リーダー
今日は二話です。もう一話は後から投稿します。
優斗たちが指名依頼を受けてから三日後、ついにルクセンブルク伯爵から指名を受けた大勢の冒険者たちによる森への大侵攻が始まる。
早朝、ルクセンブルクの東門の前にはたくさんの冒険者たちが集まった。この街の青級、そして緑級冒険者はほとんど呼ばれており、比較的ベテランの赤級だって何人も呼ばれている。
彼らはまさに、武力におけるルクセンブルクのオールスターといってもおかしくないメンバーである。
「こりゃすごい。『スネークヘッド』に『熊殺し』、それに『フォレストレンジャー』と『ルクセンブルクの華』か。この街の有名どころがほとんどそろっていやがる。
さすがはルクセンブルク伯爵様っていうところか。一応この街では上のほうの俺たちが霞むようなパーティーばかりだな」
男は緑級冒険者であり、自分の実力にも自信を持っている。自分のいるパーティーが、この街でも有数の冒険者だという自負だってある。しかし、それでも今挙げた冒険者パーティーにはまだ敵わないこともちゃんとわかっている。
今挙がった名前はどれもこの街トップである青級冒険者たちのパーティー名であり、この街にいる冒険者でこの名前を知らない者はいないだろう。
例えば『スネークヘッド』は男四人で構成されるパーティーであり、その実力は折り紙付きだ。実力に対する評価は非常に高く、先に銀級に上がったウルフファングとはずっとライバル関係であった。
ウルフファングがこの街に帰ってこない今、この街最強のパーティーの座に最も近いのは彼らだと言われている。
しかし、スネークヘッドにはいろいろと悪い噂があるのだ。他の冒険者の嫉妬によるものならばともかく、それを抜きにしても真実である可能性が高そうな噂ばかりである。
巷では、最近新人冒険者狩りをしていたことが大々的に明らかになった『毒蛇の導き』との関係も噂されている。噂では『毒蛇の導き』が『スネークヘッド』の舎弟と言う話もあり、スネークヘッド自身の素行も非常に悪いことから、その噂もあながち間違いではないのではないかと思われている。
それ以外にも彼らに対する悪い噂がたくさんあり、他の冒険者たちが決して一緒に仕事をしたくないと思っているパーティーの一つでもあった。
「まあそういうなよ。俺たちよりも強い冒険者たちがいるっていることは、それだけ俺たちの生存率も上がるっていうことだろ?それに、上のパーティーの力を見られればそれだけ勉強にもなるじゃねえか」
「まあそれもそうか」
同じパーティーメンバーに諭された男は、それからもう一度青級冒険者たちを見る。
「こうなると、この場は実力的にスネークヘッドが仕切ることになるのか?それとも、ほかの青級パーティーが仕切るのだろうか?少なくとも、それより下の緑級以下が仕切ると言うことはないよな?」
「実力的に言えばそうだろうな。でも森に行くなら、とりわけガドの大森林西側なら『フォレストレンジャー』の出番じゃないか?」
『フォレストレンジャー』はその名の通り森での活動を得意とする者たちで、男三人と女二人で構成される五人組パティーだ。この街で森関係の依頼を出すなら、彼らに頼むのが一番早くて確実だと言われている。
特にガドの大森林が近くにある性質上、とりわけガドの大森林西側に関することなら彼らに敵う者はいないだろう。特筆すべきはその戦闘力よりも森での立ち回り方であり、まるでそこの原住民であるかのように採集したり危険を避けたりすることができる。
その戦闘力は他の青級冒険者パーティーよりも一段落ちるが、逆に森での活動となれば頭一つ抜けた活躍をしてくれるだろう。
戦闘力だけなら『スネークヘッド』だが、ガドの大森林に行くと言うことのならば『フォレストレンジャー』がリーダでも何らおかしくはない。
むしろ素行面なども考慮すれば『フォレストレンジャー』の方がリーダに適任だともいえる。
「いやいや、リーダーは熊殺しの旦那たちになるんじゃないか?旦那たちの人望はこの街でもトップクラスだからな」
男たちの会話に、別の緑級冒険者パーティーのリーダーが入ってくる。三人は顔見知りであり、何度か合同で依頼を受けたこともある仲であった。
「久しぶりだな。また今日もいつものか?慎重なのはいいことだが、もうさすがに俺たちにはやらなくてもいいんじゃないか?」
「いや、今回は旧友の顔が見えたから会いに来ただけだよ。それに、これをしているのは俺だけではないだろ?むしろ彼らは、俺からするとわかりやすくやりすぎだな」
周りを見渡せば、彼らだけでなくそのほかの冒険者たちも違うパーティー同士で会話をしている。彼らは一様に何度か親しげに会話した後、お互い握手をしてから別れている。
冒険者はこういったたくさんの冒険者パーティーが合同で依頼を行う場合、積極的に他のパーティーと話をしに行く。この行為には情報収集と言う意味も当然あるが、それよりも自分の顔を覚えてもらうということが主な理由になる。
