竜の里 13
「戦いを終えたのは俺だけじゃなかったようだな」
それぞれで行われていた戦いはすでに全部終わっていた。竜の里側で立っているのは戦闘に参加したリザードマンの半分と竜人全員であり、優斗たちの側で立っているのは優斗とNPCたちの四人だけであった。
「で?部下たちに戦わせた後はお前たち四人の番ということか?」
「そうなるな。幸いなことに誰も殺されてはいないようだから、回復魔法なりポーションなりを使えば動けるようになるだろう。
感謝するぞ。あいつらも強くなったせいで自分たちよりも格上の敵と本気で戦う機会が減っていたからな。お前たちのおかげでいい経験になっただろう」
優斗とNPCたちは戦闘に参加せず、ダンジョンモンスターたちが戦うのを後方から見ていた。さすがに殺されそうになったら助けるくらいはしようと思っていたのだが、竜人が手加減してくれたのかダンジョンモンスターたちの生命力が強いのか、幸いなことに殺された者は一人もいなかった。
優斗の狙いはダンジョンモンスターたちに経験を積ませることと、口には出さないが彼らを使い竜人たちの戦闘スタイルや能力、そしてその強さなどを図ることであった。
両者の戦闘を見た結果想定通り自分たちなら苦にしないほど力の差がある相手だとわかり、今では余裕の表情で竜人たちを見ていた。
「どうやら今残っているお前たちは、俺たちが戦ったやつらよりも数段強いみてえだな」
「あいつらに聞いたのか?」
「そうだ!だから戦いながら楽しみにしてたんだよ。なかなか骨のあったあいつらが、迷いなく自分たちよりも強いと断言するお前たちになぁ!!」
竜人とリザードマンは一斉に飛び出してくる。どちらも戦闘の疲れがあるのか先ほどまでよりは少し遅いスピードであったが、それでも竜人のほうは、全員が相変わらず並の使い手では目で追うこともできないほどのスピードを誇っていた。
「もうお前たちの力の把握も役目も終わった。千代!」
「わかってるでござる。居合三式……〈竜閃華!〉」
千代が技名を叫んだのとほぼ同時に、すべてのリザードマン立っていたすべてのリザードマンが地に伏せる。
また竜人たちも倒れてこそいないが、皆少ないダメージを負っていた。
「安心するでござる。峰打ちじゃ」
倒されたリザードマンたちは気絶こそしているが、全員息をしているので生きていることには間違いなかった。
「てめえ……今何しやがった」
「ただの居合切りでござるよ。しかしお主ら竜人たち相手では、やはり峰打ちでは倒しきれんかったかでござるか」
千代は刀を抜き竜人たちに向かって構える。
「拙者も彼らのように存分に戦いたいところではあるが、残念ながら拙者たちの実力差、それに優斗殿がもうこの戦闘を終わりにしたがっている現状では、もうお主らには何もさせず終わらせることになるでござるよ」
「やれるもんならやってみやがれ!」
竜人たちも先ほどの技を見てしまっては、自分たちが勝てるとはさすがに思っていない。竜人たちには先ほどの技がまるで見えなかったのだ。もしもう一度あの技をされたら、それも今度は峰打ちではなく刃のほうでやられたらと思うと、それを食らって自分たちが立っていられるイメージは湧かない。
そもそも竜人たちはダンジョンモンスターたちとそこそこ長い時間戦闘していたのだ。当然魔力や体力、気力なども削がれていくし、場合によってはそこそこ苦戦した戦いもあった。
つまり竜人たちはコンディションがあまり良くない状態で格上相手、それも先ほどまでの戦闘で自分たちの手の内をある程度知っている相手と戦わなくてはならないのだ。
当然竜人たちは千代の手の内は知らないし、そもそも知っていたとしてそれに対応できるかも疑問だ。
この戦いで千代が負ける要素はもちろん苦戦する要素もまったくなく、戦闘に参加していた竜人たちは千代によって全員倒されてしまった。