竜の里 24
「ほう。まだやれるようだな」
地竜王のブレスはものすごく強力だ。これまでこのブレスを受けた者のほとんどは一撃でやられてしまっている。またその一撃でやられた中でも九割以上の相手が形すら残さず消滅させられているほど圧倒的な威力である。
地竜王だけでなく竜王の放つブレスというのはそれくらいすごいものなのだが、優斗はそれを食らってもボロボロになりこそすれ消滅したり死んだりはしていなかった。
「えげつない威力だ。一発でHPの半分以上が吹き飛びやがった」
優斗はぼろぼろになりながらも問題なく立ち上がる。
「マジックアイテムは……完全に破壊されたものはないようだな」
優斗の装備のうちいくつかは損傷しているが、それでもそのすべてが完全に破壊されてはいない。一部が破壊された装備は完全に治るまで効果が一部しか働かない。例えばマントの半分が破壊されてなくなったとしたら、そのマントをつけることで得られる効果が半分になってしまうと言うことだ。
マジックアイテムなどは基本的にレアリティーが高いものほど壊れにくくなっており、その点ではUR以上しか装備していない優斗にとって、自分の装備が完全に破壊されることはほとんどないと言える。
そして優斗の身に着けている装備の大半には自己修復機能も付いているので、今一部が破壊されているものも時間をかければ勝手に修復されていく。
アイテム破壊に特化した魔法やスキルを使う相手ならURすらも破壊できる可能性はある(それでもIRを完全に破壊するどころか、わずかでも傷をつけることすらものすごく難易度が高い)が、幸いにも地竜王のブレスは威力が高くても、マジックアイテムを破壊するために特別な効果があるわけではなかった。
今回アイテムたちに与えられた損傷は軽微なものなので、それらはほぼ間違いなく戦闘中にすべて修復するだろうと優斗は確信した。
「我のブレスを食らってもまた立ち上がるとはさすが……、ん?ちょっと待て、おぬしは本当にさっきまでと同一人物か?」
「ああ同一人物だ。そもそもお前が言ったんじゃないか。自分が許可しなければ他の生物が入ってくることはできないと」
「そうだが……」
地竜王がよく見てみると、優斗の姿が先ほどまでとは異なっていることに気づく。先ほどまでと比べて優斗の身長が一メートルほど大きくなっており、またそれと比例してか筋肉も大きくなり、さらに角や翼までも生えてきている。
先ほどまではほとんど人間と変わらない容姿であったはずだが、今では明らかに人間でないことがまる分かりの姿であった。
「なるほど……お前はこの姿に驚いているのか」
優斗には当然自分がこんな姿になっている心当たりがあるし、このタイミングでこの姿になったことは予想外でもなんでもなく、むしろなるだろうなと思ってたらやっぱりなったと言う感じだ。
「ならばその姿は何なのだ!?」
「さあどうだろうな。ただ一つ言えることがあるとするならば、さっきまでとの俺と今の俺が同一人物であると言うことぐらいだ!」
優斗の姿が変わっている原因は、優斗が500レベルを超えたときに得ることができたスキルによるものだ。250レベルを超えた後にスキルを入手することは不可能なのだが、500レベルになった時のみ新たなスキルがスキルが得られるようになっていたのだ。
500レベルになった時に優斗が得たスキルの名前は『魔神化』と言うスキルであり、このスキルが発動することによって起こる効果は三つある。
まずは優斗の姿が今のように変化することだが、これに関してはさして影響がない。重要なのはHPとMP以外のステータスがすべて1.5倍になる効果と、魔神化することによって使えるスキルが増えることである。例えば現在の優斗は翼が生えているので、〈飛行〉のような飛行魔法を使うのではなく翼を使って空を飛ぶことができるようになる。
つまり魔神化することによって、ステータスの向上と使えるスキルが少しだけ増えると言う恩恵にあずかれるのだ。
魔神化するための条件はたった一つ、戦闘中に自分の残体力が半分未満になった時、任意で魔神化することができるようになる。魔神化が解けるのは己の体力が半分以上になった時であり、その時は強制的に魔神の姿から魔人の姿に戻されてしまう。
すなわち戦闘中であっても体力が半分を超えると魔神化が解けてしまうので、もし魔人化したまま戦いたいのなら回復させる体力には気を付ける必要がある。
ちなみに一度魔神化が解けてもまたHPを半分未満にすれば魔神に戻れるので、優斗も最初使いだした頃はよく魔神と魔人を行き来していた。
「なるほど。我に詳しく教える気はないか」
「なんのことだか」
別に魔神化のことを教えたところで優斗に不利になるような要素はないに等しいのだが、自分の姿に地竜王が困惑している様子が見て取れたので、そのままにしておくことで地竜王にできるだけ迷いを与えようと魔人化のことは話さないことにする。
「それじゃあ第二ラウンド……、いや第三ラウンドといこうじゃないか!?」
魔神化した影響か、先ほどまでよりも優斗のテンションが上がっており、またその表情も豊かになっていた。




