竜の里 14
「……しかしおかしいな」
倒れたダンジョンモンスターたちの回復を行いそれを一段落させた優斗は、竜の里の入り口を眺めながら不思議そうな顔をする。
「どうしました優斗様?」
「竜の里から追加で竜人もリザードマンも出てこないんだよ。里の規模や情報収集の結果からして、竜の里に住んでいるのはここにいる奴らだけのはずがない。
あまり見分けのつかないリザードマンたちはともかく、ここには俺たちが最初に見た竜人がいない。それにダンジョンから見ている間に見た竜人たちもいないし、それに見た限りだけでもリザードマンはこの何十倍以上は生息していた」
「確かに変ですね。彼らは外に出ている個体がたくさんいるはずですが、それでもさすがに留守番が彼らだけということはありえないでしょう。情報で見た限りでは、最低でもこの何倍もの数が里に残り警戒しているはずです」
戦闘はそこそこ長く続いていたにもかかわらず、いまだ竜の里からは誰も出てこない。優斗的にはダンジョンモンスターと戦っている最中に援軍として、もしくは単純に様子見や戦闘していた者たちよりもっと偉い立場の竜人が来るパターンと、戦闘音が止んだこと、そして戦闘が終わったにもかかわらず戻ってこない同胞たちを心配して、優斗たちが負傷したダンジョンモンスターを回復させている間に様子を見に来るパターンのどちらかがあると考えて待っていたのだが、どうやらどちらのパターンでもなかったようであった。
「まさか結界が原因か?」
「結界が竜の里に入ってくる音などの外部情報を遮断しているということでしょうか?」
「そうだが……、さすがにそれはないよな。内部情報を遮断して外に情報を与えないようにするならまだしも、外部情報を遮断して中から外が見れなくなるようにするメリットは薄い。竜の里は竜人もリザードマンも積極的に外に出しているようだし、外部と隔離して閉じ込めるようなこともしていないだろうしな」
優斗は一応結界を解析してみるが、どう見てもやはりただの防御結界である。
「何か気持ち悪いな。念のため魔眼も使っておくか」
優斗がそう言うと、彼の両眼からこれまで浮かび上がっていなかった紋章が浮かび上がる。これは優斗が魔眼を本格的に使った証であり、優斗はその眼を使いもう一度結界を見た。
「うーん、やはり変化はないようだな」
優斗の魔眼は看破することに優れている魔眼だ。例えば幻術や不可視化、それに相手の体力や魔力などを見ることができる眼で、戦闘において大いに使える能力である。
普段は幻術と不可視化、それと不可視化の上位の不可知化を見破れるようになっており、今のように紋章を浮かび上がらせることで相手のステータスなども見破ることができるようになる。この眼があることで優斗は普段幻術や不可視化などによる奇襲を受けることがなくなり、さらに戦闘態勢に入ればより詳しい情報を得て敵との戦闘で有利に立ち回ることができるようになる。
実際魔眼の能力は魔法で代用することができるものばかりであり、魔眼をとることをもったいないと思う者(一部ではむしろ必要もないのに魔眼をとっている者もいる)が何人もいたのだが、優斗としては「魔眼ってかっこいい!」という中二病的な意味も若干ながらあれど、それ以外の理由が大きくて魔眼をとったのだ。
なぜなら魔眼を持っていることによって、その場その場で魔法で対策をするよりも一ターン無駄にしないで済むからだ。
もちろん魔法で対策するほうがコスト的には得だし、その分ほかの魔法やスキルを覚えることにリソースを割ける。それに例えば敵が幻術や不可視化など魔眼の能力が役に立つような攻撃をしてこなかった場合、魔眼の能力を十全に使うことができないので結果コストパフォーマンスが悪く終わってしまう。
しかしそれらのデメリットを考慮したとしても、いざその攻撃が来た時に魔法で対策する時間を節約できるのなら、コストパフォーマンス的にそれほど悪くないと考えたのだ。
この判断は優斗の慎重さ性格を反映しているともいえる。魔眼を持つことによって、優斗は自分をより対応力の高いキャラクターに仕上げていったのだから。
「魔眼で見ても変化はございませんか?」
「ああなかったよ。魔眼ですら見破れなかった可能性はあるけど、そんなことばっかり考えていたらきりがない。
とりあえず結界を破壊して竜の里に入るとしよう。この結界は呼び鈴代わりだ。俺たちがこの里に来たことはすでに知らせてあるからな。友好的な関係を結ぶことを完全に諦めたわけではないが、さすがにここまでの歓迎をされて黙っておくわけにもいかない。それにもしかしたらこの竜人たちが負けるはずないと思って、もうこちらのことには関心をなくしているから出てきていない可能性もあるからな。呼び鈴がないと対応できない可能性があるだろ?」
優斗は結界を破壊(結構簡単にできた)し、まずは魔法で召喚したモンスター(カナリア代わり)、次にダンジョンモンスターの順番で竜の里に入る。
優斗だって治療が終わってからもさすがに誰か来るだろうと思ってもう一度待ってみたのだが、その後も一向に誰かが現れる様子はなかった。
業を煮やした優斗はもう自分から動くしか竜の里に入ることはできないと思い、念のため先行させた召喚モンスターとダンジョンモンスターが無事なことを確認し、NPC三人と一緒に竜の里に足を踏み入れた。