二日目の成果
「君たちがこの街注目の新人冒険者たちだね。なんでもたった二か月で青級まで上り詰めたとか。昔の僕たちでもそんなことはできなかったよ。これは、後三年後には追い付かれているかもね」
金級冒険者パーティー『暁の星』リーダーのジークと、青級冒険者パーティー『インフィニティーズ』リーダーのノームこと優斗が会話をする。
「いえいえ。俺たちはただ、冒険者になる前からちゃんと鍛えられていただけですよ。そうでなくては、ここまでのスピードで昇格することはできませんよ。
残念ながらその貯金もそろそろ尽きてきているので、これからの昇格はもっとスローペースになると思いますよ」
二人が会話しているのは、ジークが『インフィニティーズ』のいる班のメンバーになったからだ。この班のトップは彼で、ナンバーツーは優斗たちの班になる。そのため、インフィニティーズリーダーである優斗と彼が話すことになっているのだ。
「それでもすごいことだよ。それに仮面をかぶっている君はよくわからないけど、声からするとたぶんまだ僕よりも若いでしょ?
パーティーメンバーの子は僕よりも若い女の子ばかりだし、これから精進していけば僕たちくらいの頃には金級まで行けてもおかしくないよ」
「それなればいいんですが。
しかしあなたがこの班に来てくれて助かりました。まだまだ新人の俺たちに、ベテランの彼らを納得させるのは容易ではありませんから」
ジークが『インフィニティーズ』の班に入ったのは、五つの青級パーティーの中でここが一番他の冒険者との交流が少なく、またその立場もまだまだ強くないからであった。
ベテランでなおかつ評判のいい『熊殺し』は他の冒険者からの信頼が厚く、年数的には中堅にあたる『フォレストレンジャー』は森に関してのエキスパートだ。
同じく中堅だが素行の悪い『スネークヘッド』は他の冒険者に信用されていない。しかしそれでも、彼らの実力だけは他の冒険者たちに一目置かれている。
そして女のみで構成される『ルクセンブルクの華』のリーダーは伯爵令嬢で身分が高く、他のメンバーだってルクセンブルク伯爵の家臣の子供ばかりだ。女とはいえ、貴族でなおかつ今回の依頼主の娘を軽んじることはできない。
優斗たちはランクこそ青級であるとはいえ、まだまだ経験が浅くほかの冒険者との交流が少なく、冒険者たちは優斗たちの実力をよく知らないのだ。その上優斗たちは身分が高いというわけでもないため、他の青級パーティー四組に比べると見劣りしてしまうのである。
他の四組なら問題なくリーダーシップをとれそうだが、まだ新人の『インフィニティーズ』には少し荷が重い。こういったいろんなパーティーとの合同任務も初めてのためなおさらだ。
そのため『暁の星』の中でもとりわけ人望が厚く、周りをまとめることに長けているリーダーのジークが『インフィニティーズ』のいる班に入ることになったのであった。
「そう言ってもらえてうれしいよ。君たちなら今回に限らず他の依頼で会うことも増えるだろうから、その時はよろしく頼むよ」
「はい。機会があればよろしくお願いします」
優斗たちはパーティーリーダー同士で交流を深めながらも、絶えず周囲を警戒していた。当然他の冒険者たちも気を緩めてはいない。特に金級冒険者であるジークはすごいもので、他の冒険者とは違い警戒をしながらも完全にリラックスしているように見える。
さすがにこのレベルの冒険者になると森の中で気を抜かないのは当たり前として、警戒をしながらもリラックスするという器用なことができるのである。これは非常に大事な能力で、これができると精神的疲労を抑えることができるのだ。
金級冒険者の『暁の星』と、森のエキスパートである『フォレストレンジャー』、そしてインフィニティで鍛えたアシュリーとユズはこの技術を身に着けていた。
優斗はまだまだこれができない、というより一番の素人であるためそういう技術は今回の中で一番下手といえるレベルであった。
しかし優斗はたとえ不意打ちができたとしても、この森に自分を倒せるような者はいないということを理解しており、その精神的余裕からある程度楽になることができていた。
「来たね」
「そうみたいですね」
優斗たちの班がモンスターと遭遇した。
事前の取り決めにより、遭遇したモンスターはあらかじめ決めておいたパーティーが相手することになっている。
他のパーティーはそのパーティーが危ないと感じた時、具体的には傷を負いそうだったり敵の数が多くてそのパーティーだけでは処理できそうにないときのみ手を出すことが許されている。
多数で戦う時の一番のメリットであるたくさんのところからの同時攻撃と言うことはできないが、その代わり出番でない冒険者パーティーは休むことができる。
少し効率が悪いかもしれないが、冒険者たちのもめ事をなくすには一番シンプルでわかりやすい方法であった。
優斗たち以外のすべての班でも、自然にこれと同じ方法がとられることになっていた。
「うわっ!ただのゴブリンかよ」
「しかもたった三体だぞ」
「こりゃ外れ引かされたな。どうせならもっと強いの、例えばオーガとかぐらいが出てほしかったぜ」
これから戦う順番が訪れる冒険者たちが不満を漏らす。
