表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/212

南で生きる者たち

  大陸でもっとも大きな森といわれるガドの大森林。モンスターに動物、そしてエルフなどの亜人すら住むその森は、そこに住むモンスターたちの脅威により図らずも外から来る者たちを拒んでいた。


  その森に棲む多種多様なモンスターたちは、侵入者に対してもいろいろな対処をする。西側の森ではあくまでそこに住むモンスターたちが食物連鎖の掟に従って襲ってくるだけだが、南側の森ではそれとはまた違う対処がなされているのであった。


「南の森はとにかく惑わせようとしてくるから、それらをしっかり見極めることが必要よ!」


  森の南側を支配しに来たフレイヤが、連れてきたダンジョンモンスターにそう発破をかける。彼女と千代以外はDPによって生み出されたモンスターであり、彼女たちよりも力は数段劣る。


  しかし事前調査の結果では、南にいるモンスターは今連れてきているダンジョンモンスターたちでも十分通用する相手であり、この戦力で十分だという計算のもと連れてきている。

 

  彼らはダンジョンの中では精鋭と言われる類のモンスターたちであり、一体一体がこの森でもそこそこの強者に分類されるくらいの力を持っている。

  そしてそれらが連携もできるように訓練されているのだ。力だけで言えば、フレイヤと千代がいなくても大丈夫なくらいの強さであった。


「ご安心ください。我らはこれでもダンジョンで精鋭と呼ばれる類の者たちです。我が主を含めた最古参の方々からすればいと小さき力ですが、それでも外のモンスターどもくらいなら簡単にひねり潰すことができますよ」


  フレイヤと千代が連れているダンジョンモンスター。その中でも上位の力を持ち、なおかつ姿が人に似通っている青年が、丁寧な口調でフレイヤに答える。


「ベリアルね」

「そうでございます。我が主によって創造され、今回あなた方に従うよう命じられたしがない悪魔でございます」


  男の名はベリアル。ダンジョンにより創造された悪魔であり、幹部候補になるよう優斗から期待を掛けられている悪魔でもある。


  彼は膨大なDP(今の優斗にとって)を使って生み出された悪魔であり、そのDPは彼の成長にすべてつぎ込まれている。

  ダンジョンモンスターの成長にDPを使いまくったらどうなるか、そして最初から強いモンスターを作るのと最初は弱くても育てれば後から前者よりも強くなるモンスターを作るのとでは、どちらがより効率がいいのかの実験のためにも作られた悪魔である。


  幸いこの森には、そこそこの強さを持つモンスターがたくさんいる。自分よりも強いモンスターをそのモンスターよりも強い者と共に狩ることで大幅なレベルアップを図る、いわゆるパワーレベリングを行うことで早く成長できるのだ。


  ベリアルはそういう目的で作られ、すでにパワーレベリングにより強くなっているモンスターだ。まだ彼よりも少ないDPで最初からある程度の強さを持つように作ったモンスターの中に勝てない者がいる程度ではあるが、それでもこの精鋭部隊に入るほどの実力は身につけたのであった。


「せいぜい油断しないことね。この森のモンスターはなかなかに狡猾な奴らみたいよ」


  フレイヤはそう言って薄く笑う。フレイヤの見立てでは、ダンジョンモンスターの一部は敵に対応できるかどうか怪しいといったところなのだ。


  立派な見た目と丁寧な口調をしているが、まだ生まれたばかりで技術も経験も足りていないベリアルが大きな子供のように見えたフレイヤは、まだまだ弱いのに自信満々な彼を愚かと思うと同時に、それがまた微笑ましくも思えたのだ。


「当然です。たしか南は妖精とモンスターが共存しているところでしたよね?」

「そうよ。もっと言うのなら、モンスターたちが妖精によって無意識に利用されているところでもあるわ」


  ガドの大森林の南は、ほとんど妖精が支配しているといってもおかしくない場所である。南の森にある花や木などに宿った妖精は、侵入者に対して幻術などを使い惑わせているのである。

  そして妖精は南の森に棲むモンスターに不利な幻術などを使わないため、侵入者は妖精の攻撃とモンスターの攻撃を二つ同時に対処しなければならないのである。


  妖精とモンスターは、なにも示し合わせて協調しているわけではない。妖精はモンスターたちを利用して幻術などを使っているが、モンスターのほうはただ侵入者を倒そうとしているだけで、妖精の攻撃に合わせて何かしようと言う意思はない。

 

  妖精は知能が高く、侵入者によってこの森が荒らされれば自分たちの身が危ないこともわかっている。そのためもとから森に棲んでいる者以外は徹底的に排除するし、森に棲み結果的に森を守ってくれるモンスターたちには危害を加えないのである。


  妖精たちは侵入者を惑わし、必要とあれば侵入者にモンスターをけしかけることもある。モンスターは知らず知らずのうちに妖精たちに利用されており、またそうすることで南側の防衛能力が高まっているのであった。


「妖精たちのテリトリーですか。確かに、それでは獣人どもにとっては相性が悪いですね」

「そうね。もし獣人じゃなく魔族とかの魔法が得意な種族だったら、南側は危なかったんでしょうね」


  獣人は魔法適性が低く、魔法を使ったり魔法を見破ったりすることが苦手である。もちろん魔法が得意な獣人もいるだろうが、当然その数は他の種族に比べると少なく、魔法使いとして種族的に獣人は向いてないという考え方は一般的であり、それがまた真実でもある。


  魔法が苦手な獣人に妖精たちの幻術を見破れるような実力者は少ない。南側に面しているのが獣人の国である以上、南側から侵入してくるのは獣人が多いのが当然である。

 

  南から森に入った獣人が妖精たちの魔法にやられ、そしてモンスターたちに追い打ちとして攻撃を加えられる。

  これが南側でよくある光景であり、南側が外敵にやられなかった理由である。


「ですが我々が来たからには終わりでしょう。偉大なるお方によって創造された我らが、この森にいる妖精ごときに後れを取るはずがありません」


  ベリアルの自信満々な言葉に、他のダンジョンモンスターたちも賛同する。


「そうなれ……!?なるほど。どうやらお出迎えのようね」

「そのようですね」


  フレイヤたちは敵の気配を感じ取った。魔法に対して無防備な者なら何も感じることがない空間だが、フレイヤたちには敵が仕掛けてきたことがよくわかる。


  全員がいつでも攻撃に移れるよう準備し、今まで以上に周囲を入念に見渡し始めた。





 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