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待ち合わせ前

「なんか、いつもより遅くてもいいというのは新鮮だな。せっかくだし、待ち合わせの時間まではこの街をいろいろ回ってみようぜ。どうせ今はここにいてもやれることはないからな」

「そうだな。俺もついてくぜ」

「うちも行くで~」

「僕もお供します」


  優斗たちはこの街で冒険者になってから、なるべくいい依頼を受けるためにほとんど毎日早起きしていた。優斗たちにはそれがすでに習慣化されており、今日は早く起きる必要がなかったにもかかわらず、みんないつも通り早起きしてしまったのだ。


  優斗たちの現在泊まっている宿は冒険者専用というわけではないが、それでも比較的冒険者の利用者が多いところである。こういうところは朝が早い冒険者のために朝食を早めに作ってくれるし、追加料金を払えば昼食用の弁当だって作ってくれる。

  優斗たちはいつも通り早く起きてしまったため、朝食をいつもの時間に食べた。そのため、冒険者ギルドでの待ち合わせまでまだまだ時間があるのである。


  優斗たちはすでにこの街に来てから二か月が経過しているが、冒険者として名を上げることと報酬による外貨獲得に精を出していたため、この街をじっくり見て回るということもなかった。

  特に朝はいつも冒険者ギルドに向かっていたため、この街が朝どんな様子なのかなどは全く知らないのである。


「じゃあ行くか」

「「「お~!」」」


  優斗たちは周りより少し大きめの宿から出て、朝の街に向かった。







「やっぱりみんなもう動き出してるよな」

「せやなー。うちらも周りからはこう見えとるんやない?だって、普段なら完全にあの一団に溶け込んどるやろうし」


  朝の街では武装を整えた冒険者たちが、皆冒険者ギルドに向かって一直線に進んでいく。普段同じことをしている優斗たちは、それを今日は客観的に見ていることをなんだか不思議に思いながら朝の街を見ていく。


「おっ!黒級冒険者があそこから出てくる。そういえば俺たちもたった二か月前はあそこに泊まっていたんだよな。なんか妙に懐かしい気がするな」


  実は優斗たちはすでに最初に泊まっていた宿から泊まる宿を二度変更している。優斗たちの最初に泊まっていた宿はあくまで資金に余裕のない新人冒険者用であり、すでに青級にまでなっている冒険者が使うべき宿ではないからだ。

 

  この宿のグレードというのも難しく、何か事情があるなどの場合を除けば、自分のランクにあったところを選ばなければならないのである。自分の身の丈に合わないところを選べば周囲から反感を買い、逆に自分のランクより低すぎるところを選べば周囲に侮られる。


  優斗はこういうことは前世でもあったなと思い出しながら、どこか懐かしく、そして面倒だと思いながらも、頃合いを見て自分たちの宿を変更していったのである。

 

  最初の宿はあまりいい環境でないうえに、出される食事だっておいしくなかった。もちろん払う金銭が少なかったのでそれも当然だが、それでも日本育ちであり、最近はダンジョンでも余裕のある生活ができていた優斗からするとその環境は苦痛であった。

  優斗には銀級冒険者たちから奪った金銭があったため、それを使えば最初からもう少しいい宿に泊まれた。しかし、貴族でも何でもないような身分の登録して間もない黒級の新人が、いきなりそんないい宿を使っていれば絶対に周囲から反感を買う。そのため、一度目の宿の変更は赤級になって少ししてからにしたのである。


  二度目の変更、つまり今の宿にしたのは青級になってすぐだ。庶民的な感覚の優斗的には一度目に変更した後の宿で何も問題なかったし、金銭的にもリーズナブルで宿を変更したいとは思っていなかったのだが、やはりこの宿も青級にしては安すぎるという理由で変更することになった。

 

  事実青級はもちろん、緑級冒険者ですら前の宿よりも一つ二つグレードの高いところに泊まっているのだ。前の宿ならお金を貯めるという意味ではいい宿であったのだが、優斗はこの街で冒険者としての名声もほしいと思っていた。なので、優斗たちは宿のグレードをそこからさらに二段階くらい上げたのである。


