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「どうしてこうなった」


  男たちは今、彼らがこれまで経験したこともないような深い絶望の淵にいる。彼らは冒険者として様々な危機に直面してきたが、それでもここまで得体のしれない相手は初めてである。

 

  彼らはこれまでうまくやってきた。少なくとも彼らの中ではそういう認識だったし、事実これまで一度も逮捕されていない。

  どれほど悪いうわさがあろうが、証拠さえなければ逮捕されない。貴族や王族相手など権力や金のある連中に何かやらかせば明確な証拠がなくとも破滅する可能性はあるが、それとは反対に平民出身の新人冒険者なんて誰も気遣わない。

  ほとんどの冒険者は余計な面倒ごとを避けるため、仮に何かおかしいと思っても見て見ぬふりをすることも多い。そしてそこが大きなねらい目だ。特にこの街で見たことがないような新参者たちならなおよい。


  男たちはそんな新人冒険者たちを狙って狩りをしていた。自分たちの演技に騙されればそれでよし、騙されなければ尾行して街の外で仕事をしているところを狙うのだ。

  そうやって狩った新人冒険者たちの身ぐるみを剥いでから、商品価値のありそうなのは裏で奴隷として売りさばき、それ以外はそのままそこで殺したりするのだ。

 

  裏の奴隷市には、当然表立っては言えないようなやり方で奴隷にされている者もいる。買う方だって当然それはわかっており、違法な手段で奴隷にされたとどれだけ叫んでも意味がない。

  その奴隷市はさる大物貴族が後ろ盾になって行われているのだ。そんな場所の前では、ただの平民がどれほど叫んだところで無駄なのである。


「なんでこうなる。今日もいつも通り楽しいショーになるんじゃなかったのか」


  彼らはお金儲けのためだけでなく、獲物になった新人冒険者たちの絶望した顔を見ることも大きな楽しみだったのだ。


  特に彼らが大好きなのは、冒険者になって一獲千金を夢見る少年少女が目の前の絶望に打ちひしがれるところである。

  先輩冒険者として尊敬させておいて殺す、初めて依頼を成功させて喜んでいるところで殺す、依頼に失敗して、モンスターから命からがら逃げてきたところで更なる絶望を与える、彼らは様々な手で新人冒険者たちに絶望を与えてきたのである。


  しかし今回はそうならなかった。獲物は目の前の相手ではなく、自分たちのほうであったのだ。そして、それに気づいた時にはもうすでに遅かったのである。





  時は少し前にさかのぼる。

  優斗たちの合同パーティーは、赤級の依頼を達成するために七人で街を出て、依頼にあるモンスター討伐の場所まで向かっていた。


「なあ先輩たち、これから倒すモンスターはどんなモンスターなんや?」

「ああ。これから行くのはブラックベアーの討伐だ。クマ型のモンスターなんだが、それなりに強いから注意しろよ」

「うちらで倒せるやろか?」

「まあ大丈夫だろ。あくまで黒級にしては強敵ってだけで、俺たちからすると楽勝だからな。お前たちでもがんばれば勝てる相手だと思うぞ」

「さすが先輩やな!」


  これは嘘である。

  ブラックベアーはなかなかの強敵で、赤級の依頼の中ではいわゆる外れ依頼に分類されている。ブラックベアーは単純な強さだけで言うと緑級に近い強敵だ。赤級の冒険者パーティーでも苦戦する相手であり、普通の黒級には絶対に達成不可能な依頼である。


「先輩方、ここは依頼書にあった場所と違いませんか?依頼書の場所から少し離れているように思えるのですが」


  優斗がそう尋ねると、もっとアキと話していたかったのか、話しかけられた男が不機嫌そうな顔で答えた。


「ちっ!そんなこともわからねえのか。向こうだって生きてんだ。当然移動だってするに決まってんだろ!」

「なるほど……理にかなった作戦ですね」


  男は優斗の答えに少し不審なものを感じたが「そんなに重要なことじゃないしいいや」と思い、特にそのことを言及せずに進んでいく。


  その後もどんどん人気のない道に進んでいく。そしてしばらく進むと、彼らの前方に黒い影が一つ見えた。


「見えてきたぞ。あれがブラックベアーだ」

「なんか強そうやな。ほんまにうちらだけで行けるやろか?」


  ユズが不安そうな声を出した。ユズは盗賊だからなのかそれとも本人の特性なのかわからないが、とにかく演技が上手だ。今だってこれくらいの相手なら全然怖くないのがわかっている優斗たちでも、一瞬ユズが本当に怖いんじゃないかと錯覚するほどの演技であった。

  そしてユズは演技だけでなく人と仲良くなるのも得意であり、たったこれだけの時間ですでに彼らとも仲良くなっている。


「やっぱやるしかないんやな。ほんなら、先輩たちの前でいっちょいいとこみせたるで!」


  ブラックベアーはまず優斗たち新人パーティーだけで対応する。それで倒せればよし、それが無理だった場合は、緑級である男たちのパーティーが加勢するという約束になっていた。


  ユズの声を引き金にして、優斗たちがブラックベアーを狩りに行った。


「行ったな」


  男たちはブラックベアーに挑む優斗たちを見てほくそ笑む。


「さて、あいつらがあれ相手にどれくらい持つか見ものだな」

「ああ。だが今回はキレイどころが多い。これなら奴隷として高値で売ることができるだろう。変に傷物になる前に、苦戦し始めたところで早めに加勢してやるか」


  男たちはブラックベアーから優斗たちを颯爽と助けた後、自分たちに優斗たちが感謝や尊敬をしたところでで仮面を被った優斗を殺そうと考えていた。優斗を殺した後は残りの三人を捕らえて裏の奴隷商で売って、それにより大金を得るという算段だ。

 

  新人冒険者たちの絶望を見た後に大金を稼ぐことができる。「自分たちにとっての天職は間違いなくこれだ!」優斗たちの絶望する顔を想像して、男たちはさらにその思いを強くした。


「おいそろそろじゃねえか?二人とも行くぞ」


  優斗たちが案の定ブラックベアーに苦戦しているのを見て、男たちは加勢に向かう。ブラックベアーは簡単な敵ではないが、それでも男たちはこれまでに何度も狩ってきている。赤級パーティにとっては強敵であるが、男たちは腐っても緑級冒険者パーティーだ。

 

  敵のブラックベアーは普通の大きさの個体が一体だけである。もっと大きかったり、敵の数が複数体いると難しいが、今のように普通の大きさが一体しかいないとなると緑級パーティーの男たちなら問題なく狩れる。

 

  多少苦戦はしたが、それでも男たちはブラックベアーを狩ることに成功した。


「おお!さすが先輩たちやで!」


  ユズがそういって男たちを絶賛する。男たちはそれに笑顔で答えながら優斗たちに近づいてくる。そして自分たちの武器が届く範囲にまで近づいた後、一斉にそれを優斗に向かって突き刺した。

 


 

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