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伯爵領

「ここがルクセンブルク伯爵領で一番発展している街、領都ルクセンブルクか。ガドの大森林に隣接しているブルムンド王国の東の辺境という話だったが、思っていたよりもずいぶん活気があるな。それとも、この国ではこれで活気がないほうなのか?」


  この地はブルムンド王国貴族のゲイル・フォン・ルクセンブルク伯爵の治めるルクセンブルク領だ。この地はブルムンド王国の東の果てにある領地であり、当然中心である王都からも相応に離れている。

  捕らえた男たちを尋問したシルヴィアたちからそう聞いていたため、優斗は勝手にここが辺境のさびれた街だと思っていたのだ。ブルムンド王国の技術水準がわからないので街の発展具合については何とも言えないが、少なくとも活気と言う面では優斗が思っているようなさびれた街ではなかった。


「そんなの俺が知るか!つーかなんで俺なんだよ。確かにこの世界の街に言っていろいろ調べるべきだとは昔言ったことがあるけど、残してきたのがあいつらだけじゃかなり心配なんだが」

「まあまあええやないか。どうせいつでも転移魔法で戻れるんや。それに魔法やマジックアイテムを使えばいつでも向こうと連絡をとれるんやで。なにもそこまで心配することはないやろ」

「一生懸命頑張らせていただきます」


 優斗ともにルクセンブルクにやってきたのはアシュリーとユズ、そして冒険者たちと一緒に捕縛されたクルスだ。優斗たちがクルスを生かした理由は主に三つである。


  まず一つ目は彼が捕らえた冒険者たちの仲間でないのはもちろん、人間でも冒険者でもブルムンド王国の出身者でもなく、ブルムンド王国よりもずっと西から来た魔族と呼ばれる種族であるということだ。

 

  『インフィニティ』における魔族は、今の優斗の種族でもある魔人の下の種族であった。『インフィニティ』では一部の種族に種族進化というものがあり、魔人は魔族の進化先であったのだ。

  彼が将来的に魔人に進化するかどうかはともかく、魔族は大森林周辺の国では基本的に歓迎されない種族らしい。


  レムルス獅子王国と都市国家群はともかく、彼のいたブルムンド王国では魔族は見つけ次第奴隷にされる。つまりクルスがブルムンド王国で頼れる人などいず、仮に優斗たちをうまく出し抜いて裏切ったとしても、結局魔族と言うだけで捕らえられて奴隷にされるのが落ちで、彼が優斗たちを裏切るメリットがまるでないのだ。

  彼からすると、優斗たちを裏切るよりは一緒にいたほうがいろいろと得なのである。


  二つ目の理由として、彼が人族に対して恨みを持っていることが挙げられる。

  優斗たちダンジョン勢にもアシュリーとヒルダという人族がいるがそれらに対する憎悪はなく、もし嫌いな人族を見てもちゃんと我慢できるだけの理性はちゃんとあるようだが、それでも人族嫌いというのは確かなようである。


  彼の故郷である魔王国は常に人間の国と戦争中で、毎年のように小競り合いが続いているらしい。大きな戦いが頻繁に起こることはないらしいが、それでも村単位での争いは普通に起こるようだ。彼の住んでいた村も、その余波に巻き込まれたらしい。

 

  人間に家族、そして同じ共同体に住む村人たちを目の前で殺され、無理やり人間の奴隷にされたのだ。これで恨みを持たないほうがおかしい。

  優斗たちがしようとしていることはブルムンド王国に不利益をもたらすことであり、それはすなわち人間に不利益をもたらすこととほぼ同義だ。優斗たちが人間と敵対している間は喜んで手を貸してくれるだろう。


 三つ目の理由は彼が優斗たちに、と言うより優斗になぜか非常に懐いている点だ。

  クルスいわく魔人と言うのは魔王国の王、つまり魔王に就任した者だけが成れる種族であり、それ以外は全員魔族だそうだ。王族の中から優秀な者が魔王に選ばれ、その者が王族のみに伝わるある儀式をすることによって魔人になれるそうである。


