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熊殺しの事情

  討伐隊がガドの大森林に入って数日から、大規模討伐によるものか?それともモンスターたちが討伐隊を恐れて逃げたのか?もしくはその両方か?ともかく、ガドの大森林西側にいたモンスターたちの数は確実に減少していった。

 

  討伐隊は二日目から今日までずっと五つに分かれたままであり、昼夜に関わらず活動する場所はそれぞれ別の場所であった。そして討伐する範囲が班ごとに決まっているため、班の違う冒険者たちはずっと会っていないままである。

 

  当然この日も討伐隊は五つに分かれて別々の場所で活動している。あと数日もしたら一度合流してけが人や班ごとの成果を確認することになっているので、冒険者たちにとってはその前に最後の一働きである。


「今回の依頼はすごい追加報酬が望めそうですな。ガドの大森林にたくさんモンスターがいることは知っていましたが、まさかここまでとは思いませんでした」


  彼は『熊殺し』のリーダーでドノバンという。周囲より頭が一つ二つ抜けている大男で、個人としても『熊殺し』の異名を持つがどっちかという彼の方が熊ではないかと錯覚するような男だ。

 

  しかし彼は凶暴な熊と言うよりは温厚な熊であり、戦闘時は恐ろしいがそれ以外の時はものすごく温厚である。そのため、同業者だけでなく街や村の住人からも慕われているのだった。


「おじさんの言う通りね。私たちのところにだけ異常にたくさんいるなんてことは普通ありえないだろうし、ここ以外の班もたくさん狩っていそうね」


  この少女の名はキッカ。ドノバンとは反対に小柄の少女であり、二人が一緒にいると父娘でもおかしくないような錯覚を受ける。

 

「あいつ……またドノバンさんにあんな口を」

「おいやめろ。あれは別に何もおかしくない行為だぞ」

「けどあんな小娘がよぉ」

「それが冒険者だ。それにそれを言うなら、『ルクセンブルクの華』だってそうだろうが」


  この冒険者は非常にドノバンを慕っている。昔危ないところを『熊殺し』に助けられたことがあり、その後もいろいろと世話を焼いてくれたドノバンを非常に慕っているのだ。

  本当ならそのドノバンにあんな口を利く小娘を見過ごしたくはない。しかし、そうできない正当な理由もまた存在しているのだ。


  まず一つはドノバン本人がそれを許していることだろう。本人が許している以上、なかなか他人がそれに口を突っ込めないものである。

 

  そして二つ目が一番大きな理由である。それはキッカが自分たちはおろかドノバンたちよりも格上の冒険者だからだ。

 

  キッカは金級冒険者パーティー『暁の星』のメンバーの一人だ。一度班全員の前でその力を見せてもらったことがあったが、その力はキッカをよく思っていない者からしても金級冒険者にふさわしいと認めざるを得なかった。

 

  冒険者である以上相手が何歳でどんな性別や容姿をしていようが、その者が自分よりも実力が上である以上何も言うことはできない。


  彼自身も自分がキッカやドノバンに何か言える立場ではないことは十分に分かっているため、表立っては何も言わないのである。


「(ジーク殿がこちらにキッカ殿を預けたのは正解であったな。あの性格と容姿では、ここ以外の班に行くと何かしら問題が起こってもおかしくはなかった)」


  ドノバンはここ数日この班で過ごしてきて、キッカやその周りの反応を見て強くそう思う。

 

  キッカの実力は紛れもなく本物だ。それはドノバン以外の者たちも認めるところであり、この班の全員がわかっていることだろう。しかし、それでもまだあの見た目に抵抗を覚える者がいることも事実であった。


  冒険者には男が多く、戦闘において女を軽視する者も中にはいる。特に若くてパーティーメンバーが男だけの冒険者たちに多く、その者たちはキッカのことをまだ素直に受け入れられていない。

 

  ドノバンも自分がキッカよりも下だと態度で示したり、キッカの力を見せて他の者が認めやすくなるように努めたのだが、それでもまだ全員がちゃんと受け入れられたわけではなかった。

 

  半分以上はちゃんと受け入れられているし、残りもドノバン達『熊殺し』が中心になってフォローしているので大丈夫そうだが、もしこれが他の班だったらと思うとドノバンは少しぞっとする。


  キッカは良くも悪くも正直な性格だ。思ったことは遠慮なく言うし、ドノバン達格下の冒険者に敬語を使う気もない。そしてキッカは小柄な女の子だ。いくら金級冒険者だろうが、その容姿で自分たちよりも上にいることに関して反感を持つ者がいることも理解できる。


  もし彼女が『スネークヘッド』のところに行けば間違いなく争いになっていただろう。なぜなら、男だけで構成されている『スネークヘッド』は女性冒険者を軽視している冒険者パーティーの一つだからだ。

  そこにキッカのような子が行けば、少女であるということやその性格から、その班内で争いになることが予想される。

 

  反対に『ルクセンブルクの華』は女性しかいないパーティーだが、そのリーダーである伯爵令嬢はわがままなことでも有名だ。それに彼女は、よく冒険者としてのランクよりも貴族としての身分を持ち出してくることが多い。

  キッカは平民だ。二人の性格からしてどちらかが下手に出ることはないだろう。性別は同じでもランクと身分のギャップにより諍いになると予想される。


  残りの『フォレストレンジャー』と『インフィニティーズ』の場合は少し似ていて、おそらくキッカと彼らの周りが諍いになるだろうと予想される。

  口数の少ない者が多い『フォレストレンジャー』は、今の『熊殺し』のように他の冒険者をフォローするような性格ではない。

  そしてまだ新人の部類に入る『インフィニティーズ』は、フォローしようとしてもまだそれができるほど他の冒険者からの信頼を得ていない。

 

  『フォレストレンジャー』はメンバーの性格的に、『インフィニティーズ』は女性が多いというメンバー構成的に、おそらくキッカが少女ということは特に気にしないはずだ。しかし、どちらも班の中にいるそれを気にする者たちを抑えられないため、結果として諍いが起来てしまう可能性がある。


  実はジークもそれを懸念してキッカを評判の良い『熊殺し』のところに預けており、今のところそれはうまくいっているといえる。


「!?全員準備してください!先ほどまでとは比べ物にならないほどの敵の数です!!」


  盗賊の女がそう叫ぶ。彼女はこれまで何度も敵を見つけてくれていたのだが、その時はここまで慌てることはなかった。

  彼女以外の盗賊も同じものを察知したのか、だんだん顔色が悪くなっている。


  危機を感じ取った者たちはもちろん、周りの様子を見て異常だと感じられた者たちも武器をとって警戒を始める。


  全員に緊張感が走り完全に戦闘準備ができたころ、盗賊以外の者たちもようやく近づいてきたものを察知することができ、それと同時に全員の心に恐怖が芽生え始めた。


「……いったいどうなっているんだ」


  誰がつぶやいたのかわからない一言。しかしその一言が、そこにいる冒険者達全員の気持ちを代弁していた。



 

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