竜の里 11
「お前たちは何者だぁ?もしかして……、俺たちと戦でもしに来やがったのか!?」
現れた竜人たち、その中でも最も体が大きく、そして膨れ上がった筋肉を持つ人間でいうところの二十代くらいに見える男が、嬉しそうな顔をして優斗たちに問いかけてくる。
「別に戦いをしに来たのではない。そこのリザードマンたちにも行ったが、俺たちはこの森でお前たちのように共同体を作り暮らしている者たちだ。ここには戦をしに来たのではなく、同じ森に住む者同士ということで友好を結びに来た」
「俺たち竜人と友好だと!?」
「正確には竜の里とだがな」
男は先ほどまでの上機嫌な態度から一変、彼と一緒にいるほかの竜人も含めて、その顔がみるみる不機嫌なものに変わっていく。
「俺たちと友好を結ぶだと!?寝言は寝てから言え!!」
「寝言?俺たちは同じ森にいるこの里と友好を結びに来たんだ。これに何かおかしな点があるか?」
「ありまくりだ!!お前たち下等種族が、竜人である俺たちと友好を結ぶなど片腹痛い。見たところリザードマンたちよりはできるようだが、それでも俺たち竜人より優れた種族など存在しないのだ!」
優斗は一瞬何を言われているかわからなかったが、すぐに目の前の男は竜人以外の種族を見下していること、そして見下している種族との友好などごめんだと思っていることが分かった。また彼の近くにいる竜人たちもその考えには異論がないようで、彼の言葉や態度を訂正するような素振りは一切見せなかった。
「つまり友好は認められないと?」
「当然だ。俺たちは優しいからな。本来ならここで皆殺しにしてやってもいいが、同族もいるようだし今回は見逃してやるからその女を置いてとっとと出ていけ」
「その女だと?」
優斗が訝しげなした表情で尋ねる。
「そうだ。おいお前、竜人のくせになんでそんな下等種族たちと一緒にいるんだ?しかも見たところこの集団はお前が仕切ってるわけじゃなさそうだ。人質なりを取られてるのかどうか知らねえが、そんな奴らとは縁を切ってうちの里にきたらどうだ?同じ竜人同士、この里に来ても歓迎してやるぜ」
竜人の言葉や表情からはいやらしい気配が全くしてこない。おそらく千代の体が目当てのような下心があるのではなく、純粋に同族だから誘っているのだと思われた。
「(案外それも悪くないのか?)」
千代を竜の里に送り込み、スパイとして活動させて内部から情報を抜き取る。ばれたときの危険は大きいが、竜の里の情報を得ることだけを考えれば悪くない手ではあった。
「すまぬが断らせていただくでござる。それに拙者は人質を取られたり弱みを握られているわけではござらん。好きでこの者たちと共に行動しているのでござる」
「(まあそうなるわな)」
理性的に考えれば竜の里に入り込むのも悪い手ではないが、彼女の性格や能力を考えるとそれが難しいことは優斗もわかっていた。
また入り込んだとしても当分は監視をつけられる可能性は高いし、彼女の能力やスパイ行為がばれた時の身の安全なども考えると難しい作戦ではあった。
「下等種族となれ合っているとはな。同じ竜人としていささか不愉快だ」
竜人たちの目が先ほどまでよりも危険な色を帯びだす。
「下等種族下等種族というが、お前たちは俺たちの種族が何かわかっているのか?」
今回の優斗たちは様々な種族で構成されているが、中には一目見ただけでは何の種族なのかわからない、もしくはわかったとしてもそれが勘違いによる誤りである可能性が高い者も連れてきている。
まずそもそも優斗自身がその一人だ。優斗は魔人族であるが、見かけ上は魔人も魔族もほとんど変わらず、またクルスのように人間と見間違えられる可能性も高い。シルヴィアもヴァンパイアの特徴である羽や牙を出しているわけでもないので、彼女も人間に見間違えられる可能性がある。
またダンジョンモンスターたちも明らかに種族的特徴が出ていて、何の種族なのか一目で理解できるような者もいれば、反対に魔人族のようにもともと見分けがつきにくい種族だったり、シルヴィアのようにあえて種族的特徴を出していない者だっている。
そして全身鎧のように顔や体が見えない、もしくは見えにくい装備をしている者もいるので、一目見ただけで優斗たちの全種族を完全に当てるのは、特別なスキルの持ち主かよっぽど知識と観察眼がある者しかほぼ不可能であった。