  インフィニティで魔族が魔人になるには必要なレベルに達することとそのための特別なアイテムを使用することであった。

  優斗はその儀式というのはそのアイテムを使うことなんじゃないかとにらんだが、絶対にそうとは限らず何か別の儀式をしている可能性もあったので、今考えても仕方ないからその件については深く考えないことにした。

 

  とにかく、優斗はクルスからこれを聞いて自分が魔人だと外に知られたらいろいろ大変なことになりそうだと考えたため、クルスに自分の種族を明かさなかった。

  もしクルスが優斗が魔人だとわかったのなら、優斗に懐いたり崇拝したりするのはわかる。しかし優斗がクルスにそれを明かしていないにもかかわらず、なぜかクルスは優斗に懐いているのだ。


  優斗としては懐かれて無下にもできず、仮にそれを目当てで懐いているふりをしていたとしても現状では特に問題がないので、そのまま放置している。


 これらのことから、クルスは殺さずに部下としてダンジョンに所属することになった。幸いクルスは尋問の時に聞かれたことを何もかも素直に話していたので、エリアスによる投薬やシルヴィアによるヴァンパイア化を受けてはいなかったのだ。

  エリアスは魔族を実験したかったから少し渋ったが、クルスがダンジョンにいる者たちの中で唯一外の世界を直接経験していること、そしてダンジョン内ではなく外から来た者を部下にする際の実験(これらを入れると理由は三つではなく五つかもしれない)でクルスを部下にしたのだ。


「まあまあ、そう気張りすぎてもいいことないで」

「そうでしょうか?」

「せやせや。それにしても、あんたほんまに男の子かいな。あんたを男の子やとしっとるうちから見ても、今のあんたは完全に女の子にしか見えへんで」


  クルスは今女装して街に潜入している。その姿は非常にかわいい美少女であり、ユズ以外の目から見ても完全に女の子にしか見えない。

 

  クルスの話ではこの街に連れてこられてすぐあの冒険者たちに買われ、そのあと一か月近くもずっと森にいたらしい。そのため、この街にはクルスの顔を知っている者はほとんど皆無と言っていいそうだ。

  しかし、それでもクルスを売った奴隷商人をはじめ何人かはクルスのことを覚えている可能性は除外できない。

 

  クルスがあの男たちの奴隷だとばれると、男たちの安否やら何やらいろいろと突っ込まれてしまう。優斗はそれを避けるためクルスに変装を促したのである。


  幸いにも魔族と人間は見た目的にはほとんど区別がつかないため、男の姿でも一目でクルスが魔族だとわかる者はほとんどいないはずだ。

  なので優斗としては簡単な変装でよかったのだが、クルスは消極的賛成で、そして一部の女性陣が積極的賛成でクルスが女装して潜入することを希望したため、クルスはこのような姿になったのである。


「でも目立ちすぎかもな。クルスの女装が似合いすぎて、ただでさえ怪しい俺たちがさらに怪しまれているような気がする」

「そっ、そうでしょうか」


  クルスが顔を赤くしながら照れる。

  すると男たちがそれに見とれ、彼女や妻と一緒にいる男たちはみんな注意されている。


  この街に男たちから奪った金を使って入った時から、優斗たちの一行は非常に注目されている。

  まずはクルスの美少女具合である。奴隷として男の姿でいるときでさえかわいかったのだ。それが普通の女性服を着るとなると、そのかわいさはもはや言うまでもない。街行く男性たちの目はまずクルスに向くだろう。

  それにユズとアシュリーだってそれに引けを取らない美少女だと言わざるを得ない。こんな美少女三人(一人は男だが)が一緒にいるのである。当然街で目を引くのは無理もない。


  そしてさらに彼らが目立つ要因となっているのが、仮面をかぶっている優斗の姿である。優斗は魔人であり、その容姿は人間と大差ない。外見的には変装しなくても大丈夫そうだが、それでも優斗は変装することにした。

 

  優斗はダンジョンマスターである。男たちを尋問した結果ダンジョンと言う存在を彼らは知らなかったようだが、それはあくまで彼らが知らなかっただけで、一般的とは言わないまでも一部では知られている可能性がある。

  それに万が一優斗がダンジョンマスターとして矢面に立たなくてはいけなくなったとき、優斗がこの街で情報収集などをしていたということを知られたくはない。

 

