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追跡者

今日は二話投稿します。

これはその一話目です。

「今の音は何だったんだ?自然にこういう音が出るなんてことは普通に考えればあり得ない。もしかして、この森に俺たちが来たこと以外の変化が起きているのか?」


  彼は『フォレストレンジャー』のリーダであるウッズだ。彼が聞いた音は『熊殺し』の班が〈竜巻トルネード〉を食らった時の音であり、森のエキスパートである彼には遠く離れていてもその戦闘音がしっかりと聞こえたのである。


「確かにさっきそんな音がしましたね。遠くで何か戦闘でもあったのでしょうか?」

「その可能性は高いな。しかしあんな大規模なのは魔法か?今回集まった冒険者にそこまで大規模なのを使える奴がいたか?」

「最低でも上級魔法以上だよな。この街に上級魔法を使える冒険者はいなかった気がするが?」


  戦闘音の聞こえた『フォレストレンジャー』のメンバーは先程聞こえた音について口々に討論していく。素晴らしいことにその予想は今のところ間違っておらず、彼らの森における能力の高さがうかがえる。


「俺が知る限りいなかったぞ。そうなると最近青級になった『インフィニティーズ』か、金級冒険者『暁の星』のどちらかの魔法使いがやったんじゃないか?」


  中級魔法なら魔法使いの誰でも使える、と言うより最低でも中級魔法を使えなければその者に魔法使いを名乗る権利はないのである。

  もちろん使える魔法の等級がすべてではないが、それでも中級魔法を使えれば一端の魔法使い、上級魔法を使えれば一流の魔法使い、そして最上級魔法を使えれば超々一流の魔法使いとなる。


  ウッズの知る限りこの街に上級魔法を使える冒険者はいないため、味方が使ったとなると彼があまり情報をもっていない『インフィニティーズ』か『暁の星』になるのである。


「俺の知る限り、『暁の星』で上級魔法を使えるのは俺しかいないはずです。つまり味方が使ったとなればおそらく『インフィニティーズ』の魔法使い、そうでないとしたら味方ではない可能性のある上に上級魔法を使える強力な存在がこの森に現れたことになりますね」


  こう断言するのは『暁の星』に所属する魔法使いのケインだ。ローブを羽織った三十前後の痩せた男である彼は上級魔法を操る魔法使いであり、その腕はこの国でもトップクラスに分類されている。


「これが『インフィニティーズ』ならいいが、そうでない場合は敵対する可能性も考慮してそれ相応の覚悟もしておかねばならないか……」


  彼らだけでなく、彼らの話を聞いていたほかの冒険者たちにも緊張が走る。


「しかしこの森に上級魔法を使う存在がいたとは……簡単な依頼だと思っていたが、これはなかなかスリリングなことになってきたな」


  ウッズの言葉に『フォレストレンジャー』の面々が頷く。


  森で警戒すべき案件は増えたが、それでも彼らは依頼を継続していく。そして彼らは念のため音のした方には近寄らないように依頼を続けていた。


「つけられてるな」


  ウッズがボソッとこぼした言葉に対して、『フォレストレンジャー』の他の面々も肯定の意を示す。


「この追跡術は素人じゃないですね。現に私たち以外は誰も気づいていないようですから」

「確かにな。見たところ戦士系や魔法使い系はおろか、盗賊系の奴らも敵には気づいていないようだしな」


  どうやらこの中で敵につけられていることに気付いているのは、森のエキスパートである『フォレストレンジャー』以外にはまだいないようである。


「とにかくケインさんに相談しよう。あの人はこの班における最大戦力だからな」


  ウッズはケインに自分たちがつけられていることを伝える。


「こちらをつけている者たちがいるのですか……ちなみにそれはいつからですか?」

「俺たちが気づいたのは十分くらい前ですね。最初は気のせいかと思いましたけど、これだけの時間近くにいるとなると最早偶然ではないですね。十中八九こちらをつけているということで間違いないと思いますよ」


  追跡者たちは、ウッズたちにつかず離れずの距離でずっとついてきているのである。さすがに十分以上こうされては偶然で済ませられず、ケインもそれは理解したようである。


「コンタクトを取るべきでしょうか?」

「迷いますね。森の中に顔見知りでない存在がいて、しかも俺たちのように数も多く武装しているとなると向こうが警戒するのも当然ですからね。

  今の状況では向こうに敵対する意志があるのかどうかもわかりません。しかしかと言ってこのまま放置はよくないでしょうし、何らかのアクションを起こす必要はありそうですよね」


  ウッズは迷いながらもそう答える。


「しかしこちらの依頼は森を開発するためのモンスター討伐ですよね?ならば、こちらをつけている者たちは結局敵である可能性が高いのでは?」

「それはそうなんですがね」


  ウッズは困ったような顔をする。

  ケインの言うことは確かに正論である。敵の正体はまだわからないが、それでも森のこんな奥まで来ている以上、元からこの森に住んでいる生物である可能性は高い。そしてそれらは今回の討伐対象であるため、最終的にはそれと敵対する事になると言う考えは正しい。


  ウッズだってそんなことはわかっている。限りなく低い確率で自分たちとは別の理由で森に入ってきた冒険者の可能性もあるが、もしそうなら今頃ウッズたちに声をかけているだろう。そうでなくとも、声をかけず別の方向に向かっていくはずだ。わざわざ十分も尾行する必要はない。


  ウッズは自分たちを尾行している者たちが敵であると言うケインの意見には賛成だ。しかし、いま彼らと敵対することが得策であるとは思っていない。

 

  ウッズたち『フォレストレンジャー』以外が気づけなかったことから考えて、尾行している者たちの腕は相当のものであることがわかる。それにウッズたちは向こうがつけてきていることまではわかるが、その正確な数まではいまだ把握できていないのだ。

 

  実力はある程度高いと思われ、それでいてその数がわからない集団だ。もし自分たちよりも強かったら?もし自分たちよりも数が多かったら?こういったことを考えると、今彼らと敵対することはあまり気が進まないのである。


「あなたが向こうと敵対することに消極的なのはわかりました。しかし、こちらにその気がなくとも向こうから襲ってくる可能性もあります。念のため他の冒険者たちにもつけられていることを話したほうがいいのでは?」

「そうですね……ならまずは各パーティーのリーダーに話しますか。大々的に伝えてこちらの動きに変化があれば、それを合図に向こうが動き出しかねませんから」

「ではそうしてく……!」


  ケインとウッズが各冒険者パーティーのリーダーにつけられていることを伝えると決めた瞬間、木々の隙間から矢が飛んできて、それに気づいていなかった冒険者が射殺された。


「おいどうした!」

「敵の襲撃か!?それとも、誰かが裏切ってこいつらを殺したのか!?」

「また矢が飛んできたぞ!みんな身を守れ!」

「どうすれば……?」

「また一人やられたぞ!」


  冒険者たちは予期せぬところからきた突然の襲撃に混乱している。そして混乱している間にも矢が飛んでくるため、それによって五人の冒険者が死に、そして半分近くの冒険者が重軽傷を負った。



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