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竜の里 7

「これまでの相手とは次元が違うんだ。念のためちゃんと対策しておけよ」


  優斗は魔法で情報収集を始めようとしている部下に対し、その対策をしているかもしれない相手にはどうしたらいいか教える。


「考えられる敵の妨害手段は大きく分けて四つある。まず一つ目はこちらが見ることができないようにするパターンだ。正直相手の対策がこれだけならずいぶん話は楽なんだが、その他の三つになるとこちらにも実害が起こることになる」


  残りのパターンは幻術などと併用して相手に虚偽の情報を与えるものと、攻撃魔法と連動させて敵が魔法を自分に使ってきた瞬間相手を迎撃するもの、そして情報系魔法をかけられている間に逆探知を行うことで、自分に魔法をかけている術者の居場所を割り出すことができるものだ。


  実際優斗も優斗でいるとき、つまり『インフィニティーズ』のノームとして活動していないときは、敵に自分の情報を取られないよう常に攻撃魔法と連動しているタイプの情報系魔法対策を行っている。


  このように敵が対策を行っている可能性がある場合は、魔法を使う側もその対策をさらに対策をしなければならない。

  つまり敵に逆探知されたり攻撃魔法が飛んできたりしないよう、情報系魔法をかける前にいろいろな手段をもって防御しておかなくてはならないのだ。


「あの竜人たちがもし俺たちの尾行に気付いていた場合、奴らも情報系魔法に警戒心を強くしている可能性がある。その中でも逆探知されてこちらの情報がばれるほうことが特に最悪だ。そのためお前たちには、万全の準備をした状態で情報系魔法を行使してもらう」

「「「「「かしこまりました!」」」」」


  彼らは情報収集に特化したダンジョンモンスターではあるのだが、それでもまだレベル的に優斗たちはおろかあの竜人たちにも遠く及ばない。

  そのため彼ら自身もそういった対策を行うための魔法やスキルを持ってはいたのだが、それに加え優斗の魔法やスクロール、それにマジックアイテムなどでさらに対策を完璧にした状態で魔法を行使した。











「おーい、獲物をとってきたぞー!」

「よくやってくれた。早速解体に回しておいてくれ」


  優斗が先日見た竜人(リザードマンについては見分けがつかない)とはまた違った竜人が、これまた複数のリザードマンを引き連れておそらく北の森のモンスターであろう獲物を運んでくる。


「最近は本当に食料の減りが早いのだ。大変だとは思うが、竜の里のためにも一日しっかり休んだ後はまた狩りに出向いてもらわなければならん」

「わかってるさ。あいつらだって里のため同じように頑張ってるんだからな」


  彼らが住んでいるのは『竜の里』そう彼らが呼んでいる共同体であり、そこには竜人とリザードマンたちが暮らしている。

  人口の構成比では竜人よりもリザードマンの方がかなり多い、それこそ十倍以上の差があるのだが、実力的には竜人の方が圧倒的に上回っているからかこの地ではリザードマンよりも竜人の方が地位が高い。

  リザードマンたち自身も自分たちの方が数が多いとはいえ、実力差的に自分たちの方が下であることは受け入れている。実際里に住むすべてのリザードマンとすべての竜人が戦えば、ほとんど犠牲を出さず竜人側が勝利を収めると言う結果に終わること誰の目にも見えているので、彼らが竜人に反旗を翻したことは一度もない。


  扱い的に言うと竜人が貴族でリザードマンが平民といった感じであり、奴隷のようにこき使われることはなくとも、リザードマンたちは竜人に完全に服従している形になっていた。


  竜の里は狩猟だけでなく農耕畜産も行っており、北では珍しくむしろ狩猟よりも農耕畜産の方がメインである。また竜の里には近くに大きな湖があること、そして山脈からは雪解け水が河川となって流れてくるため良質な水が豊富であることに加え、彼らの住んでいる土地はガドの大森林の中でもとりわけ豊かで栄養豊富な大地であり植物がよく育つので、基本的に竜の里の食糧事情は極めて裕福であった。


  彼らは農耕畜産に森での狩り、それに河川や湖の魚をとること(リザードマンは肉よりも魚の方が好き)で生活しており、また竜の里は建築や鍛冶などの技術もそこそこ発展している文明的な里なのだ。


  そんな裕福で恵まれている竜の里であるが、現在では里の食糧事情がそこまで裕福ではなかった。困窮まではしていないが、それでも今は例年のような余裕がほとんどない状態であった。


  そのため里にいる戦士たちが普段以上に森にいるモンスターや動物たちを狩らざるを得なくなったので、その結果北に生息しているモンスターたちに逃げ出す者が多くなっていたのであった。