「そんなの知るわけねえだろ!ただ一つ言えるのは、この世で竜人とドラゴンよりも優れた種族は存在しねえということだけだ!!」
「(なるほど。そういう考え方か)」
確かに竜人とドラゴンは種族としてかなり強い。実際優斗もこの世界に来てから種族的に竜人よりも強い者たちは見たことがない。おまけに竜人たちはこんな閉鎖的な場所でずっと暮らしてきたのだろう。そうだとすればこれほど増長するのも無理なかった。
「そう一概に言えるものではないのではないか?拙者も竜人であるが、自分に匹敵するような者は何人も見てきたぞ」
「それはお前が落ちこぼれの竜人だからだ!いや、もしかして竜人と下等種族のハーフか何かか?それなら俺たちのように優れていないのもしょうがないが……」
竜の里は竜人たちが圧倒的な権力を握っているようで、さらに彼らは他種族をかなり下に見ている。もちろん彼らがこうなだけで竜の里全体がそうであるかはまだ確信は持てないが、彼らの口調からはそう読み取ることができたし、少なくとも彼らはそう思っているのだろう。
共に暮らしているはずのリザードマンが何人もいるこの場でも、彼らは竜人とドラゴン以外すべて下等種族だと言い切れるのだ。これはリザードマンたちが圧倒的に下の立場で竜人に従っていなければ許されない行為である。
そしてリザードマンたちがそのことに異論を唱えることなくこの場に留まっていることを考えれば、彼らとしてもそれを否定できはしないのだろう。おそらく自分たちリザードマンが竜人よりも劣る種族であることは、頭でも体でも理解し納得しているのだろうと感じ取れた。
「彼女はハーフではなく純粋な竜人だが……、竜の里に竜人のハーフはいないのか?」
「竜の里にハーフなどいようはずがないに決まっているだろ!!この里に住むのは竜人とリザードマンだけだ。リザードマンと子をなす竜人はいないし、当然その逆もない。そもそも卵生のリザードマンと胎生の俺たちでは子供の作り方も違うんだよ!」
「なるほど」
優斗たちは彼らに友好を断られた。優斗からすれば正直竜の里との友好云々はそこまでだいじでもないのだが、それでもガドの大森林に彼らのような正体不明の勢力があることは看過できない。
優斗は竜人たちと会話を重ねながら、どうにかして里の内情を知る術がないか模索していた。
「つーかお前ら、いつまで里の前にいやがるんだ?友好は結ばないと言ってんだから、それを理解したならとっとと自分たちの里に帰れ!」
「おい貴様、黙って聞いていれば、このお方にどれほどの無礼を重ねれば気が済むのだ。我々のことを下等種族だなんだと言っているが、貴様ら如きではこのお方に勝つことは絶対に不可能なんだぞ!!」
優斗に対する竜人たちの言動に耐え切れなくなったダンジョンモンスターの一体が、竜人たちに対しその怒りを向ける。
その怒りは他のダンジョンモンスター、そしてNPCたちも持っているようで、誰もその発言を途中で止める気配はなかった。
「ほう。それは面白いではないか。下等種族が我々竜人に勝つことができるとは」
「そうですね。確かに面白い意見だ」
「ああ。どうやら向こうは俺たち竜人のことをなめているようだ。おそらく森にいるモンスターとばかり戦っていて、俺たち竜人族のような本当に強い種族とは戦ってこなかったんだろう。
良い機会だ。ここで俺たち竜人族の強さを教えてやろう。もしも善戦することができれば、お前たちとお前たちが所属しているという共同体を竜の里の支配下に組み込んでやろうではないか」
竜人たちはそう言って分かりやすいくらい戦闘態勢に入る。竜人たちは先ほどまで装備していなかった自分たちの武器防具をリザードマンに持ってこさせ、それを身に着けていつでも戦える状態にする。
「俺たちの準備ができるまで待つとは。お前たちも下等種族なりになかなか道理が分かっているではないか」
「その下等種族と戦うのにフル装備が必要なのか?」
「獅子白兎、いや竜人白兎といったところだな。俺たちはたとえ自分よりも劣る種族が相手でも、戦う以上は油断せずに挑むのだ」
装備を整えた竜人たち(ついでにリザードマンたちも)に応じるように、優斗たちも装備を整えていく。優斗とNPCは手札を隠すため本気の装備にはしていないが、竜人よりも弱いためあまり隠す意味もないダンジョンモンスターたちは、全員が本気の装備をして戦闘準備をした。