  その宿にも何やかんや慣れてきて、よっぽど劣悪じゃない限り結局は住めば都なんだなと思いながら、優斗は昔泊まっていた宿を懐かしむような気持ちで見ていた。


「あそこはいいから次はこっちに行くぞ。俺だって本当は朝市を見てみたかったんだ」


  アシュリーに連れられ、優斗たちはこの街で朝市をやっている会場に着いた。

  この街の朝市はほぼ毎朝行われているもので、優斗たちも行ったことはないが横目でちらりと見たことくらいはある。


  朝市では様々なものが売られ、店には食料品やアクセサリーなどが置かれている。特に朝のうちにその日の食材を買う人も多く、優斗の知っている宿の関係者や食堂のおばちゃんなどが朝市でいろんな食材を買っている。


「なかなか活気があるよね。みんなでいろいろ見て回ろうぜ」

「それはいい。俺も朝市を見るのは初めてだ」


  日本でも朝市をやっているところはあるが、優斗はそれを一度も見たことがなかった。朝市というものがあることは知っていたが、それが自分の住んでいるところの近くにあったわけではなく、自分から遠くでやっている朝市にわざわざ行きたいとも思わなかった。

 

  優斗もまさか初朝市が異世界だとは思っていなかったが、せっかく近くでやっているんだから一度くらいは見てみるかという気持ちになった。


「本当にいろんなものが売られているな」

「そうだな。でも、俺が欲しかったものは一つも売ってないぞ。他の者からは朝市では何でも売っていると聞いたのに……それは嘘だったのか?」


  目当てのものが見つからなかったらしいアシュリーが落ち込んでいる。


「リアが欲しかったものっていったいどんなやつなんだ?」


  優斗は「そういえば最近アシュリーを偽名で呼ぶのも慣れてきたな」と思いながら、アシュリーに落ち込んでいるわけを聞いた。


「俺は武器や戦闘で使えそうなマジックアイテムを見てみたいんだよ。この街の武器屋にはろくなものがなかったし、買いに行っても戦闘で使えそうなマジックアイテムだってなかった。朝市なら何か売ってるんじゃないかと期待してたんだ。

  実際、知り合いの冒険者が朝市でいいマジックアイテムを見つけたといっていたしな」

「それは難しいんじゃないか?」


  この街には確かに優斗たちの知らないマジックアイテムや武器が売られていることはあるが、それらの性能は決して優斗たちが満足できるような代物ではない。その知り合い冒険者の言っていたいいマジックアイテムというのも、優斗たちからすればほとんど価値を感じないアイテムの可能性は高い。


  さらにこの朝市というのは当然朝にやっている。冒険者たちの朝は基本的に忙しいため、冒険者で朝市に来る者は少ないのだ。武力を生業とする者の参加が少ないにもかかわらず、朝市で武器や戦闘で使えるマジックアイテムを売る者はほとんどいないはずである。


  優斗はそれらをアシュリーに説明し、たぶんその知り合いの冒険者が持っていたマジックアイテムは優斗たちにとってはあまり価値のないものか、戦闘だけでなく生活にも使えるようなアイテムだったのでたまたま朝市で売っていた、もしくはその両方だという可能性が高いという結論に落ち着いた。


「ではマジックアイテムはともかく、武器の類は売っていない可能性は高いのだな」

「まあその可能性は高いだろうな」


  アシュリーはそれを知ってまた落ち込んだが、それでも方針を有用なアイテムを買うことから朝市を見学することに切り替えて、みんなと楽しく朝市を見学した。


「エリアスのためにこれとこれは買っておくか」


  優斗たちはこの街で自分たちが見たことないようなアイテムがあればそれを買い、それらをすべてダンジョンに送っていた。

  ダンジョンに送ればエリアスやミアが中心となってそのアイテムの解析などをしてくれる。もちろん買うときに説明は受けるが、それでも改めて調べることで何か出るかもしれないからだ。


 それに、一番の目的はダンジョン内の技術の発展である。エリアスたちが調べることによってその技術や発想を吸収し、それによってダンジョンの持つ技術が上がる可能性がある。


  優斗は朝市で自分の知らないアイテムがあったのでそれを買った。優斗たちの武装やアイテムはインフィニティで手に入れた物を使っているため、仮に修理や補充などが必要になってもダンジョンに戻ってミアやエリアスに頼めば済む。


  そのため優斗たちは得た金銭の使い道が宿代と食事代以外ない。なのでこういうことに躊躇なく冒険で得た資金を投入できるのである。


「そろそろ時間か。やっぱり社会人たるもの、待ち合わせ時間より少し早めにつくのが常識だよな」


  優斗たちは朝市を存分に楽しんだ後出発し、待ち合わせの十時少し前に冒険者ギルドに着くことができた。



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