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集団戦

今日は二話投稿します。

これはその一話目です。

「なんだよこれ……」


  キッカと『熊殺し』を中心とした班は、今回の任務で最大のピンチに陥っていた。冒険者たちはその事態に対応すべく武器を構えるが、それでもこの状況を覆すにはかなりの力が必要とされる。


「お前ら行くぞ!ある意味、これが今回最後の仕事だと思え。この大群を倒せば、後できっとものすごい追加報酬がもらえるぞ!!」


  ドノバンが冒険者たちを奮い立たせる。

  冒険者たちのドノバンへの信頼、そしてこれを乗り越えた後自分たちに支払われるであろう金銭への欲、この二つによって冒険者たちは士気を取り戻した。


「しかしこの数はねえよな……。この数がいきなり出てくれば、こいつらの士気が落ちるのだって無理ないぜ」

 

  冒険者たちを囲んでいるのは大量のモンスターたちだ。その数は約三百体、冒険者たちは森にいるため正確な数を把握することはできていないだろうが、それでも百体以上いることくらいはわかっているはずだ。

 

  今回の討伐隊の人数は全体で約百五十人。それを五つに分けたため、一つの班にいる人数は約三十人前後、つまりモンスターの数は冒険者たちの約十倍ということだ。

 

  大規模な軍を展開できない森であるためまだいいが、それでも冒険者たちが囲まれているという事実は変わらない。

 

  この数の差、そしてすでに囲まれているという状況を見れば、先程のようにほとんどの冒険者が戦意喪失するのは無理もないことである。


「よく見ればオーガやゴブリン、それにオークなどのこの森でよく見かけるモンスターだけじゃないな。アンデッドや下級悪魔など、この森ではめったに見かけない奴らもたくさんいる。いや、むしろそういったモンスターの方が多いかもしれない。

  俺たちはアンデッドが出ないように死体はちゃんと処理していたはず。それに、もし今回俺たちが殺したことで生まれたのだとしても、これだけの数が生まれるにはさすがに早すぎる。

  それに悪魔がたくさんいるのだって普通はあり得ない。もしかして、この森には今何らかの力が加えられているのか?」


  アンデッドは負の力によって生まれるといわれており、特に死体がたくさんある場所には生まれやすくなると言われている。

  またアンデッドが増えるとそこはさらにアンデッドが生まれやすい場所となり、アンデッドがたくさんいる場所にはさらに強力なアンデッドが生まれやすくなる。

 

  実際墓地にはアンデッドが生まれることが多く、ここにいる冒険者たちも一度くらいは墓地でアンデッドを狩る依頼を受けたことがある者もいるだろう。


  このように冒険者たちはアンデッドの習性や厄介さを知っている。そのため、今回殺したモンスターたちの死体処理はある程度気を付けてきたのである。

  そうすればアンデッドが生まれないはずであったし、そもそも仮に生まれたとしてもこれだけの数がこの短期間で生まれるはずがない。つまりこのアンデッドたちは、誰かによって人為的に生まれたものだと推測できるのだ。


  それに下級とはいえ悪魔がいるのだっておかしい。そもそも悪魔は魔界という別世界に存在している生命体だという説が有力で、この世界で生まれてくるようなものではないとされている。

 

  悪魔は自力でこの世界に来るタイプと召喚されてこの世界に来るタイプがいる。自力で来たタイプだとすれば、これだけの数がたまたま一か所に集まっているというのはさすがにおかしい。そのため、この悪魔たちは召喚されたタイプだと考えられる。


  つまりこのアンデッドも悪魔も、自然発生ではなく意図的に集められたものである。ドノバンはそのことにいち早く気づくのと同時に、それをなした者を非常に警戒していた。

 

「では行け」


  どこからか声が聞こえてくる。冒険者たちはそれが誰の声でどこから聞こえたのか不思議に思ったが、彼らのことを囲んでいるモンスターたちがその声を合図に動き出したため、そんなことを考えている暇は与えられなかった。








「くそっ!こいつらには恐怖心っていうやつがないのか!?」


  冒険者たちは苦戦している。モンスター個々の強さはそこまででもないのだが、なんにせよその数が多い。敵は物量作戦をとっており、倒しても倒しても敵が向かってくるのだ。

 

  そして何より厄介なのが、敵の突撃に恐怖心がまるで感じられないところだ。

 

  普通なら味方が死ねばある程度動揺するし、それが自分の身にも降りかかるかもしれないと思って突撃するのに恐怖する。生きている以上死は恐怖するし、恐怖しなくてはならない。それが生きている者としての本能である。

 

  しかし今攻撃してくるモンスターたちにはそれがない。すでに死んでいるアンデッドや自我のないモンスターならそれもわかる。しかし、普段なら明らかに死を恐怖するはずのモンスターたちまで死を恐れていないのだ。


