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竜の里 12

「戦闘は避けられないか……」


  優斗はやる気満々な両陣営を見て、もはや目の前の竜人たちとの戦闘を避けることはできないと悟る。ダンジョンモンスターたちは優斗が命令すれば、納得しようがしなかろうが命令を忠実に守り矛を収めるだろうが、竜の里に所属している竜人とリザードマンは優斗が何を言おうがそれによって矛を収める義務はない。


  優斗も自殺志願者ではないので、当然攻撃されれば防御や回避、そして反撃を食らわせるつもりだ。つまり相手が攻撃してくる以上必然的に戦わざるをえないので、それに対応するため優斗も戦う準備をせねばならなかった。


「まずはこっちから行くぞぉ!!」


  おそらく今いる竜人たちのリーダーだと思われる、先ほどまで優斗たちと話をしていた一際体の大きな竜人が、その肉体からは考えられないようなスピードで接近してくる。


『ドンッ』


  すごい勢いで放たれた竜人の放った拳は、彼と似たような肉体を持つ一人の鬼人にガードされていた。


「へっ!大将は俺様が守らせてもらうぜ」


  彼はダンジョンでトップクラスの実力を誇る鬼人であり、ダンジョンモンスターの中では五本の指に入ってくるような力を持った存在である。


「やるじゃねえか。まさか生身で俺の拳を受け止めるとはな。そこにいるリザードマンたちだったら、死にはしないまでも間違いなく吹っ飛ばされている一撃のはずなんだがな」


  自分の拳を生身で受け止めた目の前の鬼人に対し、竜人は素直に感心した態度をとる。


「俺様をなめるなよ」


  鬼人はどこからともなく巨大な斧を取り出し、それを竜人に向けて思いっきり振るう。


「おもしれえ。〈崩拳ほうけん!〉」


  竜人は自分に向かってくるその巨大な斧に対し、真っ向から思いっきり殴りつける。竜人に殴りつけられた斧は、拳の勢いに負けてそれを手に持っている鬼人ごと一メートル以上後方に吹っ飛んだ。


「敵ながらいい一撃だったぜ。だがまだまだ甘かったようだな。俺とやるには百年は早かったみたいだぜ」

「ふざけるな!俺様はまだスキルを使っていねえ!俺様の真骨頂はここからだ!!」

「ほう。それは楽しみだ。しかし残念だったな。崩拳を使った俺の一撃を受けたんだ。その斧はもう使い物になんねえよ」


  竜人の拳を受けたその斧はすでに刃の部分が砕けており、もはや斧としてはまったく機能しない状態であった。


「そんな……これはミア様の弟子が、外の世界では希少なミスリルをふんだんに使って作ったVRベリーレアの斧だぞ。いくらスキルで強化していなかったとはいえ、まさか一撃、それもスキルを使っていたとはいえ生身の拳の一撃で破壊されるなんて……」


  鬼人は自分の斧が壊れたことに対して、ひどく驚き傷心する。ダンジョンで採掘されたミスリルから作られたその斧は、ブルムンド王国などでは高位貴族の家宝になっていてもおかしくないようなほどの力を持っている武器であった。


「そう落ち込むこともないだろ?なかなか硬い斧だったぜ。もしてめえがスキルで強化していたら、さすがに一撃では壊れなかったかもな」

「〈空気の大砲(エアキャノン)〉」


  竜人の体に魔法によるすさまじい一撃が繰り出される。その衝撃により、竜人の体は鬼人から少し離れたところまで飛ばされてしまった。


「最大限強化した空気の大砲(エアキャノン)でもその程度のダメージですか。自分もまだまだ修行が足りないようですね」


  先ほどまでは出していなかった漆黒の翼を広げた男が、自分の魔法をもろに食らった竜人を見る。残念なことに竜人はまだまだ戦えそうであり、ダメージを負ったのはわかったがまったく深刻そうではなかった


