初日の狩り
冒険者の大軍は素早く、そしてどこか余裕のありそうな足取りで森の中を進む。彼らは現れる敵を片っ端から討伐していき、邪魔な木があれば容赦なく伐採していく。
ここはどうせ開発地になるのだ。彼らはそれに邪魔なモンスターを殺すことが依頼であるが、その過程で邪魔なものを破壊したとしても咎められるようなことはない。
冒険者は普通どちらかというと自然を大事にする。それは自然で採取できる薬草や、自然に生息している動物やモンスターを狩ることで生計を立てているからである。
しかし今回はそれが適用されることはない。彼らが今踏み荒らしている自然はどうせこの後に行われる開発によってなくなるものであり、むしろこうすることで手間が省けて喜ばれるのだ。今回は感謝こそされ、他の冒険者に恨まれることもないのである。
「しかしこりゃ簡単だな。これだけの冒険者がいれば、そこいらにいるモンスターなんて簡単に殺せるぜ」
「そうだな。こりゃ今回の依頼は楽勝だな」
「当たりめぇだ。今回は俺たちみたいな赤級だけじゃなく、その上の緑級と青級、そんでもって金級冒険者様がいるんだぜ。これで逆にどうやったら失敗するんだよ!」
冒険者たちを襲ってくるモンスター、反対に逃げていく動物やモンスター、どれも見つけた段階で素早く処理していく。
これだけの冒険者が揃っていれば森のモンスターなど恐るるに足らずという感じで、冒険者たちは迷わず進んでいく。
冒険者たちも普段パーティーで挑めば苦戦したり、場合によっては負けてしまってもおかしくないようなモンスターたちが、自分たちになすすべなくやられていくのを見て気持ち良くなっているのだ。
さすがに森の浅いところにいるモンスターたちではこの大群をどうすることもできず、見つかり次第なすすべもなくやられていくのだった。
「しかし大人数で固まったままなのはどうなんだ?もう少しばらけた方が討伐数が上がりそうだが」
「そうだよな。そのほうが一回での捜索範囲は増えるよな」
冒険者たちは今、全員が一塊になって行動している。そのことによって遭遇したモンスターはすぐ討伐できるのだが、欠点としてモンスターと遭遇する機会が大幅に減ってしまうということがある。
確実性をとるなら今のままが一番だが、仕事をなるべく早く片づけることを考えればいくつかの班に分かれたほうが適切である。
「おいお前!なんでそこで魔法なんだよ。今のは前衛の俺が前に出て倒すところだっただろ!?」
「さっき前に出るところで出なかったくせに何言ってやがる!?お前が出そうになかったから魔法を使ったんだ!」
「さっきはもっと引き付けてからですつもりだったんだよ!お前ら、最近緑級になったばかりのくせに生意気だぞ。俺たちの方がよっぽどベテランなんだからな」
「冒険者は実力主義だ!何年前に昇格しようがランクが同じことは確かだろ」
「なんだと!」
「やるのか!?」
近くにいる緑級冒険者同士が言い争っている。彼らだけでなく、各所で違うパーティーの冒険者同士が言い争うところが多々みられる。
冒険者というのは基本的にパーティー単位で行動するので、このような大規模集団での行動をする機会がほとんどない。
戦争に参加することのある冒険者は集団戦にもある程度慣れているが、そうでない冒険者はこういうことに慣れていない。
気心が知れていて一緒に何度も連携を取り合っているパーティー同士ならともかく、そうじゃない始めて組むパーティーと一緒になるとこういうことも起こりやすいのだ。
集団というのは、たくさんいればいるほど周りと合わせるのが難しくなってくる。ただでさえそれが苦手な冒険者なのに、今回のように何百人といる集団の中だとさらに難易度が上がるのである。
「おい!それは俺たちが倒そうとしていた獲物だぞ。横から割り込んでんじゃねえ!」
「何言ってる。俺たちは手助けしてやったんだ」
「嘘つけ!俺たちが倒せそうなところで手を出してきただろ」
「お前たちが倒せそうだったと言う証拠はあるのか?」
「当たり前だ!戦っていた俺たちがそう言っているんだからな」
「それは証拠にはならないぞ」
