自分の姿
「ダンジョンマスターになるのはいいが、いったい何から取り掛かればいいのか。ちなみに、今ここのダンジョンにあるDPはどれくらいなんだ?それによって今からできることも変わってくるしな」
「今のDPは0です」
幼女は淡々と答える。
「DPが0?初回のサービスとかはないのか?さすがに0だと何もできないのだが……」
「ないものはないですから。ですが、あの方からサービスがあるそうですよ。なんでも、これはあなたがダンジョンマスターになると宣言した時のために用意しておいたらしいです」
「サービス?それは一体何なんだ?」
優斗はあの少年のことを疑ってはいたが、それでもサービスと聞くとやはり少しは期待してしまう。
「すごいサービスですよ。なんでも、あなたがインフィニティ時代に作成した仲間のNPCたちをダンジョンモンスターとして出してくれるようですよ。確か十人いましたよね。あの方の力によって、DPを消費せずともその全員がダンジョンモンスターとして出てくるそうです」
「それは戦力になる。つーか今の俺よりもよっぽどいい戦力になるな」
優斗は特定のギルドに入っていなかったが、自分の課金によってNPCたちを作り、そのメンバーたちとパーティーを組んでインフィニティを楽しんでいた。そのNPCたちがこの世界でも仲間になるのだ。優斗にとってこれほど心強いものはない。
「何でですか?たぶんあなたのほうが彼女たちよりも相当強いですよ」
幼女は心底不思議そうに問う。
「何言ってんだ。俺はいたって普通の人間だろ?さすがにただの人間があれらに勝つのは無理だろ」
「違いますよ。とりあえずこの鏡を見てください」
幼女の声に従って鏡を見ると、そこにはインフィニティ時代に優斗が使っていたキャラクターの姿がそのまま写っていた。容姿としては、優斗を少し大きくした身長180センチくらいで、後は年齢を少し若くして顔をかなりかっこよくした感じだ。まあつまりは、イケメンでもブサイクでもなく日本人の平均的な顔立ちの優斗が、自分をベースにして理想の姿をイメージして作った姿である。
「これは一体……?」
「気づいていなかったんですか?あなたは今インフィニティで使っていたキャラクターの姿と能力をそのままに転生してきたんですよ。そうじゃなかったら、ただの一般人であるあなたをわざわざあの方が転生させると思いますか?」
幼女の言っていることは、同時に優斗が疑問に思っていたことでもある。
「そりゃ思わないわな」
「はい。あの方は、とにかく強い生物を地球から転生させようと思ったらしいのです。しかし、地球の生物ではどれだけ強くてもたかが知れています。それに人間以外だと知能が低い生物も多く、この世界に転生させるには適さなかったのです。
そこで考えた結果、あの方は人間が作ったゲームに目を付けたようです。ゲームで強いキャラをそのまま持ってくれば、それは非常に大きな戦力になると考えたのです。そこで一番強いゲームキャラを使っている人物を探した結果、あなたに白羽の矢が立ったようなのです」
インフィニティというゲームは、すでに十年以上続いている老舗ゲームだ。これは漫画などでもありがちなことだが、物語が続けば続くほど敵が強くなっていき、それに比例して自分も強くなっていくのだ。
インフィニティでもこの現象、いわゆるインフレが起こっている。そしてインフィニティというゲームタイトルからもわかるように、このゲームには上限が設定されていない。つまり、レベルやステータスのカンストという現象が起こり得ないのだ。
インフィニティのキャラのステータスや覚えられる魔法にスキルの数は、そのキャラのレベルと職業に依存する。このゲームでは、その種族によって所得可能な職業の限界数がそれぞれ個別に設定されている。まず限界まで取れる職業を取り尽くしてその職業レベルもすべてマックスにする。それからはひたすらレベルを上げてのステータス向上と新たな魔法を覚えるくらいだ。
スキルは職業やそのレベルにに依存するため、すべての職業レベルがマックスになった段階で新たなスキルを獲得することはできない。その代わり、魔法職よりも戦士職のほうがレベルアップによるステータスの上昇が大きい。これは魔法職がすべての職業レベルがマックスになってもレベルアップするたびに魔法を覚えられるのに対し、戦士職だと固めた職業レベルがマックスになるとそこからレベルアップしても新たなスキルも魔法も覚えられないからである。
優斗のキャラは当然職業を種族限界数まで取っていて、なおかつそれらのレベルもすべてマックスである。そしてそのあともゲームを続けてレベルを上げていった結果、ゲーム内で一番高レベルの567Lvまで育ったのだ。そして、運営の行う公式大会での成績もゲーム中トップである。十年以上続いていてレベルやステータスにカンストがなく、敵や味方もインフレし続けているゲーム。その中でも最高レベルの存在がこのキャラだ。確かに、このキャラが一番強いゲームキャラと言われても納得である。
「だが一つ疑問があるんだが、それなら誰かに超チートキャラをつくらせて、それを転生させればよかったんじゃないか?」
例えば、ゲームを作れる人に目で見ただけで敵を殺せるとか、敵が体に触れた瞬間に消滅するみたいな、強すぎる能力のキャラを作らせてそいつを転生させれば、今の優斗の何倍も強いキャラが転生できただろう。
「やってみたらしいですが、それは無理だったようです。私には詳しいことまではわかりませんが、あの方にもいろいろと制約があるみたいですよ」
「それ言われたら何も言えんな」
そういう決まりだと言われれば、あの少年のことやそのルールを知らない優斗がどうこう言える話ではなくなってしまう。今はそういった考えても仕方がないことは考えずに、もっと別のことに頭を使うべきであると優斗は判断して、この話をこれ以上続けることはなかった。
「インフィニティで使っていたキャラと言うことは、当然俺も魔法とかスキルが使えるのか?」
「問題なく使えますよ。でも、危険なのでこの中では使わないでくださいね」
「ああわかってる(でもそれなら結構テンションが上がるな)」
自分がゲームで使っていた能力が使える。これをうれしいと思う人間はたくさんいるだろう。そして優斗もその一員なのだ。優斗のテンションが上がるのも当然のことである。
しかし、優斗には一つの懸念があった。それは今の自分の強さが外の世界でどれくらい通じるのかということだ。比類なき強さなのか、それとも一般人並なのか、それによってこの世界での自分の立ち位置が変わってくる。
あの少年が強い存在ということでこのキャラとそれを操作する優斗を選んだ以上、その強さがこの世界の一般人並ということは普通に考えるとありえない。それでも、具体的にどれくらいの強さなのかは知る必要がある。そうしないと、この世界での自分の立ち位置がまったく見えてこないのだ。
「(目の前の幼女に聞きたいところだが、この幼女にはこのダンジョンの知識しかないんだったな)」
優斗はダメもとで聞いてみるが、その返事は当然「外の世界のことについては全く知らない」だった。その後もダンジョンのことを聞くといろいろな答えが返ってくるのだが、やはりダンジョンのことしか知らないようであり、外の情報は何一つ持っていなかった。
「いろいろ聞けて良かったよ。おかげでこのダンジョンのことについてはいろいろとわかった。話は変わるが、そろそろそのサービスとやらで俺の仲間たちを召還してくれないか?」
ついつい話に夢中になってしまっていたが、NPCたちを召喚してもらうのは優斗にとっては非常に大事なことである。
「わかりました。それではあなたの仲間のNPC十人を、今からダンジョンモンスターとして召喚します」
幼女がそういうとダンジョンコアが光り輝いた。その場に現れたのは、見慣れてはいるが初対面となる、十人のNPCたちの姿だった。