竜の里 26
「うまくいってくれた。だが脱皮する前の体力と防御力から考えてもあれで死んだとは限らない。また距離をとってから魔法の準備をしなくては」
優斗は大急ぎで地竜王から一定の距離をとり、魔法やマジックアイテムを使い再度自身の強化を図る。特にポーションの類を飲んで残り少なくなっていた体力と魔力を回復させることは最優先であり、地竜王の様子を見ながら己の回復に時間を使っていた。
「……しかし内部からの攻撃は、やはり外部からの攻撃よりも効果的なようだな。もう一度同じ手は使えるだろうか?」
優斗はポーションを飲みながら先ほど地竜王に食らわせた一連の攻撃を思い出す。優斗が地竜王に飲み込ませたのはエリアスが作った『魔封じの球』と呼ばれる拳大で球状のマジックアイテムであり、地竜王が大きく口をかけて自分をかみ砕こうとした瞬間、かみ砕かれないよう離れると同時にそのマジックアイテムを地竜王の口、もっと言うなら地竜王の喉に向かって投げつけたのだ。
優斗が投げつけたマジックアイテムは超級以下の魔法を封じ込めておくことができるものであり、それを起動すると設定した時間が経過した瞬間に封じ込めておいた魔法が解き放たれると言う仕組みだ。
優斗はこの仕組みを利用して起動してから十秒後に魔法が解き放たれるよう設定し、地竜王の爪を躱した段階で手に握って、自分が近づくこと地竜王が大きく口を開けるよう誘導してから投げ込み、ちょうどそれが内部に入り切った段階で爆発するよう仕向けたのだ。
封じ込められていた魔法は〈連鎖する爆裂〉と言う魔法で、連続で爆裂していくと言うものだ。それを体内に入れられてしまった地竜王は、体の内部からあのような爆発が起こったのだ。
「念のためたくさんマジックアイテムを持っておいてよかった。人形も後一体は使えるしな」
優斗は魔神化が解除されないよう、己の体力が半分を超えない程度まで回復させる。そして魔力もある程度まで回復させたところで、現在自分の持っているマジックアイテムを確認してこれからの策を考える。
優斗は〈連鎖する爆裂〉を込めた球以外にもマジックアイテムを使い地竜王に損害与えている。地竜王が消滅させた優斗の姿をしていたものもマジックアイテムであり、隙を見てそれと入れ替わったのだ。
そのマジックアイテムは『ドッペルゲンガー人形』と呼ばれるアイテムで、これを使うことにより自分と姿かたちだけでなく、気配や魔力すらも同等であると他人が感じ取れる存在を作り出すことができる。実際の力は本人には大きく劣り戦ってしまえば偽物であるとすぐばれるのだが、それでもこうやって敵を惑わせることができるアイテムだ。
このアイテムを使うにはまず、人形に自分の血と魔力を少量でいいから注ぎ込んでおく必要がある。当然戦う前からこれを用意していた優斗は、地竜王が自分の回復に気を取られている隙にこの人形と入れ替わり、自分は魔法でできる限り気配を消しながら魔法の準備をしていたのだ。
この人形のすごいところは戦ったら弱い(その性能によっては使える力の限界が違うので、優斗レベルになればどんな性能のいい人形でも百パーセントはおろか五十パーセントの力も出せないのだが、例えば普通の金級冒険者クラスだと性能のいい人形ならほぼ百パーセントに近い力を引き出せる)せいで優斗レベルの存在が使えばすぐ偽物だとばれるが、それまでは本当に本人のようであり、また本人が命令した風に相手に見せることもできることだ。
その力により、地竜王は偽物が強力な魔法など使えるはずもないに何か強力な魔法を使っているように錯覚してしまったのだ。
地竜王も冷静な状態であったなら、小さくなっているとはいえ周囲に優斗の気配が二つあると把握することもできた。しかし自分の治療に時間を割いて優斗を見失っていたことや、優斗の発動するのに時間のかかる強力な魔法を食らうと自分でもただでは済まないと体でわからされていたことで、つい目の前の人形が本んものの優斗であると思い込んでしまい、別の場所で気配を隠していた優斗を見つけることができなかったのだ。
その結果優斗から神級魔法である〈雷神の鉄槌〉を、さらにスキルで最大限強化された状態でくらってしまったのだ。
優斗は自分が転移魔法と逃げ場を封じられてまんまとブレスを食らってしまったことの意趣返しも込めて、地竜王に対して転移阻害の魔法で妨害をし逃げられなくしたのだ。〈雷神の鉄槌〉は〈神滅の牢獄〉と違い威力が高い代わりに、魔法を当てるための難易度が少し高くなる。と言うより消滅の力を持つ球体で囲み、また牢獄と言うにふさわしく敵の転移魔法での脱獄すらも防いでいる〈神滅の牢獄〉に比べれば、単純に雷で生み出したハンマーを当てるほうが難しいに決まっている。
しかし〈雷神の鉄槌〉のほうが威力が高いうえに雷属性も持ち、さらに〈神滅の牢獄〉を使ったときとは違い魔神化もしているので、与えたダメージは間違いなくさっきよりも大きいかった。
「どうせまだやれるんだろうからな。戦力の把握と回復を終わったから、こっちもまた攻撃を始めるとするか」
優斗はさらに魔法で追撃を与える。さっきはこれを甘んじて食らってくれた地竜王だったが、今回はそう簡単に事は運ばない。地竜王は優斗が魔法で追加攻撃をして来るのに対抗し、自分の周囲にバリアを張りその身を守っていた。
「ちょっと待て!あのバリア硬すぎだろ!?」
優斗が超級魔法や最上級魔法を放っているにもかかわらず、そのバリアは一向に壊れる気配がしない。そしてそれなりに減らした地竜王の体力がものすごいスピードで回復していっているのを見た優斗は、一度魔法を止め様子を見ることにした。
なぜなら地竜王の体力は順調すぎるほど回復していき、反対にその魔力もまったく減らずこれまでの自然回復と同じ速度で回復していくのだ。
そのバリアが張られたときに地竜王の魔力が減ったと言うこともない。つまり今張られているバリアはスキルかマジックアイテムによるもの、おそらくはスキルによるものだと思われる。
本当にスキルによるものだとすれば、そのバリアの耐久力か持続時間が切れれば使えなくなる。耐久力であった場合はともかく持続時間であった場合は、むしろここで攻撃しないほうが得と言うものである。
優斗は地竜王の体力がものすごいスピードで、そして魔力が徐々に回復していくのを魔眼で確認しながら、さっき回復しきれなかった分の魔力をスキルやマジックアイテムを使い回復させ、戦闘開始と同じぐらい、要するにほぼ全快の状態まで回復させていった。