お手柄
「おお!最近噂になっている異色の新人冒険者たちじゃないか。ギルド職員や他の冒険者たちから、君たちたちが悪名高い冒険者パーティーと一緒に依頼に行ったと聞いて心配していたんだが、どうにか無事全員帰ってきたみたいでよかったよ。それで、一緒に行ったという冒険者パーティーは一体どうしたんだ?」
街に帰ってきた優斗たちに対し門番が心配そうな声をかけてくる。
優斗はあの三人が悪名高い冒険者パーティーなら誰か先に言えよとも思ったが、この門番を含めて冒険者やギルド職員だってわざわざ厄介ごとには関わりたくないのだろう。
優斗だって日本では社会人になっていたのだ。本当はその人がよくないことをしているとわかっているのに、それと関わり合いになりたくないために見て見ぬ振りをする者たちの気持ちもよくわかる。
日本でも似たようなことをしたことがある優斗は、他の冒険者とギルド職員、そしてこの門番を責める気にはなれなかった。
「ああ。そのことだが、ちょうどさっきこの三人に襲われたんで返り討ちにしたんだ。それで、この場合俺はどうなるんだ?」
優斗はそう言って、自分たちを襲ってきた冒険者三人の死体を見せた。男たちの死体はどれも傷を負っていて、かなり激しい戦闘が行われたことが門番には見て取れた。
優斗は即死魔法で三人を殺した。本当ならブラックベアーと戦った傷しかついてなく、それだって致命傷になるような大きな傷は一つもない。
優斗にはこの世界での即死魔法に対する認識がまだよくわからない。インフィニティにある魔法は初級〈中級〈上級〈最上級〈超級〈神級の六階級ある。即死魔法は比較的高位の魔法で、優斗が使った〈死〉は最上級魔法に分類されている。
即死魔法はこの世界では普通の魔法なのか、それともものすごく高位の魔法なのかわからない。そしてこの世界、もしくはこの国では、即死魔法自体が忌避すべき魔法であるという可能性もある。
優斗は念のため自分が三人を即死魔法で殺したということはばれたくなかったため、あまり褒められるようなことではないとしても、わざわざ彼らの死体に傷をつけたのである。
「わっ、わかった。とりあえず俺が衛兵と冒険者ギルドを呼んでくるから、ひとまずそこで待っていてくれないか?」
「待つのは構わないけど、死体を持ったままこんな場所で待っていていいのか?」
ここは門の前だ。時間が遅いので昼間ほど交通量は多くないが、それでもこの門を通る人はたくさんいる。そしてそんなところに死体があれば、当然のように野次馬たちが集まってくる。
このままここで待っていたとしたら、野次馬たちのせいで門の交通が妨げられるだろう。そうなれば他の人に迷惑になるし、彼ら門番の仕事だって滞るのは目に見えている。
「確かにそれはよくないな。それなら待合室で待っていてくれ。今休憩中の同僚がいるから、そいつに待合室まで案内してもらってくれ」
門番はそう言うと、自分の仕事をほかの同僚に任せて走って街のなかに入っていった。
優斗たちは彼に紹介された門番の案内のもと、待合室で門番が呼んでくるギルド関係者や衛兵たちを待つことになった。
「これがあの問題児たちを返り討ちにしたという新人冒険者たちか。それで、彼らの運んできた死体は本当にあいつらのもので間違いないのかね?」
「はい間違いありません。この死体は間違いなく彼ら『毒蛇の導き』によるものです」
まず門番に案内されて待合室に来たのは二人。二十代後半くらいだと思われる女性と、六十歳前後だと思われる白髪交じりの男性だ。
門番の紹介によると男性のほうがこの街の冒険者ギルドのギルド長であり、女性のほうはその秘書であるらしい。
ギルド長も以前は凄腕の冒険者だったようだが、今は老いによるためか以前よりも肉体が少しずつ衰えてきているように見える。もちろんそれでも老人というには破格すぎるほど鍛えられており、そこいらの若い冒険者くらいなら力だけで十分倒せそうである。