「おいアザゼル!何俺様の戦いに横やり入れてんだ!!」


  鬼人が魔法を繰り出した男に怒鳴る。アザゼルと呼ばれたその男は堕天使であり、彼も鬼人と同じくダンジョンモンスターの中で五本の指に入るほどの強者だ。


「助けてあげたのが分からないのですか?自分が魔法を放たなければシュテン、あなたはあの竜人にやられていたんですよ」

「うるせえ!俺様はまだ戦えたんだよ!!」

「一撃で斧を壊された分際でよく言いますね。その図々しさはある意味尊敬に値します」

「なんだと!?」


  二人が言い争いをしている間にも、竜人とリザードマンが優斗たちに襲い掛かっている。


「あなたとこんなことをしている場合ではありません。優斗様からあなた用の新しい斧を持っていくよう頼まれたのです。今度は壊さないようにしてくださいよ」


  ベリアルはそう言って先ほどのものよりも一段レアリティーの高い、SRスーパーレアの斧をシュテンに差し出す。


「これがSPスーパーレアの斧……」


  シュテンは今まで自分が持ったことのないほどの力を持つ武器を持ったことで、心がトリップするような感覚を味わう。

  今まではまだ早いと言われ持つことを許されなかった力を持つレアリティーの斧、それを持つことが許された、それもその斧は壊されたものと同じサイズであることがわかり、シュテンは優斗への忠誠と感謝をさらに強くした。


「いい斧だな。それならさっきと違い簡単には壊れなさそうだな」


  アザゼルによって飛ばされた竜人が、待ってましたとばかりに声をかける。本当はもっと早く反撃に出られたのだが、シュテンとアザゼルの準備が整うまで待っていたのだ。


「認めるよ。敵の強さも確かにあったが、それ以上にさっきの斧は俺様の未熟さによって壊れちまった。だがな、俺様だってこれほどの武器を任されている以上、そう何度も自分の未熟さで武器に迷惑をかけるわけにはいかねえんだよ!!」

「よく言いました。それにその武器は優斗様の指示を受け、あのミア様があなたのために作ったものだと伺っております。せいぜい無駄にしないことですね」

「なに!あのミア様がか!?」


  彼らにとっては、ダンジョンの鍛冶師として他者の追随を許さない最高峰たるミアの製作した武器を使えるということが、それだけで非常に名誉なことなのだ。


「そういうことです。その武器に恥じないようせいぜい頑張りましょう」

「当然だ!ってちょっと待て、頑張りましょうというのはどういうことだ!?」

「自分も目の前の竜人と戦うと言っているのです。彼はあなた一人では荷が重すぎます」

「俺は構わないぜ。一対一だろうが二対一だろうがな。ただそろそろ我慢の限界だ。どっちでも構わないが、攻撃は始めさせてもらうぜ」


  そう言って竜人は、先ほどとほぼ同じ速度でシュテンのもとに向かう。シュテンはそれに反応し、もらったばかりの斧で応戦する。


「おや?これは彼女の魔法ですか。では自分も同じようにシュテンをサポートしますか」


  アザゼルは巨大な斧を使い竜人とやりあっているシュテンに対し強化魔法を使う。アザゼル、そしてシュテンに飛んできたのもまた優斗の連れてきたダンジョンモンスターの放った強化魔法であり、味方のサポートをする魔法に特化した魔法使いによる強化魔法により、アザゼルとシュテン、そしてそのほかの者たちも一時的な能力が強化された。


「こんなもんいらねえっつうのによ!」


  シュテンは文句を言いながらも、強化魔法の効果により先ほどまでよりも見違えて動きがよくなっている。


「やるじゃねえか!ならもっとペースアップしてもかまわねえな!?」


  竜人はこれまでよりもさらに早く、そしてさらに強く攻撃を繰り出す。強化されているとはいえシュテンは押されてきており、このままいくと一分と持たずに押し切られそうであった。


「世話が焼けますね。〈空気の弾丸(エアバレット)〉」


  アザゼルが隙を見て竜人に空気の弾丸を複数飛ばす。それがすべて竜人の体に命中するのだが、竜人はそれをほとんど意に返さず、コンマ一秒程度しか足止めになっていなかった。