「頼んだぞ。生息しているモンスターの強さから考えて、リザードマンたちだけで挑ませるのにはかなり不安が残る。我ら竜人が一人以上いなければ厳しいのだ」


  竜人は強い。もちろんその力は個人によってばらつきがあるが、成人した竜人は性別問わず北の森の平均値を大きく上回る。竜人たちはそれほどの力を有している上、彼らは里に住み一つにまとまって生活しているので竜の里の戦力は強いのだ。

  また数はそこまで多くないが、彼らはエルフやダークエルフなどのように長命種でもある。そういったこともあって、彼らは北の森では一番強いと言ってもいいほどの勢力である。


  だがそれとは反対にリザードマンたちはそこまで強くない。それどころ、彼らは北の森という範囲で見ても弱者であった。彼らは竜人よりも増えやすいがその分力も寿命も竜人には大きく劣っているので、竜人の下で暮らさず彼らだけで暮らしていたのなら、もうとっくに絶滅していてもおかしくはない。


  もちろん北以外では生きていけるどころかむしろそこの頂点に立っていてもおかしくはないほどの力は持っているが、それでも北においては弱者であることは間違いない。種族的にも弱いし、もし今から里にいるリザードマンたち全員が竜人から独立したとしても、最終的には衰退していくと予想されるほどの力しかもっていない。


  そのためリザードマンが北で狩りをするにはかなりの規模の部隊を用意しなければ不可能である。それがわかっている里は、竜人一人にサポート役としてリザードマンを何体かつけるという部隊編成で彼らを送り出していた。


「しっかし大変だよな。今は困窮していないとは言え、俺たちが獲物を狩ってこなかったら将来的にはすぐ困窮してしまうようなペースでなくなっていってるんだろ?」

「そうだ。だがこれは決して悪いことではなく、我々にとってはむしろいいことなのだ。それに普段から感謝しておかねばならんのだぞ」

「へいへい、わかってますよ。我々の恵みはすべてそのおかげであり、我々は常に感謝し続けなければならないんだろ?」


  目の前の竜人の態度を見たところ全然わかっていない。だがその竜人よりもいくらか年をとっている彼は目の前の若者がよくわかっていない気持ちがわからんでもないので、このことについてはあまり強く言わないことにした。


「まあお前も近いうちに、我々大人がこれまで言ってきたことがわかるようになるだろう」

「子ども扱いすんなよ!俺はもう百歳を超えてるんだ。リザードマンたちにだって俺よりも年上の奴はもう数えるほどしかいないんだぞ。戦死や病死した奴を除いても、俺と同い年だったリザードマンはもう九割以上が寿命で死んでるんだ。リザードマンだったら成人どころか長老にあたる年齢なんだぞ!」

「寿命の差を考えろ。それにお前よりも年上のリザードマンで生きている者はまだいるではないか。我々の世代は、同世代のリザードマンなどとっくに全員寿命で死んでおるわ!それにリザードマンは我々竜人よりも寿命が短い分、身体的だけでなく精神的な成長も早い。

  お前と同世代のリザードマンをよく見てみるのだ。お前より精神的によっぽど成熟していることぐらい、お前だってすぐに理解できるだろ?」


  竜人とリザードマンはその寿命が大きく違うため、成熟する速度の違いも大きい。そのため大人として認められる年齢も種族によって違うため、リザードマンと比べると大人として認められる年齢がかなり遅い竜人が、そのことを不満に思うケースは珍しくなかった。


「チェッ!まあ俺も竜の里がなくなるのは嫌だからな。里のためにもしっかり休んでまた狩りに出向くとしますか」

「その意気だ。里のためにもしっかりやるのだぞ」


  狩りのため外に出ている竜人は基本的に全員が若者だ。反対にリザードマンたちは年齢に関係なく狩りに出ている、つまり若者だろうがベテランだろうが関係ないのだが、竜人の場合はリザードマンよりは年上の者ばかりとはいえ、竜人の中ではまだまだ未熟な者ばかりだ。


  竜人は年を経るほど強くなっていく。そのため狩りに出ている若者たちは竜人の中でも下から数えたほうが早い程度の実力しかない者ばかりであり、実際優斗たちが発見した竜人もその例に漏れずまだまだ未熟な若者であった。


  竜人たちにとってこれは食料解決のための手段であると同時に、若い竜人たちに経験を積ませる機会でもあるのだ。

  もちろん若い竜人たちだけでは食料を賄いきれなくなれば大人の竜人たちも狩りに出ていくつもりではあるのだが、今のところはまだ彼らに出番は回ってこなかった。


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