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撤退

今日は二話投稿です。

これは本日一話目です。

「来ないな」


  優斗たちの班が集合地点についてから三日、その間他のどの班も集合地点に来ることはなかった。

  本来ならここで落ち合って一度成果を報告しあうつもりだったのだが、どの班も来ないためそれが一向にできていなかった。


「三日も来ないとなると何かあったと考えるのが普通ですね。他に四つも班があるのに、それらが一つも来ないと言うのはさすがにおかしいですから」

「そうですね。それに冒険者である以上、何もアクシデントがなかったのに森で落ち合うのに遅刻してくると言うのは、プロ意識的にあり得ません。

  僕の仲間はまぎれもなく金級冒険者です。その彼らがいて三日も遅れていると言うことは、全員の身に何かあったことは確実でしょうね」


  優斗とジークはこの班のまとめ役として話し合う。今二人の間では、このまま他の班を待つ、自分たちから他の班を探しに行く、一度森から撤退するの三つが議論されていた。


「僕個人としては仲間たちを探したいですが、それにはかなりの危険が伴います。仲間たちに何かあったのは確実であり、その何かが排除されている保証もありません。

  戦力の分散は危険ですし、探しに行った冒険者が森で遭難する可能性も否めません。それにこのままここにずっといても食料や疲労の問題からよくありませんし、安全を考えるなら一度森から撤退するのが一番ですね」


  ジークはどちらかと言うと森からの撤退に賛成派である。たとえ自分の仲間たちが心配であったとしても他の冒険者のことを考えて理性的に判断しようとする様は、まさに冒険者の鏡ともいえる態度である。


「そのほうがいいかもしれませんね。森では大きな戦闘音が何度かしました。たぶんそれが強敵と戦った証でしょう。ならばこちらも危ないですしね。

  彼らが戦闘のダメージで動けない可能性もありますが、だとしてもこれだけ時間がたっているのであれば生きている可能性は限りなく低いでしょう。せめて戦闘音がしたときに向かっていればと悔やむところですが、今は悔しがってる場合じゃありません」


「そうですよね。今はまず自分たちが生き残ることを考えるべきだと思います。それに、もしかしたら森の外に逃げている人たちもいるかもしれませんから」


  優斗もジークも同じ意見であった。さすがに三日待ったのに他の班から誰一人集合場所に来ないので、そろそろ撤退しようという雰囲気になっていたのだ。


「他の冒険者たちもおそらく同じ意見でしょう。僕が皆さんに伝えてきますよ」


  ジークがそう言って微笑む。


「すみません」


  優斗が申し訳なさそうに謝ると、ジークは笑顔でこう続けた。


「構いませんよ。彼らの心情からしても、僕が言ったほうがいろいろと収まりがいいですから」

「だとしても、損な役回りを引き受けてくださるんですからありがたいです」


  冒険者たちはこの森に稼ぎに来ているのである。撤退することが最善だと頭では分かっていたとしても、感情的にそれを受け入れられない者もいる。また他の班に仲のいい冒険者仲間がいた者などは、他の班を一刻も早く探しに行きたいと思っているのだ。

 

  他の班に仲のいい冒険者がほとんどいない優斗が撤退を伝えれば不満を持つ者が出てくるかもしれないが、ジークなら少なくとも優斗が伝えるよりは不満が起こりにくい。

  なんせジークは自分のパーティーメンバーがいなくなっているのだ。他の冒険者はあくまで違うパーティーの友人を探しに行きたいだけだが、ジークは一刻も早く同じパーティーの仲間を探しに行きたい気持ちを抑えているのだ。

 

  そのジークが撤退を伝えれば、それに反対の冒険者たちも何も言えなくなる。撤退を伝えるなら、ジークが言うのが一番いい方法なのである。


「撤退した後はどうします?」

「撤退した後は近くの村で三日ほど休み、それでも他の班のメンバーが来なければ一度街に戻ってこのことを報告しましょう」

「依頼は失敗ですか……」

「ええ……残念ながら」


  ジークは依頼失敗と行方不明になっている仲間の安否を心配して沈んだ顔になっている。仮面で顔は見えないが、おそらく優斗も依頼失敗や他の冒険者のことを思って沈んだ顔をしているだろう。ジークは勝手にそう解釈した。


「とりあえず切り替えてこの森を出ましょう。依頼は失敗でしょうが、他の冒険者たちが死んでいるとは限りません。案外後でひょっこり出てくるかもしれませんしね。

  とにかく、今はこの森を安全に出ることだけを考えましょう。嘆き悲しむのは街に戻ってからいくらでもできますから」


  ジークはそう言うと、ほかの冒険者に撤退を伝えに行く。


「さすが金級冒険者パーティーのリーダと言うところか。実力はともかく、あの精神力は素晴らしいな」


  優斗は一人残ったテントでそう呟く。


「とりあえず一つ目の大仕事は終了した。だが、この仕事を終わらせた後はこれまで以上に忙しくなるだろう。これからいろいろと頑張っていかなくてわな」


  優斗はそう呟いてから、班の冒険者たちと合流する。


「それでは明日から撤退を始めるぞ!」

「「「「「「「「おぉ!!」」」」」」」」


  優斗たちは森の近くの村まで撤退した。その後三日待ったが誰も森から出てこなかったので、依頼失敗の報告をしに街へ向かった。



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