竜の里 6
優斗たちに尾行されている六人はそのことに気付いている素振りを一切見せないまま、いくつもの建物が並んでいる場所、規模的には街や都市というよりは大きな村というべき場所に入っていく。そこには彼ら以外の竜人やリザードマン(数はリザードマンの方がかなり多い)もおり、少なくともここが彼らの拠点の一つであることは間違いないと判断できた。
『どうやら結界が張ってあるようですね』
『だな。見たところ魔法攻撃と物理攻撃を防御する単純な結界が一枚張られているだけだ。あの程度ならここに生息するモンスターでも簡単に破れそうだ。おそらく不意打ち対策かな?』
この世界では都市に結界を張っているということはそう珍しくない。街や村に張られていることはほぼ皆無だが、それは財政上や技術的問題で張られていないだけであり、そういった問題さえ解決できればほぼ百パーセント張られているだろう。
実際ガドの大森林内にあるすべての村や街には結界が張られており、それはある程度の効果を上げていた。
『不意打ち対策か……。張られている結界がそれだけなら何とかなりそうだな』
『ああ。幸いなことに情報系魔法対策だったり、侵入者感知だったりといった効果は持っていないようだ』
結界と一口にいっても、その効果にはさまざまな種類がある。ここで張られているのは単純な防御結界だけだが、優斗の言ったように情報系魔法対策としてそういった魔法を遮断する結界や、侵入者を感知して術者や内部の者に知らせる結界、そのほかにも悪意を持った者のみを排除する結界など、それぞれ結界によって効果が大きく違う。
また結界を一枚張るだけじゃなく、二重三重と何重にも結界を張って防御を固めている都市も存在している。
結界を張ることができるのは魔法やスキルによるもの、もしくはマジックアイテムによるものの二種類に分けられる。魔法やスキルによるものの場合は一人で毎日二十四時間結界を維持し続けるのは難しいため、大半が似たようなことができる術者との交代制である。逆にマジックアイテムによるものの場合はマジックアイテムの魔力さえ持てばいいため、魔力が切れそうになったら誰かが魔力を注ぐという方法がとられることが多い。
こうやって見ると結界を張れるマジックアイテムを大量生産して、各街や都市、村にくばればいいと思うかもしれないが、生憎とそういったマジックアイテムを作るには高い技術と膨大な費用が必要になる。また当然のことながら結界の範囲が広ければ広いほど、そしてその強度や効果が強ければ強いほど、それを作るのに要求される技術や費用、それに労力が大変なものになる。
そして魔法使いを使う場合はそれが行える術者を何人も確保しておかなければならないので、結局それだけの人材を集め育てる事にもかなりの時間や労力、そして金がかかる。
そのため結界が常時張られているのは王都などのその国の主要都市、もしくは王城や貴族の屋敷や城などになってしまい、村や街などで結界を張られている場所などほとんどない。
『マジックアイテムによるものか、それとも数人体制で誰かが結界を張っているのか。常に結界を張れるということはそう簡単な相手ではないな』
ガドの大森林にある村と街はダンジョンの技術力が高いこと、そして存在している共同体の数も少ないことから、各共同体に結界を張れるマジックアイテムを一つずつ支給することができているのだ。
彼らに支給されているマジックアイテムは、単純な防御と侵入者感知の能力を持つ二種類の結界を発動できるアイテムであり、彼らが北からのモンスターに早く気づけたのもこの二つの結界のおかげである。
まず侵入者を感知する結界が村に近づいてくるモンスターの存在を感知し、さらに防御結界が時間を稼いでいる間に準備を整えるのだ。
相手が北に生息しているモンスターだから防御結界が破られたものの、そもそもそれ以外のガドの大森林に生息しているモンスターでは簡単に破れないほどの強度を誇っている結界を作り出せるそのアイテムは、外の世界に売り出せばかなりの値打ちもの、それこそ高名な貴族が金貨何千枚、下手したら一万枚以上出して購入してもおかしくないほどのものであった。
『まあどちらにせよ、あの結界は情報系魔法の対策を行っていないようだからな。俺がやってもいいがダンジョンにはそれ専用のモンスターが何体かいるんだ。そいつらに任せてしばらくは情報収集に徹するとしよう』
『よろしいのですか?それでは情報を得るのがかなり遅くなってしまいますが』
『確かにそうだが……、それでも魔法で遠くから情報収集するほうが安全だからな。まあこの程度の結界ならどうとでもすり抜けられるが、その後中で見つかって厄介なことになるよりは遠くから見ていたほうが、もしばれた時もそこまで厄介なことにはならないだろう』
結界を壊さずとも何事もなかったかのようにすり抜けるすべはある。もちろんその結界のレベルなどによってその難易度は変動するのだが、その系統の魔法を持っている優斗は、目の前の結界ぐらいなら自分だけじゃなく他に何人もすり抜けられるだろうという自信があった。
『かしこまりました。それではわたくしたちも一度ダンジョンに戻るということでよろしいですか?』
『そうしよう。ここの異変の原因は彼らではないかもしれないが、それでもあれほどの強さを持つ者たちが複数いると考えられる共同体の存在を無視することはできない。
彼ら以外の要因を見つけるための調査は引き続き行っていくとしても、当面はあの集団を監視することを最優先事項にしても問題はあるまい。俺たちを脅かすような存在がいる可能性を考えれば、いやでも情報収集せざるを得ないからな』
三人は一度ダンジョンに戻り、新たに見つけた共同体のことを伝えそこに対する監視網を引く。各所では北の森から来たモンスターたちも、NPCたちを中心とした軍勢により問題なく対処できていると言う報告が届く。
それどころかNPCたち以外からすると格上であることが多い北のモンスターと戦うことで、ダンジョンモンスターやダークエルフたちのような支配下にいる者たちの成長につながり、今のところは問題ないどころか、むしろその者たちのいい戦闘訓練にもなっているようだ。
それを聞きあまり焦らなくても大丈夫そうだと思った優斗は、腰を据えてしっかりと情報収集をしていく方針に切り替えた。