするつもりかしら?」
フレイヤはケンシンにこれからの方針を問う。高レベルNPCであるフレイヤなら、力ずくでこの状況を打開することができる。そしてそれは千代も同じであり、二人はこの状況でも余裕を持って臨めていた。
本当は二人に頼んで、この状況を迅速にどうにかしてほしいところである。しかしケンシンは、優斗の命令により彼女たちの力ばかりに頼るわけにはいかない。二人の力を極力使わずに支配を完了させるのが今回の命令であり、ケンシンはそれを実行しようとしていたのだ。
優斗が二人の力を極力使わないように命令したのは二つの理由がある。まず一つは、彼女たち二人の力は今回の切り札になると考えてである。
切り札はそう簡単には切れない。それに二人が部隊を見守っていて、彼らが対処できそうにない状況(例えば最初のモンスターの接近のような)に陥った時には助けるといった形をとったほうが、兵たちは安心して戦いをすることができるからだ。
そして二つ目の理由は、ダンジョンモンスターたちの成長のためである。彼女たちならこの森に棲む妖精ごときの魔法はほとんど効かない。また、魔力はあっても肉体能力の著しく低い妖精たちをとらえることも容易である。
彼女たちを使えば勝てる可能性は飛躍的に上昇するのだが、それだと二人ばかりが頑張ってしまい出番のないダンジョンモンスターの育成はできないのである。
「やはり厄介なのは妖精たちの幻術です。しかし、妖精たちはそこらじゅうにたくさんいます。一つ一つ対応していくというのは愚かであると考えます」
彼らの周囲にはたくさんの妖精がいる。もちろん見つからないようにその姿を隠しているのだが、それでも絶えず魔法を使われていることから、彼らは妖精たちに囲まれていることを理解できていた。
妖精たちは、ガドの大森林南側に数え切れないほどたくさん生息している。そのすべてをせん滅するには森自体を破壊するしかなく、そんなことはできないケンシンは頭を抱えていた。
「せめて彼らにボスがいれば楽なのだが……」
集団にボスがいれば、それを倒すことでその配下たちを従えることができる場合がある。しかしこの森の妖精たちにボスがいるという情報はないため、今はその方法は使えない。
「そもそもどうやって支配すればいいのか……主の命にはこたえたいが、今の吾輩ではその方法は思いついておらぬ」
ケンシンはこの任務を受けてから、何度も思い悩んでいる問題にまた突き当たる。
その土地を支配するにはそこにいる生物を支配し、どうやっても自分たちに従わない上に将来脅威になりそうな者は、特別な場合を除きすべて殺すか追放するかしなくてはならない。
ただの動物などなら反抗してきても怖くはないが、妖精のような知性ある生物や高い戦闘力を持つモンスターたちはその脅威に入る。
しかしこの場所は支配者などいない。妖精たちは気ままに行動しており、モンスターたちだってまとまっているわけではない。
つまりこの地は支配者不在であり、なおかつ部族のようにまとまって行動している者たちもいないのである。
支配者がいないところと言うのも厄介だ。支配体制が確立されていないため、自分たちが一から支配体制を築かなければいけないからだ。
しかしケンシンはいまだその支配体制を築く方法を思いついていない。そのため、ケンシンはずっとこの問題を解決できないでいた。
「ちっ!また妖精どもが仕掛けてきたか」
ケンシンがいくら考え込もうが、当然敵である妖精たちはそれを待ってはくれない。じっくりと考えていたい気分だったケンシンの気持ちを知ってか知らずか、妖精たちはここぞとばかりに攻めてきていた。
「主はどうしようもなくなった時にフレイヤ様を頼れとおっしゃっていたが、もう頼るべきなのだろうか?」
ケンシンもさすがに疲れてきていた。妖精たちは気まぐれにケンシンたちの邪魔をし、モンスターたちは隙あらば襲ってくる。このままずっとこれが続けば、いつかケンシンたちも疲労によってミスをして被害をこうむるかもしれない。
ケンシンたちの部隊のほとんどは、アンデッドなどの肉体的疲労を感じない種族である。しかし理性がある以上、肉体的疲労はなくとも精神的疲労は感じるのだ。
ケンシンは兵たちによる精神的疲労から被害を被る前に、そろそろこの膠着した状況からの突破口を見出したかった。
「もういい加減面倒になってきたわね。ねえケンシン、そろそろ私たちが動いてもいいかしら?」
フレイヤはそう言って微笑みを向ける。
フレイヤはアンデッドのように肉体的疲労のたまらない存在ではない。高レベルのため高い体力を持ち合わせてはいるが、それでも疲労はしていく存在なのである。
それに彼女は我慢強い性格ではなく、どちらかと言うと我慢するのが苦手な性格であった。
フレイヤはこの膠着した状況とそれを打開できそうにないケンシンに対して、いい加減見ているだけであることに我慢できなくなったのである。
「フレイヤ様にはこの状況を何とかできる手段があるのですか?」
ケンシンはフレイヤに動かれてしまったことを残念に思いつつも、この状況を何とかできるかもしれないフレイヤの手段と言うのに興味がわいた。
「ええあるわよ。成功するかどうかわからないけど、上手くいけば簡単に任務を終えられる方法がね」
「それならばぜひお試しなさってください」
「ええわかったわ」
ケンシンの了承を受けたフレイヤは、その場ですぐにある方法を使った。そしてそうすると、今までずっと敵対行動をとっていた妖精がフレイヤたちに降伏したのだった。
明日も投稿します。