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受諾

  優斗たちが部屋に入ると、そこには壮年の男性が一人座って待っていた。どこか上品さも感じられるその男性は、こちらの姿を確認すると立ち上がって一礼した。


「私はこのあたり一帯の領主である、ルクセンブルク伯爵家で執事を務めておりますクローゼと申します。

  本日は我が主の代理として、皆さんに指名依頼を受けていただくためはせ参じました。今日はよろしくお願いします」

「これはこれはご丁寧にありがとうございます。すでにご存じでしょうが、我々は青級冒険者パーティーの『インフィニティーズ』という者たちです。この度は我々を指名してくださり、どうもありがとうございます」


  クローゼの丁寧なあいさつに対して、優斗もできるだけ丁寧なあいさつで返す。


「しかしまさかこの街の領主であるルクセンブルク家からの依頼でしたか。我々のような者が伯爵様に指名されるとは驚きですね。正直伯爵様のような大貴族ではなく、商人の方などが指名してくれたのだと思っていましたよ」

「いえいえ。皆さんはすでにこの街のトップ冒険者の一角ではないですか。青級冒険者ならば、我が主から指名される資格は十分にあると思いますよ」


  優斗はとりあえず日本流の交渉術を使い、謙遜して相手を持ち上げるという方法をとった。

  とりあえず相手を持ち上げておこうという安易な考えではあるが、知らない文化に来た優斗にはこれが最善の策に思えた。


  優斗は平民であり、目の前の執事の主は伯爵家である。少なくともこの国では優斗たちの方が法律的に完全に下の身分のため、奇しくもこの方法は間違っていなかったようである。


「ありがとうございます。それで、この度は我々のパーティーにどのような依頼をされに来たのですか?」

「それを話す前に一つお願いします。依頼を受ける受けないにかかわらず、ここで聞いたことは決して誰にも他言しないでください」


  クローゼが真剣な表情でお願いする。


「ええもちろんです。我々は決して他言しないと約束しますよ」

「私も冒険者ギルドの職員として当然他言しませんし、『インフィニティーズ』が他言しないと約束したことも保証しますよ」


  優斗たちはもとから依頼内容を他言するつもりはなかったため、優斗以外もクローゼの言葉に対して頷いている。

  優斗たちが了承したこととギルド職員の保証を確認したクローゼは、一瞬安心したそぶりを見せてから依頼内容を話し始めた。


「依頼内容はガドの大森林西側の大規模なモンスター討伐です。

  『インフィニティーズ』以外パーティーにも参加を打診しており、すでに数十組のパーティーから参加の了承を得ております。

  報酬は前金として金貨十枚。そして成功報酬はさらに金貨十枚。それらに加えて本番での活躍に応じた報酬を追加で支払わせていただきます」

「報酬だけで言うと悪くない条件ですね」


  金貨十枚は大金だ。庶民ならそれだけで一年間は何もせずに暮らせる。それだけの額を前金だけで支払うというのだから、この依頼に対する伯爵家の本気度がうかがえる。

 

  そして『インフィニティーズ』以外にもたくさんのパーティーの参加が決まっていることから、伯爵家の出す金額は前金だけで相当なものになる。それに加えて成功報酬や活躍に応じた追加報酬もあるのだから、伯爵家はこの依頼が成功すれば相当のリターンが見込めると思っている証拠である。


「では受けてくださいますか?」

「それをするには聞きたいことがいくつかあります。それらに答えてもらった後で、もう一度聞いてもらえませんか?」

「かしこまりました。では何なりとお聞きください」


  優斗はクローゼの説明で気になったところを聞いていく。


「はい。ではまず報酬のことですが、前金と成功報酬についてはわかりました。しかし、最後の活躍に応じた報酬についてです。

  活躍に応じた報酬といわれても、それが具体的にどれくらいなのかわかりません。どれくらいの活躍をしたらどれくらいもらえるのか、明確とまでは言いませんが、ある程度の指針がなければまったくわかりません。

  それにその査定を誰がするのかも問題です。その者の好きなように査定されてはいろいろとトラブルを生むでしょうから」


  冒険者とは、報酬をもらいそれに命を懸ける職業である。冒険者だってボランティアじゃないんだから、当然ただ働きをするつもりはないし、報酬はもらえるならもらえるだけもらいたい。

 

  強欲すぎれば上手くいかないが、まったく欲がないというのもまた上手くいかない。ちゃんと報酬について具体的に決めておく必要があるし、そうしておけば後から無用なトラブルがなくなるので双方のためにもいいのである。


「査定するのは伯爵家の者です。ある程度戦闘にも長けた使用人が数名同行し、その者たちによってあなたがたがどれくらい活躍したか我が主に伝えられます。

  今回追加報酬は、強いモンスターを倒したとか何かすごい発見をしたとか、そういう目立ってわかりやすいものにのみ当てはまります。残念ながらそれ以外、例えば敵の発見であったりでは評価されません」

