小さな称号
「言いたいことはわかったが、ずっと扉の前で話し合っていてはここを通るほかの冒険者たちに迷惑だ。
それが短く終わるような話なら今すぐどこかで聞くが、もし長くなりそうなら今受けたばかりの依頼を終えてからにしてくれないか?」
「そうだなぁ……長くなると思うか?」
優斗たちの目の前で四人が相談しあっている。もうすでにそれがほかの冒険者の邪魔になっていると優斗は思ったが、あえてそこには突っ込まないことにした。
「うんうん、お前たちの言いたいことはよくわかったぞ」
話は終わったらしく、少年は再度優斗の方に顔を向けて話し始めた。
「俺はそんなに長くならないと思うのだが、ここにいる仲間がもしかしたら長くなるかもしれないと言うから今はやめておく。それに俺たち新人が昇格するためには、依頼の難易度よりも依頼の成功率と成功数のほうが大切だ。
俺たちも依頼が終わったらお前たちのパーティーが泊まっている宿に向かうから、お前たちがどこの宿に泊まっているか教えてくれないか?」
思ったよりも礼儀正しく頼んでくる少年に対し、最初の印象よりもかなり礼儀正しいなと思いながらも、優斗は教えても特に害はないだろうと思って彼らに自分たちの泊まっている宿を教える。というか、むしろここで教えなかったら後でしつこく迫ってきそうでめんどくさそうだったということも大きいのだが。
「それなら俺たちの宿と同じだ。じゃあ夕飯時に話そうじゃないか」
「わかった。そういうことなら俺たちはもう依頼に行かせてもらうぞ」
「ああ。お互い頑張ろうぜ!」
そう言って二組の冒険者パーティーはそれぞれの依頼に向かった。
「それで、俺たちと勝負したいというのはどういうことなんだ?」
優斗たちのパーティーと今朝優斗たちに因縁を付けてきた四人組は、同じ宿の食堂で一緒に夕食をとりながら今朝の話の続きをしていた。
「もうわかっていると思うが、俺たちはお前たちと同じ黒級の四人組新人冒険者パーティーだ。
俺たちはこの街の近くにある村出身の幼馴染同士で作った冒険者パーティーで、パーティー名『紅椿』という。紅椿というのは俺たちの村の特産でな、この名前はそこからとっているんだ」
彼らは自分たちのパーティー名に自信を持っているのだろう。少年が自分たちのパーティー名とその由来を話した時、少年を含めた四人の表情は非常に誇らしげな顔であった。
「お前たちが誰かはよくわかったから、いい加減とっとと要件を言ってくれないか?」
「まあまあそう焦るな。今から要件を言うからちょっとくらい待っていてくれ」
「(お前ほど焦ってはないだろうが)」
優斗は彼らが自分たちと話しがしたいと言ってくるので、面倒だと思いながらもしょうがなく話を聞いているのである。
用があるのは彼らのほうであり、優斗としては彼らに話すことなどないのだ。それなのに要件をもったいぶったり聞いてもいない話をしてくるので、彼らの態度に対して優斗は少しイラっとした。
自分は大人、少年たちは子供、そう思っているからこそ耐えられるのである。そうでなければ、もう少しイライラが態度に出ていたことだろう。
優斗がそんなことを思いながら少年の話を待っていると、「こんのバカ!」と言いながら少年と一緒にいる二人の少女の片割れが少年の頭をたたく。
「こっちから話しかけたのになんでそんなに偉そうなのよ!?この人たちだって暇じゃないのよ。いいからさっさと要件を言いなさいよ!」
その少女は少年を注意してから優斗たちにも謝る。
「このバカが本当にすいません。ほらっ!早く要件を言いなさいよ」
「わかってるよ」
少年がしぶしぶ要件を話す。
「俺たちは街じゃなくて村から出てきたから、街出身のほかの冒険者たちに田舎者だと馬鹿にされないよう、この街のナンバーワンルーキーを名乗って活動していたんだ。それなのに昨日登録したお前たちがいきなり大活躍してしまったから、今俺たちの持つナンバーワンルーキーの座が脅かされているんだ。
そこで俺たちは現在この街のナンバーワンルーキーにもっとも近いといわれるお前たちを倒すことで、名実ともにナンバーワンルーキーの座を勝ち取ろうと思ったのだ」
少年はそう胸を張って答えた。
「なんだそんなことか」
優斗からすると、少年の言っていることはくだらないとしか言いようがない。
冒険者ギルドは実力主義の組織のはずだ。それならば田舎者だろうが都会者だろうが、実力さえ見せればそれなりに認められるだろうし、当然その分金だって入ってくるはずだ。
普通ではない手段でいきなり名を挙げた優斗が言えたことではないが、わざわざ強がるよりは地道でも依頼を確実にこなすほうが手っ取り早いように思える。
それにこの街のナンバーワンルーキーと言うのはどうもすっきりしない。
まず優斗はナンバーワンルーキーの称号がほしいとは思わないわけではないが、それを他人と勝負してまでほしいとは思わないし、彼らとそれを賭けて勝負するくらいなら黒級の依頼を一つこなしたほうがよっぽど有意義であるといえる。
そもそも優斗はナンバーワンルーキーの称号などいらない。そんなものを賭けて勝負するくらいなら、もっと上のこの街ナンバーワン冒険者になるために依頼をこなしていったほうがよっぽどいい。
残念ながら、優斗とこの少年は目指すところが違っていたのである。
優斗には冒険者として名を上げることも必要だが、それ以上に優斗はガドの大森林に調査を出した冒険者ギルドや、自分の近所ともいえるこの街やその領主である伯爵に関する情報を集めに来ているのだ。
なので優斗には彼らと勝負することが無駄のようにしか思えないのだ。
「なんだとはなんだ!この街のナンバーワンルーキーはものすごい名誉な称号のはずだろ!?」
優斗にナンバーワンルーキーの称号を馬鹿にされたと感じた少年が、怒りを含んだ口調で問い詰める。
「お前はそう言うが、そもそもまだちょっとしか活躍していない俺たちがその称号を持っているというわけでもないと思うぞ。それに、お前たちのだって今はあくまで自称だろ?
俺たちをライバル視するのは勝手だが、まだ黒級の俺たちはそんな勝負をするよりも目の前の依頼を一つ一つこなすほうがいいし、お前だってギルドではそう言っていたじゃないか。なら俺たちが今わざわざ勝負する必要はないだろ?」
「それは……」
優斗に諭された少年は口ごもる。
「それはそうですね!では、お互いライバルとして頑張っていきましょう!」
少年が口ごもっている間に、先ほど少年を注意していた少女の一言で話がついた。よくしゃべる少年が彼らのリーダーなのかと優斗は思っていたが、どうやら真のまとめ役はこの少女のようである。
話が片づいた優斗たちはどちらのパーティーもまた明日冒険者活動があるため、話がついた後はお互い自分たちの部屋に戻りゆっくりと休んだ。