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冒険者の事情

  優斗たちがこの街に来てから二か月がたった。

  優斗たちは二か月間ずっと冒険者として活動してきた。その結果、優斗たちは普通の冒険者にしては早すぎる速度でのランクアップを成し遂げていた。


「おいノーム!俺たちもようやく緑級まで上がったぞ!これでお前たちまであと一つだ。もうすこししたらすぐに追いついてやるぞ!!」


  優斗に話しかけてきた男の名はグレイ、以前この街ナンバーワンルーキーの座をかけて優斗に挑んできた冒険者たちのリーダー格の男だ。

 

  結局あれから一度もナンバーワンルーキーの座をかけて勝負することはなかったのだが、それでも同じ街で同じ職業に携わっている以上顔を合わせることは少なくない。あれから二か月たった今では、二人はお互いパーティーのリーダーとして話し合ったりする仲にまでなっていたのだ。


  いまだに優斗がグレイにライバル視されていることには変わらないのだが、それでも以前よりは幾分ましな関係にはなっているのであった。


「おめでとう。でも、その頃には俺たちも青級から銀級に上がっているかもしれないがな」

「相変わらず言うねぇ~。まあ、それでこそ超えがいもあるんだけどな」


  優斗たちは現在青級の冒険者だ。

  優斗たちほどの速さで青級まで上り詰める冒険者は非常に稀であり、優秀な冒険者でも二か月では緑級になるのが精いっぱいである。そういう点で言うと、グレイたちは比較的優秀な冒険者に入る。優斗たちがいなければ、この街ナンバーワンルーキーの称号は確実に彼らのものであっただろう。


  もちろん優斗はダンジョンモンスターを使ってのマッチポンプなどしていない。というか、もしそうしていたら今頃銀級や金級になっていてもおかしくはないだろう。

 

  また、優斗よりも早くランクを上げた冒険者も過去には当然いて、その冒険者たちはほとんど全員が偶然起きた大事件を解決したことで大幅にランクを上げているのだ。

  幸か不幸か、優斗がこの街に来てから冒険者ランクを一気に上げられるような大事件は周辺で起きていない。優斗たちは数段飛ばしで昇格してきたのではなく、非常に速い速度で一歩一歩上がってきたのであった。


「それで、グレイたちもこれから依頼を受けるのか?」

「ああ。今仲間が今日受ける依頼を選んでくれているよ」


  優斗たちは今冒険者ギルドにいる。グレイだけでなく優斗の仲間も、今リクエストボードで今日受ける依頼を吟味している最中だ。


  この街の冒険者ギルドには、グレイたち緑級冒険者まではそこそこの数がいる。そのため以前よりも楽になったとはいえ、グレイの仲間たちは相変わらずリクエストボードで依頼の取り合いをする必要があった。グレイの仲間たちも今その最中であり、必死になって依頼の取り合いをしている。

 

  さすがに刃傷沙汰はご法度だしそれをする冒険者もいないが、それでも激しい取り合い、特にランクが上がった分黒級や赤級の時よりも激しい取り合いがなされている。


  ランクが上がれば上がるほど依頼の難易度が上がり、依頼のランクが上がれば上がるほどその報酬も大きくなる。

  この街では緑級の冒険者もそこそこいるため、緑級の依頼はたくさんある。そして依頼がたくさんあるということは当然その中に当たりはずれもたくさんあり、その分依頼の取り合いは激しくなるのだ。

 

  最底辺の黒級の依頼にだって当たりはずれがある。しかし、当たりはずれがあったとしても黒級の依頼ならそもそも当たりの依頼だって報酬は多くないし、はずれの依頼の難易度だってたかが知れている。極当たり前のことだが、ランクが上がれば上がるほど依頼の当たりはずれは大きくなっていくのである。


  この街には緑級以下の冒険者はたくさんいるが、優斗たちのような青級以上の冒険者は少ない。今はこの街唯一の銀級冒険者が街を空けている(優斗たちに捕縛されてエリアスの実験体になっている)ので、実質的には青級冒険者が最高位だ。

  青級冒険者の数が少ないため、彼らは依頼の取り合いをする必要はない。それに青級の依頼で外れのものがあったとしても、この街の青級冒険者たちはそれを受ける必要はない。ほかにいくらでもいい依頼があるため、悪条件の依頼はなるべく受けないようにしているのだ。


  そのため、グレイの仲間たちが激しい取り合いに参加している中、優斗の仲間のアシュリーたちはゆっくりと依頼を選んでいた。


「緑級になると時間のかかる依頼も多くなってくるから、依頼はより慎重に選ぶ必要がある。緑級の今がある意味一番大変だと思うけど頑張れよ。俺もこう見えて結構大変だったからな」

「やっぱそうなるよな。頼むからいい依頼をとってきてくれよー」

 