もし自分たちのパーティーが窮地に陥った場合、他の冒険者パーティーが自分たちを迅速に助けてくれるという保証はない。
自分たち以外にも複数のパーティーが窮地に陥っていて、一度に全員を助け出すことができないないということや、他のパーティーも自分たちのことで忙しくて手が回らないということがあるのだ。
そういった時に、こういう場で顔を覚えてもらえていれば他のパーティーよりも優先して助けてもらえるかもしれない。冒険者たちも感情のある人間なので、知らない人よりは知ってる人、嫌いな奴よりは好きな奴を助けるのだ。
こういう場で顔を、特にランクの高い冒険者に顔を覚えてもらうことで、自分たちの生存率を少しでも上げるのである。
「でもやっぱり熊殺しの旦那はすごいな。自分から行かなくても向こうから勝手に来てくれている」
「あの人ほど他の冒険者を世話している人はいないからな」
熊殺しは、男三人に女一人の四人組パーティーだ。彼らのリーダーが冒険者になる前に、自分の住んでいる村に来た熊型のモンスターを一人で討伐したことがきっかけでその名前にしたらしい。
特にそのリーダーの、自身も熊殺しの異名を持っている大男は面倒見がいいこと有名だ。
リーダー以外の『熊殺し』のメンバーも、他の冒険者に優しく面倒見がいい。男たちを含め数々のパーティーがこれまで世話になっているのだ。
そのため、彼らはこの場で一番信用されているパーティーといえるのである。
熊殺しのリーダーは今年ですでに四十三歳であるため、そろそろ肉体の衰えや引退を考え始めている歳である。しかしそれでも積み重ねてきた経験や技術は本物で、彼らを今回のリーダーに望む声が多いこともまた事実であった。
「さすがに『ルクセンブルクの華』はたぶんないよな。若い女が六人の冒険者パ-ティーは男の俺たちからすると魅力的だけど、彼女たちがこの隊のリーダーにふさわしいかどうかと言われれば難しいんじゃないか?」
「だな。パーティーメンバーの平均冒険者歴及び年齢ともに四つの中では一番低いからな」
「それに冒険者には女よりも男のほうが多い。実力が同じなら、リーダーは男にしたほうが角が立ちにくいからな」
二人の意見としては、『スネークヘッド』、『熊殺し』、『フォレストレンジャー』のどれかがこの隊のリーダになると踏んでいるようだ。
「甘いな。あの子たちがリーダーになる可能性もゼロじゃないぜ」
二人とは別パーティーのリーダーの男が、二人に対してしたり顔で言い放つ。
「なぜだ?確かに女の冒険者はそっちのほうがいいだろうが、この隊だって男のほうが多いうえに彼女たちは冒険者としての経験が浅いんだぞ?」
「だとしてもさ。なんたって、彼女たちのリーダーは生まれがいいからな」
「そういえば……」
ルクセンブルクの華のリーダーを務めるのは、まだ二十歳にも満たない少女だ。しかし、彼女の身分は『ルクセンブルクの華』の中で、いやこの街の冒険者の中で一番高いといえる。
彼女の名前はルナ・フォン・ルクセンブルク。つまりこの地の領主であるルクセンブルク伯爵の娘である。彼女はルクセンブルク伯爵の次女であり、この街で暮らす者からすれば姫のようなものだ。
他のパーティーメンバーもすべてルクセンブルク伯爵の家臣の娘であり、幼いころから一緒にいることが多かったメンバーたちである。
身分と言う点で言えば、『ルクセンブルクの華』に勝てるパーティーはルクセンブルクにはいない。それにこの集団を集めたのはルクセンブルク伯爵だ。ならば、その娘が率いるパーティーがこの隊のリーダーをすることは自然なことだともいえるのである。
「もう一個青級はいるが、さすがにそいつらがリーダはないよな。てかそいつらはまだ来てないし、そもそも参加するかもわからないしな」
「参加したとしてもリーダーはねえな」
「ああ。それに関しては俺も同感だ」
彼らの選択肢から真っ先に消えているのは、当然優斗たち『インフィニティーズ』のことである。
『インフィニティーズ』は冒険者歴約二か月、パーティーは三人が少女で一人は仮面で顔がわからないが、声からしておそらく若い男だと判断されている四人組である。
『インフィニティーズ』は一気に青級まで駆け上がったため、他の冒険者たちからの注目度は高い。そして実力があることは認められているのだが、なんにせよ経験が浅すぎるのだ。
それに『ルクセンブルクの華』のように身分が高いわけではないため、もしこの隊に参加するとしてもリーダーになることはまずあり得ない。
これは彼ら三人だけでなく、他の冒険者たちの総意でもあった。
「まあ誰がリーダになるとしても、俺らがそれを決められる立場でもなければ、俺らがリーダーに選ばれることだってあり得ねえんだ。誰になってもいい心の準備くらいはしておこうぜ」
「それが正解だな」
「確かに。じゃあ俺はそろそろ自分のパーティーに戻らせてもらうよ」
男たちはまた別れて、別のパーティーメンバーたちと話をする。冒険者たちの話は、隊の出発までずっと続くことになっていた。