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閑話ー伯爵家の野望

「今年の税収の見積もりは大体これくらいか。後他領との交易内容はこんな感じで……それと使用人たちへの給料はこれくらいだな。そうなると我が伯爵家の予算は……」


  街の中心にある大きな屋敷の一室で、一人お金に関する計算をしている男がいる。その男の名はゲイル・フォン・ルクセンブルク、ここルクセンブルク領の領主である。彼がいるのはルクセンブルク領の領都のなかにある彼の執務室だ。

 

  この部屋はルクセンブルクで最も大きな屋敷であるルクセンブルク伯爵邸の中にある。そこには価値のある調度品が置かれているなどということはなく、内装的にはそれほど豪華の部屋と言うわけではない。

  しかし広くはないし豪華ではなくとも、マジックアイテムや部屋のつくりを工夫することによって盗聴や盗み見対策などがしっかりとされている非常に重要な部屋だ。

 

  ルクセンブルク領の政治に関することは大体この部屋で決まっている。今日も現当主であるルクセンブルク伯爵が、この部屋でルクセンブルク領の政治についていろいろと思案しているのであった。


「まあ基本的には例年と大きく変わるところがないか……我が領内は赤字運営と言うわけではないから、安心と言えば安心であるな。とりあえずうちの領内についてはひとまずそれでいい。それでいいのだが、問題はあいつらのことだな」


  ルクセンブルク領の収支は基本的に毎年プラスである。その点では、現当主は問題なくルクセンブルクを治めているといえる。

 

  しかし、現当主は最近あることに対して非常に頭を悩ませているのである。


「くそっ!あのバカ貴族どもめ。これでは結局いつもと何も変わらぬではないか。いい加減あの三家に支配されている現状から抜け出したいとは思わぬのか!?」


  現在のブルムンド王国は、主に三つの派閥が中心となって政治が行われている。

  この国には三大貴族と呼ばれる、他家と比べて非常に突出した力を持つ家が三つ存在している。その三家がこの国で持つ力は絶大であり、もし王子が次期国王になりたいのだとすれば、この三家のうちどれかの家の後ろ盾がなければ絶対に王になるのは不可能だといえる。

  現国王も三大貴族の家の娘を正妻にしており、大臣などの要職に就く者もほとんどは三大貴族のいずれかと何らかの関係を持つ者たちである。


  王の力があまり強くないブルムンド王国において、三大貴族とはブルムンド王国を実質的に治めている者たちともいえる。いくら王であろうとも、この三家をないがしろにして政治をすることは絶対にできないのである。


「宮廷での会議はいつも三大貴族が取りまとめて終わる。これでは私を含めたほかの貴族の存在意義はないだろう。私の派閥が発言力を持つには、やはり今まで通りのやり方では難しいか」


  ブルムンド王国では、貴族たちが集まって政治に関する物事を決める宮廷会議がある。

  それは名目上王が中心となって行われる会議なのだが、実態は完全に三大貴族の取り仕切る会議であり、会議では三大貴族とその派閥の者の意見ばかりが通るような場所である。


  ゲイルは三大貴族とは違う派閥を作っている数少ない存在であり、当然その派閥に集まる人材は三大貴族ほど豊富ではない。ゲイルはブルムンド王国の中では大きな家の一つではあるが、それでも同格の家はいくつかあり、三大貴族には遠く及ばない力しかない。

 

  ゲイルの派閥が三大貴族に見逃されているのは、派閥自体が大した力を持っていないことと、三大貴族はお互いの足を引っ張り合うことで忙しく、ゲイルの派閥にかまっている暇はないためである。それに、下手に手を出すことでどこかがゲイルの派閥を取り入れてその派閥が大きくなられては困るからだ。

 

  三大貴族はゲイルの派閥に対して、自分たちのところに来れば歓迎するが、他の派閥に行くというなら全力で邪魔するというスタンスをとっている。

  そのためゲイルの派閥は生き残ってこそいるが、宮廷でのその存在感はほとんど皆無と言ってもおかしくないくらいなのである。


「私が三大貴族に割って入るためには大きな実績と家の発展が必要不可欠だ。そうしなければ、私は一生弱小派閥の長か三大貴族の手下にしかなれない。タイミング的にもチャンスは今しかないか……」