「つまり目立つ活躍をしないといけないということだな」


  クローゼはその言葉に頷く。


「そうです。それと加算される金額については決して低く見積もったりしないと、ルクセンブルク伯爵家の名において宣言します」


  そう言ってクローゼは伯爵から預かっていた印を取り出す。

  一般人が言っても信頼されないような言葉だが、これを貴族本人、もしくはその貴族から自分の代理であるという証を預かった者が言った場合、この言葉はその貴族にとって何より重いものとなる。


  貴族と言うのは、何よりも自分たちが受け継いできた名を大事にする。目先の利益に目がくらんで名を汚してしまった貴族の未来は暗い。他の貴族から侮られ、宮廷で肩身の狭い思いをし続けなければならないからだ。

 

  そのため貴族は自分の名を汚すような行為を異常に嫌うし、もしそれをしたとしても全力で隠し通す。

  代理人とはいえ今回のように堂々と宣言した以上、伯爵家がそれをたがえることはないだろう。


  日本育ちで口約束を平気で破る人を何人も見てきた優斗からすると、念のため書面で残しておきたい気がしないでもないが、この国では貴族にそういうことをすると失礼にあたるのだ。

 

  優斗も何となくそういうことを聞いたことがあったので、この件でこれ以上クローゼに質問することはなかった。


「次は参加人数ですね。この依頼を受けるとしたら、いったいどれくらいの人数がともに依頼を受けるのか知っておきたいです。

  この際参加者個々の能力はともかく、参加人数がどれくらいになるのかは大体でいいから教えてもらいたいです」

「参加人数はおそらく百人を超えると思われます。この街の赤級以上の冒険者ほとんどに声をかけており、この街にいる赤級以上の冒険者で声をかけていないのは、最近赤級になった者くらいで、それ以外には基本的に声をかけております。

  ありがたいことにそのほとんどが依頼を受けてくれたため、参加人数が百人以上であることはほぼ確定といっていいです」


  優斗は大規模討伐と言う言葉にふさわしい人数と質を出されたことによって、仮面の奥で少し苦い顔をした。


「それはすごいですね」

「はい。後言い忘れていましたが、冒険者の方々は当然ランクによって報酬が違いますよ。

  青級である『インフィニティーズ』の皆さんは前金で金貨十枚、成功報酬で金貨十枚ですが、緑や赤だと当然もっと低いです」

 

  冒険者はそのランクによって、同じ仕事、同じ依頼人でも得られる報酬の額が違う。それは当然のことであり、優斗にも簡単に理解することができた。


「最後に成功条件について尋ねてもよろしいですか?大規模なモンスター討伐といいますが、それは何をもって成功となるのですが?

  たくさんモンスターを倒せばいいのはわかるのですが、この依頼では具体的なノルマがありません。

  さすがに百人以上の冒険者が集まったとしても西側のモンスターをすべて討伐するのは不可能ですし、森の北や南、東からモンスターが流れてくる可能性もあります。どうすればこの依頼は達成したことになるのですか?」


  依頼には明確な達成条件が必要だ。それがなければいつまでも依頼人に達成とみなされなかったり、しなくてもいいような仕事までさせられかねない。

  この依頼はその辺が曖昧だったので、優斗はたまらず質問した。


「伯爵家から派遣される者が満足と判断したらです。その者にはある程度明確な基準を与えており、それに従って判断されます。

  簡単に言うと、ガドの大森林西側のある範囲までにいるモンスターを徹底的に倒してくれれば依頼達成です。少しわかりにくいかもしれませんが、その範囲は決して広く過ぎるということはないように設定されています」


  クローゼもこのあたりの曖昧さは自覚していたのだろう。もしかしたら他の冒険者にも指摘されたのかもしれない。

  だが、森での大規模討伐で明確な基準を設けるというのもまた難しい話だ。この辺はしょうがないと諦めるべきだろう。


「わかりました。それではその依頼を受けさせていただきます」

「ありがとうございます」


  優斗は伯爵家からの指名依頼を受け、ギルド職員がそれを問題なく処理した。


「それで肝心の日時ですが、一体いつ決行なのでしょうか?」

「日時は三日後の朝です。その時に東門の前で集合です」


  交渉は終わり、優斗たちはまだギルドに用があるというクローゼより先に冒険者ギルドを出た。


「時間も時間だし、これからみんなで昼飯でも食べに行くか」


  優斗たちは昼ご飯を食べに向かう。今日は午後からも依頼を受ける予定はないため、昼ごはんの後は街をぶらぶらするか宿やダンジョンで久しぶりにだらだらすることになる。


  優斗たちは定期的にダンジョンに帰っていろいろ報告したりなどやるべきことはやっている。しかし今日はそれもオフのため、四人は各自自由行動なのである。


  優斗たちはみんなで街の食堂に行き昼ご飯を食べた後、各々のやり方で久しぶりのオフを満喫した。


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