竜の里 20
「〈飛行〉」
「ぬ?いきなり逃げるのか」
優斗は戦闘が始まると同時に、飛行魔法によって後方に飛び地竜王との距離を広げる。優斗は魔法を中心にした戦いのため、当然その戦闘スタイルは近接タイプではなく遠距離タイプだ。また両者の間には天と地ほどの体格差や体重差があるので、近接戦闘になったら優斗が負ける可能性が高いことは容易に想像できる。
幸いにもこの空間は地竜王が暴れても大丈夫なようにするためかけっこうな広さを誇っていたので、優斗は自分の得意な距離まで離れることができた。
「まずは十分な距離を確保。そして戦闘のための準備を完全に終わらせようか」
優斗は距離が十分に離れたことを確認し、マジックアイテムの装備や強化魔法などを使った自身の強化を行い、現在できる範囲での戦う準備をすべて終えた。
「十分な準備ができたようだな」
「なんだ?俺の準備ができるまで待っていてくれたのか?ずいぶんお優しいことだな」
「こちらはもともと準備万端の状態で待っていたのだ。お主にもこれくらいの時間は与えないと不公平というものであろう」
「それはありがたい。ならばもう少しだけ待ってもらえるか?」
地竜王はゆっくりと首を横に振る。
「いやこれ以上は待てんな。これ以上待つと、お主から強力な魔法が飛んできそうだ」
「それは残念だ。だったらこっちも本格的にやりあうとするか!」
地竜王の言う通り待ってくれている間に神級の強力な魔法を準備しようと思っていた優斗は、それができなくて内心で舌打ちを打つもすぐに切り替えて別の魔法を放つ。
「まずは小手調べだ。〈龍雷撃〉」
優斗が持っている杖から、雷でできた龍が地竜王めがけて一直線に向かっていく。
「地竜王である我に対し竜を模した魔法とは!なかなか面白い志向ではないか!!」
地竜王はそう言って笑いながら、自分に向かってきた雷に対し己の右前足の爪で応戦する。地竜王はほとんどダメージを負った様子もなく雷を打ち滅ぼした。
「……魔法の威力が低かったのか……、それとも雷属性がダメだったのか……。今度は別の属性の魔法で試してみるべきだな」
「何やらぶつぶつ言っておるようだが、この距離では全く聞こえんぞ!聞こえるように近寄らねばならんではないか!!」
地竜王はそう言って空を飛んで優斗に向かってくる。距離はとったまま遠距離戦を続けたい優斗は、当然魔法を放ち地竜王を自分に近づけないようにしようとする。
「あの見た目と重量で普通に飛んでくるのかよ!〈二頭の火竜〉」
二頭の火でできた竜が地竜王に向かって飛んでくる。
「また潰されたいらしいな!」
地竜王は今度は両前足の爪で応戦しようとする。
「そいつらはさっきのとは別もんだぞ!」
地竜王にまっすぐ向かってきていたはずの火竜は、迎撃するために繰り出された爪が当たる前に方向転換することで回避行動を行い、地竜王の体に巻き付くようにしてダメージを与えていく。
「そいつらは俺の意思で動く魔法だ。先ほどのようにはいかねえぞ」
「この程度の火で我をどうにかできると思ったか!?」
地竜王は火竜たちに絡まれているにもかかわらずそのまま優斗のもとに飛んで来ようとする。どうやら彼の鱗や皮膚の防御力はかなり高いらしく、ほとんどダメージを負っていないかのようであった。
「かなり防御が硬いな。ならば!」
「ならばどうするのだ?」
優斗との距離を詰めた地竜王が、優斗に向けて己の爪を振るう。
「こうするんだ」
優斗はその爪を紙一重でかわすことに成功。そしてその巨大な手に触れながら、超級魔法〈絶対零度〉を放つ。
「ガッ……」
地竜王はほぼ一瞬のうちに凍り付いてしまう……のだが、ちょうど十秒経ったところで地竜王を覆っていた氷にヒビが入り、そこからさらに十秒しないうちに地竜王は凍り付いた状態から復活した。
「フハハハッ!ここまで強い相手は二千年ぶりになるぞ!なかなかに強力な氷結魔法だった。竜の里にいるリザードマンたちなら即死、竜人達でも少なくないダメージを負うであろう。いや、その前の雷魔法と火魔法も素晴らしい威力であった。
防御力に優れた種族である地竜、その中でもさらに優れた地竜王である我でなければ、なかなかのダメージを負っていた魔法であった。褒めて遣わすぞ!!」
地竜王は魔法に優れた優斗の超級魔法をまともに受けたにもかかわらず、その表情はまだまだ余裕そうでむしろ強敵との戦いを楽しんでいるようであった。
「ん?どこに行った?」
地竜王は優斗が自分の目の前にいないことに気づく。凍っていた間は優斗がどこにいるか知覚することはできなかったので、てっきり優斗が近くにいると思って話していたのだ。
優斗が近くにいないことが分かった地竜王はドラゴンの持つ優れた視覚や聴力などを使い、優斗がどこに潜んでいるか探り出した。
「(どうやらまだばれていないようだな)」
優斗は地竜王が〈絶対零度〉でやられるとは欠片も思っていなかった。これまで〈龍雷撃〉や〈二頭の火竜〉を食らっても平気そうな顔をしていたのだ。いくら自分の超級魔法をまともに食らったとはいえ、さすがにこれで決着がつくと思えるほど楽天的ではなかった。
優斗は現在地竜王から距離をとっているうえ、魔法によって不可知化状態になり地竜王に自分の存在を知覚できないようにしている。
不可知化を使えば地竜王が優斗を知覚することができなくなるのだとすれば、これからの戦いが非常に有利に進む。
もともと最初から不可知化を使おうと思っていた優斗は、地竜王が見ている前でではなく凍っている隙に不可知化を使えばより効果が出ると思い、このタイミングで不可知化を使い自分の身を隠した。また不可知化状態でも魔法を使うことができるので、地竜王が氷結状態から回復したのを確認した優斗は強力な魔法の準備を始めた。