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二階

「青級冒険者パーティー『インフィニティーズ』の方々ですね。お待ちしておりました。

  依頼主の代理の方がすでにいらっしゃっております。今から係りの者を呼びますので、その者の案内にお従いください」


  優斗たちはギルド職員の案内に従って、依頼主の代理が待っているという部屋に行く。冒険者は基本的に受付ですべて済ませるため、優斗たちが受付の奥に来るのは久しぶりである。

  以前『毒蛇の導き』の件で事情聴取されるために何度か来たことがあったのだが、それ以来ここに来たことはなかったのだ。


  優斗たちが事情聴取を受けた場所は一階だったが、今回用のある部屋は二階にあるようである。優斗たちは二階に足を運ぶと同時に、その内装を見て驚きの声を上げた。


「これが冒険者ギルドの二階か……」

「驚いた。これほんまに冒険者ギルドかい」

「すごい……」

「一階とは大違いだな」


  優斗たちの目の前には、一階とはまるで違う姿の二階があった。

  一階の内装は庶民的な感じであり、前世で庶民であった優斗にも親しみが持てるようなものである。


  しかし今優斗たち目の前に見えているのは、それとは真逆のものすごく豪華な内装であった。


  二階の内装は様々な調度品が置かれ、床にはカーペットだって引いてある。清掃もしっかりなされており、少なくとも見える範囲には汚れなんてない。 優斗は取引先である大企業もこんな感じだったなと思いながらも案内に従う。


  優斗とアシュリー、そしてユズは平然としていたのだが、クルスはなんだか落ち着かないようであるり、そわそわしながら忙しなく周りを見渡している。例えるなら、田舎者が都会の迫力に圧倒されている様子だろうか。クルスはまるで怯える小動物のようにビクビクしていた。


  クルスは村出身であり、そのあともずっと奴隷として暮らしてきた。クルスの話では魔王国の村は全然裕福ではなく、村にいる間はぜいたくな暮らしをまるでしてこなかったようだ。

 

  これまで裕福さとは縁がなく、またそういう人ともまともに付き合ってこなかったのだ。クルスがこの内装に怯えるのも無理はない。

  優斗も自分が最初取引先で似たようなことになったときに、クルスとほとんど変わらないような態度をとってしまったことを懐かしく思った。

 

  冒険者ギルドはどうかわからないが、優斗が大企業に行ったときはそうやって自分たちの力を見せつけることも目的にあったのだ。後から一緒に行った先輩にそれを聞いた優斗が、完全に向こうの思い通りになってしまったことを悔しく思ったのはいい思い出である。

 

  もっともそのおかげで優斗はこういう時にビビっていても動じない、もしくは動じていてもなるべく態度や表情には出さないということを身につけたので、この場合は結果オーライなのだが。


「皆さんは意外と動じないのですね。初めて見る冒険者の方はこの内装に飲まれてしまうことも多いんですよ。皆さんはもしかして商人や貴族のお子さんですか?」


  ギルド職員は不思議そうな、そしてどこか残念そうな顔をしている。もしかしたら、彼はここに初めて来る冒険者たちの反応を見て楽しんでいたのかもしれない。そう思って彼の顔を見ると、確かにどこかいたずら好きそうな顔をしているように見える。

 

「そうかもしれませんね」

「なるほど、過去は秘密ということですか。だとすれば失礼しました。ギルドでは何かトラブルが起きない限り、その冒険者から直接過去を聞き出すのは禁止という暗黙のルールがありますから。ご不快な思いをさせて申し訳ありませんでした」

「別にいいですよ。不快な思いをしたわけではありませんから」


  優斗はさわやかな笑顔(仮面で顔が隠れてるが)で答える。しつこく聞かれれば不快だが、さすがにこの程度で不快に思うほど狭量ではない。

  優斗以外もそうであるようで、みんな同じようにギルド職員を許していた。


「ですが、まさか冒険者ギルドの二階がこんなことになっているなんて夢にも思いませんでしたよ」

「当ギルドは庶民だけでなく貴族や大商人とも取引がありますから。そういう方々を招かれるのに、どうしてもこういう空間が必要になるんですよ」


  優斗もそれには納得である。地位の高い者を招くには、それ相応の準備をしなくてはならない。それが気にならないという者もいるが、中にはそれで侮られたと感じて不機嫌になる者もいる。

  多様な取引先のある冒険者ギルドは、そういったことにも気を配らなければならないのだろう。


「しかしこれでは一般の方が委縮しそうですね」

「ええ。ですので、一般の方は一階にある部屋にお通ししているんです。二階を使うのはそれなりに地位の高い方、もしくはその代理の方だけですから」

「そうなると、今回の依頼人はそういう方なのですね」

「そうなりますね」


  優斗はそれを聞いて仮面の中で顔をしかめた。

  優斗はこの世界に来てまだ三か月、この街に来て二か月しかたっていない。冒険者としての常識は身に着いてきたし、この街の常識だってだんだんと身に着いてきた。だが、貴族や商人として地位の高い者と会うのはこれが初めてである。


  一応ギルド長にはあったことがあるが、それだって門の中で会ったきりでそれ以来交流はない。それにギルド長は冒険者出身で、当然冒険者への理解はある。

  しかし、貴族や商人だとそれをわかってもらえるか怪しいところである。特に貴族だった場合、優斗はそれに対する平民として、そして冒険者として正しい作法をまったく知らない。この世界ではもちろん、前世でも高貴な存在とかではなかった優斗は、そういう人たちへどういう態度をすればいいのか知らないのだ。

 

  この国では身分というものがしっかりしていて、法律でもその辺が細かく明記されている。相手が商人ならまだしも、この国の貴族に対する態度と日本で会社のお偉いさんに対する態度では、二つとも大きく違ったものになるはずである。


  あくまで今から会う相手が代理人であることは優斗たちにとって幸いだが、それでもどうか貴族関係者ではなく商人の関係でありますように、優斗はそう願いながら案内に従っていく。


「ここで代理の方がお待ちしております」

 

  やがて目的の部屋に着いた優斗たちは、ギルド職員がノックをして返事があることを確認すると、意を決して案内された部屋の中に入った。





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