肉体が多少衰えているとはいえギルド長の技術や経験は侮れないが、それよりも侮れないのが目の前の女性である。
女性は死体の検分を終え、今度は『毒蛇の導き』が所持しているマジックアイテムなどを調べている。なぜかははっきりとはわからないが、なんとなく優斗はギルド長よりもその秘書のほうが気になったのであった。
「すでに知っとるかもしれんが、『毒蛇の導き』というのはこやつら三人のパーティー名じゃ。こやつらは素行こそ悪いが、その代わり悪知恵が働く上にその実力だけは緑級にふさわしく、証拠をつかむのに難航しておったんじゃ。
ギルドや衛兵からも当然事情聴取はさせてもらうが、多分罪になることはないと思うぞ」
「それはよかったです」
優斗たち、その中でもとりわけクルスが安堵の息をついた。
「それと一つ聞きたいことがあるんじゃが」ギルド長はそういって目を細め、「どうやっておぬしら黒ランクが、あやつら緑ランクを倒したんじゃ?」と尋ねた。
「どうやってと言われましても……俺たちが特別何かすごいことをしたわけではありませんよ。こちらが単純に実力で彼らを上回っていただけです」
優斗は何でもないことのように答える。
「ふむ、儂のプレッシャーにも全く動じずか。儂はおぬしらのことを知らんのじゃが、パーティー名は何と言うのじゃ?」
「パーティー名はまだないですね。俺たち全員、昨日冒険者登録したばかりの新人ですから」
「それならパーティー名がないのも、儂がおぬしらを知らぬのも無理はないか」
優斗たちみたく登録したばかりの新人同士が集まって作ったできたばかりの冒険者パーティーならともかく、普通の冒険者パーティーなら何かパーティー名がついているものである。
パーティー名がついていない場合、依頼の受理などのときにほかの冒険者パーティーとの区別がつきにくくなってしまうため、冒険者ギルドもパーティー名をつけることを奨励している。
そして冒険者として自分たちのパーティーの名を上げるためには、そもそもその上げる名前がないといけないため、ほとんどの冒険者パーティーは自分たちのパーティーを結成したその日に名前を付けるものである。
優斗たちはこの街に来たばかりで知り合いがいない。そして冒険者としても全員が新人でなおかつパーティー名もないため、この街に優斗たちのパーティーを知っている者は少ない。
ただ、この街に目立つ四人組が来たということだけは多くの者に知られてはいるのだが。
「ちなみにおぬしはその仮面はとらんのか?」
優斗たちの前にいるのはこの街の冒険者ギルドのトップだ。
目の前にこの街の冒険者ギルドのトップがいるにもかかわらず仮面を付けたままだと、場合によっては失礼と言われてしまってもおかしくはない。
「それはできません。理由は言えませんが、この仮面をとることはできないのです」
「ふむ。どんな理由かくらいは聞いてみたいところだが、本人がそう言うのなら聞かないでおこう」
「ありがとうございます」
その後もいくつか質問をされたが、それらはすべて優斗が聞かれるだろうと予測していた範疇のことばかりあり、優斗はそのあらかじめ用意しておいた答えをただ言うだけでよかった。
「そうかそうか。まあ儂らの仕事はこれで一通り終わったな。衛兵からもいろいろ聞かれるだろうし、儂らだってこやつらの調査をしていくうちにおぬしらに聞きたいことも出てくるだろうが、とりあえず冒険者ギルドからの聞き取りは終わりじゃな。
これからもおぬしらが冒険者として精進していくことを願っておるぞ」
「それでは我々はこの辺で」
そういってギルド長とその秘書は去っていった。
後から衛兵が来て似たようなことを聞かれ続け、異世界のお役所仕事もめんどくさいと思いながらも全部ちゃんと答えきった。
それらがすべて終わったころにはあたりがすっかり暗くなっており、そのせいで宿の夕飯を食べ損ねた。なので優斗たちは外で簡単な食事をしてから宿で床に就いた。