  ゲイルの野望は三大貴族に割って入り、四大貴族として政治の中枢を担うことである。ゲイルはそのために若いころから準備を進めてきたのだが、今でもまだそれは達成されていない。

  コネを増やし経済力をつけることで家を発展させ、その他にも諜報や暗殺など様々な手を講じてきた。しかしそれでも三大貴族の牙城は崩せず、今の弱小派閥の長という地位に納まっている。


  昔は若く美少年と評判だったゲイルも、今や五十歳のおじさんである。髪には白髪が混じり始め、顔にはしわも目立つようになってきた。体も徐々に老いてきていて、そろそろ次期当主への家督相続も考えなければいけない年である。

 

  次期当主である息子もすでに二十歳を超えており、年齢的にもゲイルにはもうチャンスは少ない。ゲイルの焦りも当然なのであった。


「幸い今は戦争中だ。今中央の目はこれから起こる戦争に向いている。三大貴族どもによってうちの派閥から兵を出すことはできなかったが、逆にそれによって今がチャンスともいえる。この機会を逃すと当分はチャンスを得られないだろう。これは私の一世一代の賭けになるな」


  現在ブルムンド王国は、とある西方の国と近々戦争することがほぼ確定となっていて、今中央はその対応に追われている。そのため、今はルクセンブルクのような東の果てにある領地に一々かまっている場合ではない。


  ゲイルの派閥にいるのは主に国の東側に領土を持つ貴族たちであり、特にガドの大森林に近づけば近づくほど、ゲイルの派閥の貴族である可能性は高くなる。


  今回そのゲイルの派閥の貴族たちは、西方で起こる戦争と言うことで参加を免除されている。飛行機や電車、車があった日本とは違い、人の移動が簡単ではない時代だ。

  東からわざわざ兵を率いて西まで来るのは大変だろうということで、今回ルクセンブルク伯爵たちは戦争に参加することはない。


  戦争の免除と言えば聞こえがいいのだが、実質的には三大貴族によって戦争への参加を禁じられたのである。

  戦争と言うのは貴族にとって名を上げる大チャンスであり、戦争で名を挙げた貴族はその後の宮廷での影響力が大きくなる。三大貴族は当然自分やその配下、そうでなくとも自分の派閥から戦争で活躍する者を出したいわけで、できれば戦争は自分主導で行いたいのである。


  さすがに他の三大貴族を戦争から締め出すのは難しい。しかし、ゲイルのような弱小派閥なら簡単に戦争から締め出すことができる。

  特に今回戦争を行う場所は、ゲイルのもつ東の果ての領地から非常に離れている西の地である。それにガドの大森林からだってモンスターがあふれ出す可能性がないとは言えない。


  場所が西でなければ参加することくらいはできたのだが、ここまで条件がそろっていると三大貴族は見逃してくれない。ゲイルとその派閥の者たちは、戦争を行う場所から領地が非常に遠いこととガドの大森林を警戒するという名目によって、今回の戦争からは締め出されてしまったのである。


  普段ならゲイルだってこのことにひどく怒りを覚えるのだが、今回ばかりはそうではなかった。むしろ、戦争に参加させられなくて喜んだ節(もちろん宮廷ではそんな態度をおくびにも出さないが)さえあった。


「奴らが西に目を向けている間に、私は東で力を付けてやる。この計画に成功すれば私はおそらく侯爵になるだろう。さすがにこれだけで三大貴族に並べるとは思えないが、それでも今までより遥かに強い力を持つことができる。

  この計画にはどれだけ金をつぎ込んでもいい。すでに準備はほとんど整っているが、だめ押しでさらに何人か集めておくか」


  ゲイルは計画書に目を通し、その計画をさらに盤石のものとすべく行動を開始する。この計画が成功すれば、ルクセンブルク家がさらに繁栄することは間違いない。しかし、もし失敗してしまえばこれまでの苦労が水の泡になってしまう。


  ゲイルはこの計画に長い時間と大金をかけた。それが実を結ぶのかどうか、それはあともう少しでわかることとなる。





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