竜の里 25
「〈転移〉」
「なに?」
優斗が転移魔法を唱えたことが分かった地竜王は、その行き先が分かり一瞬困惑してしまう。
「よう」
「おもしろい!」
優斗が転移した先は地竜王の目の前である。これまでの戦闘スタイルから明らかに遠距離タイプであると地竜王もわかっていたのだが、それにもかかわらずなぜか自分の正面に転移してきた優斗に対し好戦的な笑みを浮かべる。
「いくぞ!」
地竜王が爪を優斗に向かって振るってくる。しかし優斗はそれを予期していたように軽やかに躱し、そこから地竜王との距離をさらに詰めてくる。
距離を詰めたことで、地竜王の顔のすぐ近くで優斗が来た。そこまで接近されると地竜王は己の牙でかみ砕くしか選択肢はなくなるので、何もしないわけにはいかないから当然自分の牙で優斗をかみ砕こうとする。
「きたっ!」
地竜王が優斗をかみ砕こうとする瞬間、優斗は翼を使い空中で大きく後退してその牙から間一髪逃れる。
『ゴックン』
何かを飲み込んだ音がする。その音の発生源は地竜王の喉であり、身に覚えのない物を飲み込んだ地竜王は、その原因とみられる優斗をにらみつける。
「何をした?」
「すぐにわかるさ」
そう言って優斗は後退しながら地竜王と距離をとっていく。遠距離から放たれる優斗の魔法が厄介なことはこれまでの戦いからわかっているので、当然地竜王はその距離を詰めるべく前進していく。
「くるぞぉ」
「何が来ると……」
『ボフッ!」
その瞬間、地竜王の体の内部が急に爆発する。しかもそれは一回で収まることがなく、何度も体内で爆発していた。
『ボフッ!ボフッ!』
地竜王を襲ったその爆発は五度ほど続き、その間地竜王はダメージに耐えるのが必至でまるで動くことができなかった。
「これは自己回復だけではどうにかならん。スキルを使わなければ」
爆発が収まったはいいが、それによって内部に与えられた損傷は無視することができないほど広がっている。地竜王は早速回復系のスキルを使うことで内部の損傷を急激に直していく。また地竜王はそのスキルにプラスして自身の回復魔法も合わせることで、さらに急速な回復を可能にした。
そしてものすごい速さでその損傷から回復した地竜王は、自分に爆発を与えたであろう優斗のことを見る。おそらく自分がさっき飲み込んだ何かが原因であろうことは地竜王も把握しており、自分の体が自然に内部から爆発することなどこれまでなかったしこれからもあり得ないと確信している地竜王には、犯人の心当たりは自分以外にこの空間にいる優斗しかありえなかった。
「我に何を!……くそっ!」
優斗が今から何らかの魔法を唱えようとしていることが地竜王にはわかる。内部で爆発が起こりダメージを負ったこと、そしてそれを治すためにスキルと魔法を使わざるを得なかったとはいえ、その間敵である優斗から目を離してしまったのは明らかな失態であった。
自分の失態を悟った地竜王は優斗を問いただすよりも、まずは目の前の危機に対処しようとした。
「〈踊り狂う岩弾たち《ダンシングロックバレッツ》〉」
地竜王が魔法を放つと、複数の岩弾が不規則な動きで優斗に向かってくる。以前優斗の魔法を阻止しようと思い岩を吐き出したときに、自分との直線上に防御壁を仕込まれたせいでその攻撃が無効化されたことを気にして、今度は直線ではなく様々な方向から攻撃をするよう選択する。
それぞれバラバラに行動しているがそのすべてが優斗に向かってくることは決定しており、様々な方向から、様々なタイミングで優斗に襲い掛かった。
「……」
優斗に岩弾たちが命中した。しかし地竜王が優斗だと思っていた存在は、岩弾たちを受けた瞬間に消滅してしまう。
「どうなって……!?まさか!」
地竜王は先ほど消えたはずの優斗の気配を捉える。彼が捉えた優斗の気配は自分の背中の真上であり、先ほどの気配よりは小さいながらも間違いなく優斗であることが分かった。
「属性付与竜殺しアンド魔法超強化!〈!雷神の鉄槌〉」
空に雷でできた巨大な男と、その男に見合った巨大なハンマーが現れる。誰が見ても強力すぎるそのエネルギー体は、地竜王の背中に向かってそのハンマーを思いっきり振り落とす。
「〈転移!《テレポーテーション》〉」
その巨体から普通に躱すのは間に合わないと判断した地竜王が、転移魔法で躱そうと試みる。しかし普段なら魔法を唱えた瞬間自分の行ったことのある場所や目に見えている場所に移動できるのだが、今回はなかなか転移することができなかった。
そして転移が発動しない間にハンマーが地竜王の背中に当たり、転移魔法が中断されたと同時に地竜王が大きなダメージを負った。