「なんだと!」
冒険者たちには連携不足だけでなく、獲物の取り合いも起こっている。彼らは追加でもらえるというボーナスのために、できるだけ自分たちのパーティーだけでモンスターを倒したいのだ。
しかしこんなたくさん人がいる場では自分たちだけで戦闘することも難しく、意図的かどうかに関わらず獲物を横取りされることも多々あるのだ。
モンスターが対処できるかどうかのぎりぎりまで出現するなら、冒険者たちは自分たちのことで手いっぱいになるためこういうことも起こりにくい。しかし、今のように出現するモンスターの数が冒険者たちの数に比べて少ないとこういうことが起こる。
森にいるモンスターたちもこの大群とまともにぶつかり合いたくはないため、この集団から逃げるように移動しているのである。そのため、彼らが遭遇するモンスターは少ないのだ。
もっと少数なら気配を消したりできるのだが、この人数だとさすがにそれはできないのである。
「どうしますか隊長。他の冒険者たちからは不満も聞こえてきますよ」
この森に関するエキスパートということで、この辺の地理に疎い『暁の星』をサポートする形で一緒にいる『フォレストレンジャー』のメンバーが、『暁の星』のリーダーに聞く。
「そうですね……やっぱりこれだけの数の冒険者が集まると、軍のように固まって動くのは悪手かもしれませんね。この方法が一番犠牲も少なくて楽そうだったのですが、彼らのことを考えるとやめたほうがよさそうですね」
『暁の星』のリーダーはそう言って考えるそぶりをする。
今回冒険者たちに与えられたのは依頼は、ガドの大森林西側に住むモンスターの大規模討伐である。普通に考えるなら、とにかく範囲内にいるモンスターをできるだけ討伐すればいい。みんなそう思っているし、だからこそ積極的にモンスターを討伐する。
しかし、今回の隊長である彼は少し違う考えを持っていた。
この依頼の真意は、モンスターの討伐ではなくそのあとに森を開発できるようにすることだ。つまりモンスター討伐はあくまで目的ではなく手段なのであって、モンスターを倒そうが倒すまいが結果的に開発予定区域からモンスターを追い出すことができればそれでいいのである。
野生に住む動物やモンスターと言うのは、縄張り意識や生存本能が街に暮らす人などよりもはるかに強いといわれている。
彼は冒険者の大群で周りを威圧し、その範囲内のモンスターをすべて殺すことでいわば縄張りを主張しようと考えていたのである。
冒険者が少数に別れてモンスターは各自で殺していくよりも、その範囲内で縄張りを主張して逃げたモンスターたちが再び帰ってきにくくすることを狙っていたのだ。
そのほうが開発をするには都合がいいだろうし、なにより向こうから逃げてくれれば戦闘をする手間を省ける。
一流の冒険者と言うのは無駄な戦いを避けるものである。彼ら『暁の星』もそれにふさわしく、最も効率的だと思われる手段で依頼を遂行しようとしたのだった。
「いくら効率のいい方法でも、それで冒険者たちが争っていたら本末転倒だよな……ならこうしよう。とりあえず今日一日はこのままいって、明日の朝からはいくつかの班に分かれて狩りをすることにしようか。
班は青級冒険者五組がそれぞれのパーティー毎に別れて、その下に他の緑級以下のパーティーがつくということでいいかな?僕ら『暁の星』はその班に一人ずつ入ればいいだろうし、僕らもちょうど五人組だから問題はなさそうだね」
冒険者たちはとりあえず日が落ちるまではそのままの体制で討伐を実行し、その後あらかじめ決められていた地点まで到着してから野営を始めた。
そしてその時にこの新しい方針が発表された。寝る前にその班分けを行ってから、パーティー毎に用意されたそれぞれのテントで各自睡眠をとった。
ちなみに夜の見張りはそれぞれのテントの前に一人ずつ置くのがルールであり、優斗たちも交代で見張りを置いていた。
インフィニティでそれをやったことがあるユズとアシュリーは比較的慣れた感じでやっていたが、それをやったことがないクルスと、ゲームでしかやったことがない優斗は当然のように苦戦していた。