「この役立たずが!」

「うるさいですね!ならこれでどうですか!!」


  そう言ってアザゼルは再度〈空気の大砲(エアキャノン)〉」を放つ。


「〈崩拳!〉」


  竜人にまっすぐ向かっていった巨大な空気の塊だが、スキルを乗せたその拳によって簡単に破壊されてしまう。


「うおぉぉぉー!これならどうだー!!」


  シュテンが不意を突くように竜人に向かい斧を振るう。彼も本来ならこのような手は使わず正面から正々堂々攻撃したいのだが、敵が自分よりも上回っている以上、たとえ嫌の手段でも勝つためには使う必要があることを理解していた。


「今度は壊れねえといいな!〈崩拳〉」


  竜人はシュテンの不意打ちも読んでいたかのようなスピードで、斧に向かいスキルを乗せたその拳を突き出す。しかし今度の結果は先ほどとは違い、斧が壊れることもシュテンが後ろに下がってしまうこともなかった。


「今回は大丈夫そうだな!」

「当然だ!!さっきとは違いちゃんとスキルも使って斧を振るったんだ。まあショックなのはそれでまるでダメージを与えられていないことなんだが……」

「こちらも〈崩拳〉を使わなければ多少のダメージ、おそらくあの魔法を受けた時と同じくらいのダメージは負っていたさ」


  苦笑しているシュテンとは反対に、竜人は余裕かつ楽しそうに笑う。


「あの魔法と同じぐらい……か」

「まああれは不意打ちで完全に食らったからな」

「つまり自分の空気の大砲(エアキャノン)でもうまくいってあの程度か……」


  二人は内心ものすごく焦っていた。今は強化魔法を受けていることや数的優位なこともあって攻撃を与えることができているが、それでも強化魔法の効果時間が切れてしまったり、何かミスをしてしまい竜人の拳を受けた場合には、おそらくまともに戦うことができなくなることが明白であった。


  またこれまでの戦闘で受けたダメージは向こうのほうが多くても、疲労は間違いなくシュテンのほうがたまっていた。竜人の防御力や体力から考えて長引かせても自分たちの方が不利になるだけであり、逆に短期決戦で決着をつけようとしても、竜人を倒す決め手になるほどの攻撃力を持った技を二人とも持ち合わせてはいなかった。


「……上には上がいるもんだな。あの方たち以外で自分たちがかなわない相手がいるとは……」

「ほう。お前たちよりも上がいるのか。それならばぜひ戦ってみたいものだ」


  竜人も二人より自分の方が強いことは確信していたが、それでも二人は竜人以外にしては、少なくとも同じ里にいるリザードマンたちと比べるとかなりの使い手であることは認めていた。


「それはあなたも会っている人物だ。あなたが馬鹿にした方を筆頭にして何人かいらっしゃる」

「あいつがそれほど強いのか?俺にはそうは見えなかったが……」

「あの方は普段自分の実力を隠しておられるからな。それに普段から訓練も行う勤勉な方であり、また謙虚な方でもあるから、あなた如きの挑発にはお乗りになられないのだ」

「それはおもしろい。ならばお前たち二人を倒したら、思う存分手合わせいただくとしよう」


  竜人は自分の認めた者たちが強者と仰ぐ優斗たちと戦うことを想像して、非常に好戦的な笑みを浮かべた。


「それは無理ですね。二人がかりですらあなたに勝てる見込みの薄い我々が言うのは何ですが、あなた如きではなす術もなく負けてしまいますよ」

「余計面白いじゃないか!すぐに戦いたくなったぞ」

「それは俺様達に勝ってから言いやがれ!」


  シュテンがまた斧を振り回し竜人に向かっていく。それを合図にして戦い続けた三人は、決め手のないシュテンとアザゼルの二人が徐々に押されて疲弊していき、最終的に二人は竜人の前に膝をついてしまった。


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