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金級冒険者

二話目です。一話目はすでに投稿しております。

「また挨拶か……こう多くなってくるといい加減、名刺がないと名前を覚えるのも一苦労だな」


  優斗たち『インフィニティーズ』が東門に来てから、他の冒険者たちによる挨拶は続いている。緑級以下の様々な冒険者たちが次々と挨拶に来るのであった。

 

  優斗からするとあいさつされるのは嫌なことではないし、冒険者同士のつながりもある程度必要だと思っている優斗からするとむしろありがたいくらいである。しかし、優斗はその冒険者たちのことを覚えるのには四苦八苦していた。

 

  どうやらこの国には名刺という文化がないようで、相手の名前や特徴を頑張って記憶しなければならないのだ。だが、そうは言ってもすべてを一回で覚えるのはそう簡単なことじゃない。それにこの国の人の名前は、日本式とは違うどちらかと言うと欧米式の名前なのだ。

 

  慣れない名前のスタイルと名刺がない環境。優斗がこの街に来て一番苦労したのは人の名前を覚えることなのかもしれない。


「だが冒険者になったのは正解だったな。実力主義なのはわかりやすくていい。知らない礼儀を要求されても全く対応できないからな」


  冒険者として、優斗たちはこの集団の中で一番新人だ。冒険者歴で言えば新人の優斗たちが挨拶に行くべきなのだが、優斗たちから挨拶に行かずとも向こうから勝手に挨拶に来る。

  冒険者の世界では、自分たちがどれだけの期間在籍したかではなく、これまでどれだけの成果を残したか、そして現在どれほどのランクにいるかということが重要視される。新人だろうがベテランだろうが、実力のある者こそが偉いのである。

 

  それに優斗たちは冒険者歴の浅さもあり、他の冒険者たちとたくさん関わってきたわけではない。

  今日が初対面という冒険者もたくさんおり、その冒険者たちはこれを機会に自分たちの顔を覚えてもらおうと必死なのである。


  優斗はこの世界には来たばかりであり、当然この国の礼儀には詳しくない。しかし冒険者ならある程度無礼をしてもそういうものだと見逃されるし、冒険者同士なら実力が高いものの意見が優先される。


  もとから礼儀にうるさくなく、それでいて力さえあればある程度自分の意見を通せる冒険者になったことは、力はあるがこの世界に来たばかりで何も知らない優斗たちにとってはぴったりのようであった。


「やっと挨拶が終わった……しかし、見た感じこの街の主要な冒険者は大体そろっているはずだ。集合時間だってとっくに過ぎてるのに、どうしてまだ出発しないんだ?」


  優斗たちを含め、この街の主要な冒険者はほとんど集まっている。集合時間だってとっくに過ぎているにもかかわらず、冒険者たちはまだ出発しようとしないのであった。


  その原因は優斗たち以外の青級冒険者パーティー四組にある。集合時間が過ぎているのに、この中で最上位の彼らが全く動こうとしないのだ。彼らに意見できる冒険者もいないため、皆出発しようと言い出せないのであった。

 

  優斗も同じ青級冒険者であるが、先ほども言ったように冒険者歴はまだまだ浅く、どちらかといえば新人の部類に入る。自分たちよりも下のランク相手ならともかく、自分たちよりもベテランで同格の冒険者たち相手にリーダーシップをとることはできない。


  すでに出発したそうな冒険者が何人もいるが、最上位の彼らが全く動かないのでだんだん変な緊張感が漂ってきた。


「みんな待たせたね。この街はまだ勝手がわからなくて、少々遅れてしまったよ」


  全員が一斉に遅れてきた冒険者たちのことを見る。そこにはこの中の誰よりも高価そうな装備に身を包んだ、五人の冒険者たちがそろっていた。


「おいあれって……」

「まさか……そんなわけねよな」

「伯爵はそこまで本気なのか?」

 

  冒険者たちが遅れてきた者たちを見て非常に驚いている。その驚きはどんどん伝播していき、東門の前がザワザワしだした。


「僕たちのことを知ってくれているのかな?それなら話が早いね。僕たちはこの隊のリーダーを務めることになった冒険者パーティー『暁の星』だ。みんなよろしくね」


  パーティーのリーダーだと思われる男がそういうと、冒険者一同は一斉に黙った。


「あれが金級か……」


  冒険者パーティー『暁の星』、彼らは冒険者の中で二番目に高いランクの金級冒険者である。

  ここブルムンド王国には、金級冒険者パーティーがたった四組しか存在していない。彼らはそのうちの一組であり、ブルムンド王国では超有名人である。

  そして同時に、他の青級冒険者たちが時間になっても動き出そうとしなかった理由なのだろう。おそらく彼らはあらかじめ伯爵から、金級冒険者『暁の星』が参加することを聞かされていたのだ。

 

  青級冒険者である彼らが従う姿勢を見せれば、他の冒険者たちだってすんなり従いやすい。優斗たちも青級冒険者だが、彼らはまだ新人で他の冒険者たちからの信頼は薄い。

 

  優斗たちもそれがわかっているため、自分たちがこのことを知らされていなかったことに腹を立てることはなかった。


「僕たちはランクでは君たちを上回っているけど、あくまでここら辺のことに着いては君たちのほうが知っているだろう。

  だからみんなにはいろいろとサポートを頼みたい。ではみんなで行こうか!」

「「「「「「「「「「おぉぉー!!!」」」」」」」」」


  冒険者たちの士気が一気に上がった。さっきまでよりも冒険者たちの顔にやる気が満ち溢れているのは誰の目にも明らかだ。

 

  自分たちよりも圧倒的に格上の冒険者から頼りにされて燃えない冒険者はほとんどいないだろう。それに金級冒険者が来たということは、それだけ戦力が大幅に上がるということを意味する。人は勝てない戦いよりも、勝てる可能性が高い戦いのほうが士気は高くなるものである。

 

  この状況で、冒険者たちの士気が上がらないほうがおかしいのだ。


  それにこれでリーダー問題も片付いた。『暁の星』がいくらこの街に詳しくないよそ者とはいえ、ブルムンド王国で五本の指に入る冒険者を無碍にすることはできない。

  ここに集まっている冒険者の最高ランクは青級である。冒険者ランクが二つ違うというのは致命的なまでの格の差を表す。いくらよそ者でも、彼らがリーダーをやるのは至極当然の流れなのである。


  ここにいる青級冒険者五組は、いずれもこの街をホームタウンにしている同格の冒険者たちである。新人の『インフィニティーズ』を除き、他の四パーティーはどこがリーダーになってもおかしくない。しかしそれは、逆にどこがリーダーになっても不満は出るだろうことでもある。

 

  冒険者は格付けというものを気にする。ランクが違うならそれも簡単につくのだが、同じランクだとそれをつけるのは難しくなる。そのため、冒険者というのは自分と同格の冒険者の下にはなるべくつきたくないのだ。

 

  そこで彼らより2ランクも格上の『暁の星』がいることによって、この隊のリーダがもめ事なく決まる。そうすれば不満は少なくなるだろうし、『暁の星』が最初に地元の冒険者たちのアドバイスを聞くという姿勢を見せたことで彼らの面子だって保たれる。


  ここは別の街が活動拠点の金級冒険者を連れてきた、ルクセンブルク伯爵の財力と知力を賞賛すべきだろう。


  『暁の星』のおかげで士気を上げた冒険者たちは、意気揚々とガドの大森林に向かった。


 

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