道中
「あの……『暁の星』の方々は確か、ブルムンド王国の北で活動することが多いんですよね。私たちはこの街から出たことがないからわからないんですけど、北の方ってやっぱり寒いんですか?」
「今の時期はここと比べても大きな差はないよ。ただ、冬になるとやっぱりいろいろとすごいかな。特に雪がすごい積もるからね」
「どれくらい積もるんですか?」
「平均的に言うと膝の高さまで。でも北の端でひどいときは一メートルくらい、つまり普通の人間の腰のところまで積もることもあるよ」
「冬は大変そうですね」
「そうでもないよ。むしろモンスターが襲ってくることが少なくなるから、一般の人たちは暮らしやすそうだよ」
「北の方ってどんなモンスターが出るんですか?」
「ここと変わらないのもたくさんいるけど、何より特徴は寒さに強い個体がたくさん出ることかな。
ただ寒さに強いというだけじゃなく、種族や個体によっては氷属性が全く効かないのもいるから注意だね」
「モンスターの強さはどうですか?」
「強いよ。北はエサが豊富にあるわけじゃないから、その取り合いが起こることも多いんだ。だから、戦闘に優れた個体もたくさんいるね。
それとそういうやつらがエサを求めて村や街に来ることもあるから、冒険者もそれ相応に強くないと生き残れないんだ」
「北の冒険者は平均的に強いことで有名ですからね」
「そうだね。さすがに王都のような大都市には劣るけど、地方別で言うなら強い部類に入ることは間違いないと思うよ」
「みなさんみたいにランクを上げるにはどうすればいいんですか?」
「ランクを上げるにはやっぱり実績だね。なんだかんだ言われるけど結局これが一番だよ」
「そうなんですか!それから……」
「ちょっと!あんたばかり話しすぎよ。私だって金級冒険者の方々といろいろお話してみたいんだから!」
「待てよ。俺たちだって話してみたいんだ。次は俺たちに譲ってくれよ」
「そうだ!次は俺たちに番だ!」
この街にはいない金級冒険者の話を聞けるチャンスとあってか、みんな道中でも積極的に話にいく。『暁の星』のリーダーは優しくて気さくな青年で、ランクが下の冒険者たちでも話しかけやすいようだ。
その他のメンバーに話しかけに行く者はいないので、リーダーだけが他の冒険者からの質問を一身に受けている状態である。
「あの人すごい人気やな~」
「その通りだな。しかしあの冒険者たち、あんなに浮かれていて大丈夫なのか?」
「大丈夫だろ。この集団を襲ってくるモンスターや盗賊はそうそういないよ」
今冒険者たちは大勢で固まってガドの大森林へ向かっている。この冒険者の大軍を見て、わざわざ襲ってくるモンスターや盗賊はそうそういない。知能が高く厄介なモンスターほど、この集団を襲おうとはしないはずだ。
現に何度かモンスターや動物が顔を出すことはあるが、どれもこの大群を見た瞬間に逃げている。この大群に襲い掛かるのは、知能が低く野生の勘も働かない愚かな生き物か、戦いが好きで大群相手にわざわざ挑んでくる者くらいだろう。
「まあどれだけ浮かれようが構わないさ。彼らには、この森で自分たちの役割さえ守ってもらえればそれでいい」
「せやな」
「うむ。それは言えてるな」
冒険者の大軍は、特に苦戦することもなく目標の村まで到着した。
今日はここで休み明日からいよいよ仕事の本番である。各自気合を入れ直した後、全員が明日しっかり活躍するために寝静まった。