  本当はほかの三人の顔も念のため隠したかったのだが、全員が仮面をかぶっていたりしていたらそれこそ怪しくてしょうがない。

  また魔法使いである優斗が仮面をかぶっていても、魔法的に必要だとか言っていればあまり怪しまれることはないと聞いたため、今回は優斗だけが仮面をかぶることにしたのだ。


「一番怪しいのはやっぱ仮面やろ。それが目立つ原因やと思うで」

「しょうがないだろ。それに、仮面をつけていれば恨まれる可能性も減るしな」


  優斗は男である。優斗たち四人は男二人に女二人のそう珍しくないパーティー構成なのだが、傍目から見ると多分男一人と女三人のパーティーに見えてしまう。

  今は仮面をつけているため体格などから男じゃないかと思われている程度だが、これが男だと完全にばれると、傍から見れば完全にハーレムパーティー、しかもハーレム要因が全員美少女と言う、他の男たちから盛大に嫉妬を生むパーティー構成である。


  しかも今の優斗は『インフィニティ』で作ったイケメンキャラになっているため、その嫉妬はさらにすさまじいものになるだろう。

 

  知らないイケメン新人冒険者が美少女三人とパーティーを作っている。これは男たちから盛大な嫉妬を浴びるだろうし、優斗だって客観的にそれを見たら非常に嫉妬する。

  優斗はもともとイケメンではなかった。だからこそ、自分とそのパーティーを見た時の男たちの気持ちが痛いほどわかるのである。


「でもすごい目立ってるな」

「ああ。やっぱり、と言うべきだな。本当は目立たず静かにがよかったが、見た感じもうそれは無理そうだな。そうなると、気が進まないがやはりあのプランに変更だな」


  優斗たちはもともとこの街でそこまで名をあげるつもりはなく、あくまで目立たず静かに情報収集をしようとしていた。なので本来はあまり目立たぬ者、例えば平凡な容姿をした男四人組などがよかったのだが、今の状況ではそれをしようとしてもできなかった。


  ダンジョンで生まれるのはダンジョンモンスターだ。つまり人族や獣人族と変わりない様な容姿を持つ者は生み出せたとしても、種族自体が人族や獣人族であるものを生み出すことはできない。つまり、もしその人物の種族がわかるスキルや魔法があったとしたら、すぐにその正体が見敗れてしまう危険があるのだ。

  確かに優斗の連れてきた者たちは優斗を含めて目立つ容姿のものばかりだ。しかしまだルクセンブルクのことをよく知らない優斗は、種族がばれたらまずい者たちを連れてくることはできるだけ控えたかった。


  そこで唯一街を直接見て、また外の世界で生まれ優斗たちよりは常識などを知っているクルスと、自分の目で外の街を見ておきたかった優斗の二人以外は、種族的にばれても大丈夫な二人しか連れてこなかったのだ。


  もちろん優斗もできる限り目立ちたくはなかった。しかし優斗たち一行はもうすでにかなり目立ってしまった。ここまで目立ってしまうと、優斗たちを気に入らない者や美少女二人と美少女に見える美少年一人を手籠めにしたい者たちがいらぬちょっかいをかけてくることになる。

 

  優斗たちの力ならおそらくそれらには簡単に対処できる。しかし、そうやって対処していても同じような輩は次々と出てくるのだ。

  そしてそういう輩を默らせるのに一番手っ取り場合のは、実力や金ではなく地位や名声である。


  優斗もできれば自分たちをそこそこの冒険者、ランクで言うと青か赤くらいに留めておいて大きく目立たないようにしようと思っていたのだが、自分たちの今の目立ち具合から見るにもう十分過ぎるほど目立ってしまっている。ならばもういっそのこと銀や金くらいまで、場合によっては最高位である白金級にまで上げたほうが安全である。そう優斗は考え始めていた。


「まあどちらにせよやってみなきゃわからないか」


  この街にほとんどいなかったクルスには冒険者ギルドの場所がわからなかったため、街に入るときに門番から聞いた道順に従い、優斗たちは冒険者ギルドにたどり着いた。



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