  グレイがリクエストボードにいる仲間に向かって手を合わせて祈る。

  ランクが上がれば、当然一日では終わりそうにないような依頼も混じっている。青級なら依頼を取り合うライバルも少ないため、その依頼を避けることができる。もし逆にそういう依頼を受けたいのだとしても、結局ライバルが少ないのだから問題なく受けることができる。

 

  しかし緑級だと、依頼を取り合うライバルが多いためにそういった選択ができない。そのため、ほかにいい依頼がないからしょうがなく一週間かかる依頼を受けないといけなくなることもあるのだ。

  ある意味緑級で一番めんどくさいところである。優斗たちも緑級にいる間は特に依頼の取り合いには全力を傾けていたものだ。


「おーいグレイ、今日受ける依頼をとってきたよー」

「おおありがとう。それでどんな依頼なんだ?」

「商人の護衛依頼だよ」

「それってどのくらいかかるんだ?」


  護衛依頼と言うのは主に二種類ある。まず一つは依頼主が街から街へ移動するため、道中の盗賊やモンスターなどから自分を守ってほしい時にされる依頼だ。

  このタイプの護衛依頼だと目的地の街に着くまでは当然ほかの依頼を受けることができず、目的地が遠いところにあれば当然それだけ時間もかかる。依頼を受けた冒険者たちがその街かその周辺、もしくはその街よりもさらに遠くの街に拠点を移す、もしくはそれらの場所に何か用事があるならともかく、そうでないときは大変だ。

 

  そしてもしまたこの街に戻ってくるのだとしたら、その帰りの時間も計算しないといけない。大抵はその街まで護衛した依頼主がこの街にまた戻ってくる時に一緒に護衛として来るか、新しく別の依頼主がその街からこの街に来る時の護衛依頼をして戻ってくるかである。


  つまりこの場合だと、その街までの距離によって依頼にかかる日数は変わってくるのが特徴だ。


  二つ目は、短期で身辺警護をしてほしい場合である。こういう依頼をしてくる者は、大抵元々自分でも護衛は雇っている者も多い。しかし、なにかあって短期的に腕利きの護衛がほしい時は冒険者ギルドに頼むのだ。

  短期的に護衛を頼むということは、当然自分に厄介な者が襲ってくるだろうと予測しているわけだ。つまりそのなにかと交戦する可能性は高く、場合によっては想定よりもはるかに難しくなる可能性を含んでいる依頼になる。


  優斗たちはこれまで護衛依頼を受けたことはない。優斗たちの目的はなるべく早くランクを上げることだ。そのためには短期で終わる大きな依頼を数多く受けて、それらをすべて成功させるのが一番確実で手っ取り早い方法である。

  戦闘力に自信のあった優斗たちは、依頼が終わるまでは拘束されてしまいほかの依頼を受けることができなくなる護衛依頼を受けない代わりに、街の近くにいる比較的強いモンスターをたくさん倒すことでランクを上げていったのである。


「期間は片道二週間よ。その依頼主は往復を希望してないから、帰ってくる時はその人以外を護衛しながらになるわね」

「なんでそんなめんどくさそうな依頼にしたんだ?」


  グレイは不思議そうに首をひねる。まだ緑級の依頼が貼ってあるリクエストボードの前に冒険者たちが何人も群がっている。つまり、まだこれ以外にも緑級の依頼があるのは確実だ。なぜそれを選ばないのか?グレイがそう疑問を抱くのも当然である。


「だってこの街に行ってみたかったし……グレイだって前そう言ってたよね!?」

「この街……でも今行くか?」

「別にいいでしょ。護衛依頼で行けるならむしろちょうどいいじゃない。それに、緑級でここまでの報酬の依頼はなかなかないよ」


  その依頼の目的地は、グレイたちが以前から一度は行ってみたいと思っていた街であった。グレイの仲間はちょうどその街に行ける依頼を選んだと、少し自慢げにしていた。


「そりゃ二週間拘束されるんだから報酬はいいだろうぜ。でも、ほかのみんなはそれでいいのか?」


  グレイがそう聞くと、依頼を持ってきた少女以外も頷いていた。どうやら、グレイ以外の全員はこの依頼を受けることに賛成のようである。

  その後も少し話し合った結果、グレイたちはこの依頼を受けることにした。


  グレイたちはこの街にまた戻ってくるとは言っていたが、それはかなり先になるだろう。

  まず街に行くまでに片道で二週間かかる。往復では一か月だ。さらにグレイたちはその街に行ってしたいことがあるらしいので、そのしたいことの内容よってはもっと時間がかかるだろう。


  優斗は異世界でできた冒険者仲間たちが、今受けた護衛依頼の準備のためにギルドから出ていく姿を見送った。


「ノーム!今日受ける依頼が決まったぞ!」


  アシュリーたちが今日受ける青級の依頼を持ってきた。それはいつも通りの討伐依頼であり、優斗たちはそれをいつものように迅速に終わらせた。




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