  死を恐れぬ敵と言うのは怖い。なぜならその者たちは自分の生死などどうでもよく、ただ目の前の敵を殺すためだけに迷いなく攻めてくる。その執念は厄介であり、またその異様な光景によって恐怖する者も現れる。

 

  冒険者たちの中にもその光景に気圧されてしまった者たちがおり、そうなった者たちは迷いのない敵の攻撃によって殺されていく。

  ただでさえ数の少ない冒険者たちはその数が減れば減るほど痛手であり、彼らは着実に敗北に向かっているのであった。


「情けない冒険者たち!もっと粘れないの!?」


  キッカが冒険者たちを叱責する。彼女は金級冒険者らしく向かってくるモンスターたちを一人でたくさん倒しており、一人だけながら今のところ一番活躍している。


「彼女の言うとおりだ!実力で負けるならともかく、敵の迫力のせいで負けるなんて情けないし後で後悔するぞ!後で後悔したくなかったらもっと全力で戦え!!」


  冒険者たちを指揮しているドノバンも彼らを叱責する。キッカ以外の冒険者たちは彼の指揮に従って戦っており、普段なら違うパーティーとして活動している冒険者たちが瓦解しないのも彼とそのパーティーメンバーのおかげであるといえる。


  冒険者たちはキッカとドノバンの叱責が効いたのか、それとも小柄の少女であるキッカが奮戦している姿を見て火がついたのか、先程よりも若干冒険者側に勢いが出てきた。


「(だが敵の数がわからないのは厄介だな。どこまで行けば終わりなのか見えないと士気も下がってくる。このままいけばいつかじり貧になるのが見えている。最低でも、残りの敵の数くらい分かればいいのだが)」


  ドノバンはいまだ数のわからない敵に苦悩していた。終わりが見えないとどこまでやればいいのかわからないし、冒険者たちのこの勢いだってずっと持つわけじゃない。

  それに冒険者たちは人間なのだ。アンデッドのように肉体的疲労がたまらないわけではないので、時間がたてばたつほどにそのパフォーマンスは低下していく。


  そのことは当然ドノバンだけでなくこの状況でもある程度頭の回る者は全員わかっており、その者たちには徐々に焦りの色が見え始めている。

  しかしそれでも今は戦い続けるほか道はなく、冒険者たちはとにかく向かってくる敵を倒し続けた。


「ハァ、ハァ、やっと……終わったのか?」


  もうどれくらい戦っただろうか?すでに立っている冒険者たちの数は五人しかいない。

  青級パーティーの『熊殺し』からも死者が出ており、ドノバンを含めた『熊殺し』から二人、そして金級冒険者のキッカと緑級パーティーのリーダー二人以外に立っている者はいない。それ以外は全員倒れており、おそらくかろうじて生きている者だってその中の数人しかいないはずだ。


「とにかく他の者たちと合流しなければ。この状況で討伐を続けることはできない。まずはここから離れて安全を図るか」

「ちょっと待てくれ。ドノバンさん、あんたはここにいる奴らを見殺しにするのか?」


  生き残った緑級冒険者の一人が、撤退を宣言したドノバンに非難めいた顔を向ける。


「そんなこと誰だってしたくないに決まっている。しかし今の俺たちに何ができる?彼らを助ける余裕などあるのか?」

 

  ドノバンがそう言うと全員が黙る。

  立っているのが五人とはいえ、その五人だって当然それ相応に疲労している。特に獅子奮迅の活躍を見せていたキッカの疲れは大きいだろう。彼女がいなければこの班は全滅していた。それくらい彼女は大活躍だったのである。


  そしてこれだけ数が減り疲労した状態で討伐を続けられるわけがない。早いところ他の班と合流する必要があるだろうし、場合によってはすぐに森を出なくてはならないかもしれない。


  ドノバンにだって仲間の死体を放っておきたくないという気持ちはわかるし、それは彼以外の生き残った冒険者たちだって持っている気持ちだ。それにその中にはかろうじて生きているかもしれない者だっているのだ。それを見捨てると言うのはしたくないことだろう。


  しかしこの場にずっととどまっているのは危険だし、血の匂いに誘われていつモンスターがここを襲ってくるかわからない。

  だから早急にここから離れる必要があるし、ドノバンを非難した冒険者だって理性ではそのことを理解できているのだ。ただ、感情がまるでそれに追いついていないのである。

 

「わかったら早くここから離れるぞ」

 

  ドノバンを非難した冒険者もようやく気持ちを整理で来たのか、渋々ながら動き出そうとする。


「くふふふ、それは困りますねえ。あなた方には、ここで死んでもらわねばなりませんから」

「「「「「!?」」」」」


  ここから立ち去ろうとするドノバン達の後ろから、それを引き留めるどこか魅力的な、それでいて背筋が凍るような恐怖もある不思議で恐ろしい声が聞こえてきた。



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