優斗たちの方法だと、いざ順番が来るまでどのモンスターと自分たちが当たるかわからない。今回のように自分たちにとって弱すぎるモンスターと当たることもあれば、逆に自分たちだけでは手に負えないモンスターと当たることもある。
今回順番が来た冒険者たちは緑級冒険者パーティーであり、ゴブリン三体なんて一人でも簡単に倒せる。そもそもゴブリンは新人の黒級冒険者が相手取るような存在であり、今回呼ばれている冒険者たちからすると簡単すぎる相手だ。
逆に冒険者が言ったオーガは緑級冒険者が相手取るにはふさわしい相手であり、彼らだって一度討伐経験がある。
もしオーガが二体以上でたら彼らでは厳しいが、一体なら何とかなる。もし失敗しても今回は後ろにたくさん冒険者がいるため、できるだけ手柄になりそうな相手と戦っておきたかったのだ。
「まあ決めたことには従わなきゃな。とっとと殺すぞ」
「「「了解」」」
ゴブリン三体はすぐに殺された。彼らだけでなく他の冒険者からしてもそれは普通の光景であり、特にリアクションもなく次の獲物を探していた。
その後もモンスターが何体も見つかるが、それらは簡単に討伐されていった。
「この街の冒険者もやるね」
「そうですか?あれくらいなら比較的誰にでもできそうですが」
ジークのした称賛に、あれくらい黒級以外なら誰にでも簡単にできる考えている優斗が疑問を抱いた。
「そうでもないさ。単純な強さなら僕たちのいる街の冒険者の方が上だけど、様々なモンスターへの対処、特に森でモンスターと戦闘するという点で言えば彼らの方が上だと思うよ」
「まあこの大森林があればいやでもそうなりますよ。腕が上がれば上がるほど、この森に来たほうがたくさん稼げますからね」
ガドの大森林は周辺地域で最も広大な森だ。その広さは圧倒的であり、今侵攻しているガドの大森林西側だけでも普通の森と同じかそれ以上の広さを誇る。
ルクセンブルクはガドの大森林の影響もあり、その領地に生息しているモンスターの数と種類は少なくない。そのため冒険者の仕事はモンスター退治も多く、この街の冒険者たちは様々なモンスターと戦う機会が多いといえる。
また、腕に覚えのある冒険者は森に入って稼ごうとする。森はたくさんのモンスターがいる上に、薬草などのお金になるものもある。
森でも十分に活動できるだけの実力があるのならば、森に入って活動したほうが比較的早く稼げるのである。
そのため、『フォレストレンジャー』を筆頭にこの街の腕利き冒険者は森に入ることも多い。そういうこともあり、ジークのほめたような冒険者の数が多いのである。
「僕も戦いたいけど、さすがに一人でっていうのもよくないよね」
「ですね。それに、あなたが出たら他の冒険者も出にくいんじゃないですか?でるなら俺たちには手に負えないレベルのモンスターが出てきた時だけにすればいいのでは?」
いくら金級冒険者とはいえ、パーティーメンバーがいず一人だけではその対応力も大いに落ちる。もちろんそこいらの冒険者パーティーに比べれば一人でもすごいのだが、それでも今の状況的には動かないほうがいいだろう。
なぜなら、今回のリーダーでもある金級冒険者が積極的に戦いだせば彼らに劣る実力の他の冒険者の出る幕がなくなる。
優斗たち青級冒険者パーティーも、今回は他の冒険者たちでは手に負えなそうな相手が出てきた時のみ戦いに参加することになっているのだ。それなのに、青級よりも上の金級冒険者たちが参加するわけにはいかない。
幸い『暁の』星のメンバーは全員そのあたりもしっかりわかっているようで、どの班でも彼らがむやみに戦闘に手を出すことはなかった。
「なんかこれ、君たち青級はともかく僕たち金級はいらなそうだね。報酬がいいから文句はないけど、戦力的にはわざわざ来なくてもよかったかな?実際依頼を受けたのも一か月前だし、こっちに来るまでのことを考えたらスケジュール的にけっこうぎりぎりだったんだよね」
ジークは出現モンスターとそれに対処していく冒険者を見て言い放つ。
「でも金級冒険者が後ろにいてくれれば心強いですよ」
「またまたー。そんなことかけらも思ってないくせに」
「そんなことありませんよ。冒険者たちはみんなそう思っていると思いますよ」
「みんな、ね……」
ジークが優斗に疑いのまなざしを向ける。彼は優斗たちの実力を買っているようで、今回参加したルクセンブルクのどのパーティーよりも優斗たちに高評価をしているようであった。
「(たぶん『暁の星』が急に呼ばれた原因は俺たちだよな)」
ルクセンブルクには、『ウルフファング』という銀級冒険者パーティーがいた。
優斗の予想ではおそらく今回のリーダーは、もともとルクセンブルクをホームタウンにしていてなおかつこの街ナンバーワン冒険者の彼らだったのだが、それが行方不明になったせいで急遽別の街から『暁の星』を引っ張て来たように思える。
もちろんこれが真実なのかどうかはわからないが、それでも優斗だけでなく他の冒険者たちも何となくそう思っていた。
そしてもしこれが真実だった場合、『暁の星』が今回の依頼に呼ばれたのは『ウルフファング』を捕らえた優斗たちのせいだと言って間違いない。
「(まあこれも運命と言うやつだな)」
優斗はそう心で言いながら自分の仕事を続けていく。
すっかり夜になってしまった森で、一日目よりもずいぶん森の奥に進んだ討伐隊は班ごとに夜営を行った。