竜の里 17
『……なんだか変な感じのする洞窟だな。竜の里に入ってからも感じたことだが、この里は北の森の中でも特別魔力が濃い感じがする。それがこの洞窟に入ってから、一段と濃くなった感じだ』
『この里、そしてこの洞窟は北の森の中でも特別な場所である可能性は高いですね。もしかしたらこの洞窟の奥に、北の森の魔力が他の場所と比べて濃い原因があるのかもしれませんが……、だとしたらそんな場所に我々を案内するのはおかしな話ですね』
洞窟内の魔力は非常に濃い。優斗たちは困惑しながらも、それとは反対に迷わず洞窟の奥に入っていく老婆の後ろをついていく。
その後も警戒を強めつつ念話によって情報交換や話し合いなどをしながら老婆についていくと、これまでとは違い開けた場所についた。
「この先に竜の里のトップがおる。念のため言っておくが、くれぐれも失礼のないように頼むぞ」
そう言って老婆は優斗たちを置いて洞窟を出ていこうとする。
「あなたは一緒に来られないのか?」
「先代里長であったとはいえ、すでに里長ではない儂はこの先に進む権利がない。この先も行きと同じように一本道であるから、儂の案内がなくともトップのもとまでたどり着けるはずじゃ。
里長でなくなった儂が入ることを許されるのはここまでじゃからのぉ。帰りも自分たちで帰ってきてほしいのじゃ」
「ここで待っていてはくれないのか?」
「すまんのぉ。儂と里長以外の住人はここまで来ることも許されておらず、そもそも洞窟に入ることすらしてはならんのじゃ。儂は元里長ということ、そして現里長からの許可があったということでここまで入ることができるのじゃが、本当は先代里長の儂すらもここに入ることは褒められたことではないのじゃ。
そのためあまり長い時間ここにおるのはよくないから、お主らを案内するという仕事を終えた儂は早々にこの洞窟から出ていく必要があるのじゃよ」
老婆の話を聞いて優斗は納得できない点がいくつか出てくる。
「竜の里の住民にそのようなルールが敷かれているのに、外部から来た俺たちはこの洞窟に入りさらに奥まで進む権利を持つのか?」
「里長が許可を出したからじゃ。それに決まりでは外部の者を洞窟に入れてはいけないというものはないのじゃ。つまり外部の者のためこの里のルールが適用されていないお主らは、儂らが禁じられているものにも入って構わんということじゃよ」
「なんだか屁理屈な気もするが……、要するに里長が入っていいと許可したからオッケーということか?」
「まあそういうことじゃ。外から来たお主らには納得できんかもしれんが、この里ではそういうものだと考えてもらえれば十分じゃ」
優斗はまだ納得できていない点もあったが、この里ではそういう決まりなのだと無理やり自分に言い聞かせた。
「納得はできないが理解した。つまり俺たちは自分たちだけでこの先を進み族長に会えばいい、ということだな?」
「その通りじゃ。これで儂の役目は終了じゃし、ババアはババアらしく部屋でのんびり過ごすとするかの」
そう言って老婆は来た道を戻り外に出ていく。優斗たちはその背中を見送り、その背が見えなくなったところで会議を始める。
「どうする?」
「どうする?っと言われても……、こうなったらもう進むしかないのではないか?罠が待ち受けている可能性があるが、それでも進み食い破るほか道はないだろう」
クレアが自信満々に断言する。
「そうでござるなぁ。『虎穴に入らずんば虎子を得ず』ともいうでござるし」
「優斗様もわかっておいでのはずです。わたくしたちはもうこの先を進むしかないと」
「……そうだな。だが念のためここでもう一度緊急時の対応を確認しておく。それと万が一のことが起こった時のため、装備もコンディションも含めていつでも最高の状態で戦えるようにしておくことぞ」
「「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」」
準備を終えた優斗たちは、老婆の指示通り洞窟のさらに奥へと進んでいく。そして十分ほどするとまた開けた場所が見えたので、ここに里長がいる可能性が高いと判断した優斗たちは気合いを入れなおしてその場所に入っていった。